説明するとは言ったが、理解させるとは言ってない
「何でジンクがここに!? てか、人の獲物を横取りしてんじゃねーよ!」
「いや、俺は――」
「え、え!? ジンク君!? あ、でも、ハイド君もどうしたの!? あわわ、僕はどうしたら……」
「ぐぁぁ!? 焼ける!? 体が……ガァァァァァァ!?!?!?」
「はーいそこまで! わちゃわちゃしてんのはわかってっけど、とりあえず一旦落ちつこうぜ!」
「「エドさん!?」」
混乱の極みにあるドーマ達の前に、俺もまた木の陰から姿を現す。すると更なる混乱要素が増えたことで、ドーマとケインの表情が人としてどうかと思うくらいまで歪んだ。あー、こりゃ限界だな。
「よしよしよし、ドーマとケインは、何も考えずにとりあえずこっちに来い!」
「え、でもハイド君が……」
「いいからいいから! まずはこっちに来いって! ジンクはそのまま力を抜くなよ?」
「はい!」
「えっと……どうするケイン?」
「よくわかんないけど、行こうか?」
こっちにジンクがいることもあってか、迷いながらもドーマとケインが俺達の方へとやってくる。そうして二人がこっちの間合いに入ったのを確認すると、俺は徐にジンクが突き刺しているズタ袋の袋部分だけを切り裂いた。
すると中から姿を現したのは、三歳くらいに見える人間の子供。目、鼻、口、耳と顔中のあらゆる穴から血を垂れ流し、黄金の光に焼かれる苦痛にこの世の全ての怨嗟を込めたような声をあげて苦しんでいる。
「なっ!?」
「そ、そんな!?」
「子供!? お、俺、子供を――」
「大丈夫だジンク」
ドーマ達は驚愕で目を見開くだけですんだが、実際に剣を刺しているジンクの手は激しく震え、剣に宿った黄金の光も急速に揺らいでいく。ならばこそ俺が震えるジンクの手に自分の手を添え声をかけると、ジンクが焦点の合わない目で俺の方を見てくる。
「エドさん、俺……」
「もう一回言うぞ、大丈夫だ。確かに人の形をしてるが、こいつは人じゃない」
「でもっ!?」
「迷うなジンク! 今だけでいい。目に映るものより、お前自身より、今は俺だけを信じろ! もしそこに罪や責任があるのなら、そいつは全部俺のもんだ! だからその手を緩めるな。お前はここに何をしに来た!?」
「――そ、そうだ。俺は……わかりました、エドさん」
ジンクの手から震えが抜け、消えかけていた黄金の光が元に戻る。そんなジンクの背中をポンポンと軽く叩くと、俺はさっきからずっと馬鹿みたいな絶叫をあげ続ける、初対面の……だが見知った少年に声をかけた。
「おうおう、随分とえげつないことしてくれるじゃねーか。子供を殺させてその罪悪感につけ込むとか、そういう感じか?」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「確かに落ち込んでるところに『お前は悪くない』って甘く囁いてやれば、弱みを握りつつ自分に依存させられるだろうしなぁ。よく考えつくもんだ」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「あー……そろそろ普通に喋れねーか?」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」
「……ハァ、いいや。おいジンク、最後に思いっきり力入れろ!」
「は、はい! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の指示を受けて、ジンクがいい感じに気合いをいれる。すると剣の光がひときわ強くなり、貫かれていた子供の体がどろりと黒い液体となって崩れ落ち、そのまま地面に染みこんでしまった。
「溶けちまった!? 何だよこれ、どうなってんだよ!?」
「ジンク君、一体何を……って、ジンク君!?」
力を使い果たしたのか、ジンクの体がふらりとよろける。ドーマ達がそれを支えようと手を伸ばしたが、倒れたジンクをフンワリと受け止めたのは、草場の影から姿を現した三人目……優しい目をしたエルフのお嬢さんだ。
「お疲れ様、ジンク。よく頑張ったわね……エド! こっちは任せて! さ、みんなも近くに」
「ティアさん!? くそっ、もう何が何だかわかんねーぜ!」
「うぅ、僕何だかお腹痛くなってきた……」
「――ルナリーティアの名の下に、顕現せよ、『ウィンドベール』!」
詠唱を終えたティアの魔法が、ティア自身とジンク達の周囲に風の結界を発生させた。これで多少の飛び道具は防げるし……何よりあまり聞かせたくないこっちの話を聞こえないようにしてくれる。パチリとウィンクをしてみせるティアに親指を立てて笑顔を返すと、俺は改めて荒い息をする魔王ハイドの方に意識を戻した。
「で、そろそろ話せるようになったか?」
「ぐはぁ……はぁ……はぁ…………何故だ!?」
「お、何だ? 何が聞きたい?」
「何もかもだ! 何故貴様がここにいる!? 何故ジンクが勇者の力に目覚めている!? 何故分体への攻撃が、我にまで届く!? 何故だ!? 何故だ!? 貴様一体何をしたのだ!?」
「質問多いな……ならまあ、順番に答えてやるか。まず何故俺がここにいるかって言えば、そりゃ当然、俺はお前の存在を知っていたからだ」
「っ!? ば、馬鹿な! それこそあり得ん! この世界に来たばかりで、我が操る権力者などとは一切関わりを持っていなかった貴様が、どうやって我の存在を知り得るというのだ!?」
「それはまあ、ジンクのおかげだな」
「…………は? 勇者の力に目覚めた後ならともかく、単なる田舎の駆け出し冒険者でしかないジンクが、どうして我と繋がるというのだ!?」
「そりゃお前が余計なちょっかいを出したからだろ」
「?????????」
「わかんねーか? ま、そりゃわかんねーだろうなぁ」
魔王ハイドの策略により心に深い傷を負った一周目のジンクは、その存在すら誰も信じなかった地竜の出所を探るため、三人の魔王が治める三国全ての情報を探っている。
法を気にせず、情けを捨て去り、自己保身すら忘れたジンクが集めた情報は多岐にわたり、中には知っているというだけで命を狙われるものも幾つもあったが、そのなかの一つに「妖魔国の女王は、何者かに脅されている」というものがあった。
当時のジンクはそれを地竜に関係ない情報だと切って捨てたし、俺も気にしていなかった。が、「失せ物狂いの羅針盤」に女王を脅す魔王の姿が映し出されれば話は別だ。酔っ払いの戯言は確実な情報となり、ならばこそ俺達は当初の予定を変更し、妖魔国へと足を向けることにしたのだ。
無論、相手は女王。会おうと思って簡単に会えるもんじゃねーが、「不可知の鏡面」があればどんな厳重な警備でも侵入し放題、内緒話も聴き放題だ。見事女王と対面を果たした俺は、そこで色々と話をして……その結果この瞬間に居合わせられたのは多大な幸運や偶然が重なったからだが、全ては魔王ハイドが勇者ジンクを貶めることに拘ったから、というのは間違いではない。
「成功したお前が勇者を殺すことだけを目的とする奴だったなら、俺がお前の情報を得る機会はなかった。失敗したお前が短絡的に勇者への復讐を考えるような奴だったら、俺はドーマ達を守ることができなかった。
だが、どちらのお前も勇者をとことん苦しめ、その魂を堕とすことを望んだ。その欲望の隙こそが、俺がこの場に間に合った理由の一つさ。
ああ、ちなみにだが、ジンクが勇者の力に目覚めてるのは、俺が即席で鍛えたからだ。で、ジンクの攻撃がお前にまで通ったのは、ジンクがそういう勇者だからだな。
離れていても尚分かたれず。『絆の勇者』ジンクの力なら、目の前にいる本体に分体を繋ぎ直すくらい楽勝に決まってるだろ?」
「ぐっ、答えると言っておきながら、必要な情報を全て言外に押し込めて、自分だけが理解してしたり顔で頷くという最悪の糞説明をしおって……待て、一つ? ならば他にも理由があるというのか?」
「ああ。この結果に辿り着いたのは、むしろそっちの理由の方がでかいな。だろ?」
「そうでありんすねぇ」
ニヤリと笑う俺の呼びかけに、草場の影から最後の同行者が姿を現す。
「貴様は……っ!?」
「お久しぶりどすねぇ、ハイドはん?」
幾枚もの色鮮やかな布を重ねた豪奢な服を身に纏う狐顔の女性が、間抜けに口を開くハイドの顔を見て楽しげに笑った。




