言動には理由があり、行動には動機がある
「今日は本当にありがとうございました! 明日からもよろしくお願いします!」
「おう、またな」
ギルド内での話し合いを終えた俺達は、そこで解散となった。駆け出しの少年達には許容を超える事態になったことで、その頭から「お礼に飯を奢ってくれる」という話がすっかり飛んでしまっているようだが……ま、明日からも一緒に行動するわけだから、別にいいだろう。親睦を深めるという意味では、焦る理由ももう無いしな。
ということで、俺達は俺達で適当に飯を食い、宿をとって部屋で休む……はずだったのだが、後はもう寝るだけというところになって、今日もまた俺の部屋にティアがやってきていた。
「どうしたティア? いい子はもう寝る時間だぜ?」
「あら失礼。なら今夜の私はちょっとだけ悪い子みたいね……それで? 何であんな煽るような言い方をしたの?」
「さて、何の話だか……痛い痛い! 言うから!」
ほんの少しだけ不機嫌そうなティアが、おどけたように言う俺の耳をキュッと引っ張ってきた。ギルドマスターと話している最中からずっと無言でニコニコしていたが、どうやら我慢も限界のようだ。
「ったく、そうやってすぐに暴力に訴えるのは駄目だぞ?」
「フンだ、エドが意地悪するからでしょ! でも、本当にどういうこと? 私相手ならともかく、あの子達に対してはちょっと脅かしすぎじゃない?」
「別に嘘は言ってねーぜ? ただまあ、確かにあれだけ言ったのは、俺達が今後もジンク達と一緒に行動するためだな」
ギルドマスターの下した最終判断が「聞かなかったことにする」だったように、俺がした報告の後半は、「地竜が召喚されたものかも」という示唆以外は別に絶対必要だったわけじゃない。というか推測に推測を重ねて危機感を煽っただけなので、ぶっちゃけ言っても言わなくても同じだ。
では何故そんなことをしたか? その理由は明確で、こじつけでもその場しのぎでもいいから、俺達がジンク達と行動を共にする……正確にはジンク達がそうしたいと思うように仕向けるためである。
「ジンク達は剣士、重戦士、魔法師の三人組で、俺達は剣士と魔法師……まあティアは精霊使いだけど……の二人組だろ? 役職が被ってるうえに片方は駆け出し、片方は地竜を倒せる実力者ってなると、どう考えても一緒に活動する理由がねーんだよ。
それでも一緒にいようと思うなら上級者が駆け出しの面倒を見てるって感じにするしかねーけど、それだって精々一ヶ月くらいが限界だ。追放に必要な半年は流石に長すぎる。
だからこそ危機感を煽って、ジンク達が俺達と一緒にいたい、いても不思議じゃないって状況にする必要があったんだ。周囲の奴らは色々言うだろうが、ジンク達が納得してればそっちはどうにでもなるしな」
そう言って肩をすくめると、ティアが俺の耳から手を離して難しい顔になる。
「なるほど、そういうことなのね……はぁ、やっぱりエドって凄いわ。私なんて普通に仲良くなって一緒にいればいいやーとしか思わなかったのに」
「ははは、ティアだけならそれもありだろうけどな。ソロなら一時的にどっかのパーティに入るのは珍しくねーし、特にティアはエルフだから、将来を見越して新人のうちから鍛えてるなんて言い訳も立つ。
でも、俺が一緒だと駄目だ。ジンクとドーマを足しても俺一人には到底及ばないんだから、後はもう『ティアがジンク達の誰かに一目惚れして付いていこうとするも、俺がティアを諦められず強引に同行した』みたいなドロドロの理由しか思いつかん」
「嫌よそんなの! 別にジンク達が嫌いってわけじゃないけど……そんな演技をしながら毎日過ごすなんて、絶対楽しくないわ!」
「だろうな。だからまあ、ちょっと可哀想ではあっても恐怖心を煽ったってのが、理由の一つだ」
「一つ? 他にも理由があるの?」
「ああ、ある。てか、こっちが本命だ」
にわかに真剣な声を出す俺に、ティアもまた神妙な顔つきで姿勢を正す。
「少々強引な手を使ってでもジンク達と一緒にいることを選んだのは……ほぼ間違いなくジンク達が狙われてるからだ」
「狙われてる!? 誰に!? どうして!?」
「誰にかはわからん。が、狙われる理由はわかるだろ? この世界のほとんど誰も知らないことだが……俺達はジンクが勇者であると知っている」
「っ……なら、魔王軍がどうっていうのは……」
息を飲むティアに、俺は静かに頷いて答える。
「そうだ。一周目の話はしたろ?」
「ええ。本来ならジンクはあそこで仲間二人を殺されて、それでやさぐれちゃったのよね?」
「うむ。で、俺が追放される前の日に、北の魔王の配下を名乗る奴と戦闘をしたんだが、そこでそいつが『人間の住む村の近くで、地竜の召喚実験をした』って言ったんだ。その結果俺が寝てる間にジンクはその真相を調べようと一人で出て行っちまったわけだが……そんなのどう考えてもおかしいだろ」
魔王軍が実験をした場所に、たまたまジンク達が居合わせた。それだけならまだ可能性としてはあるだろう。が、呼び出された地竜は何故かジンクの仲間二人だけを殺し、ジンクは生き残らせている。本当に極秘の実験であるなら、簡単に殺せるジンクを見逃すはずがないのに、だ。
しかもその地竜はジンク達以外には一切の被害を与えず即座に送還されてるし、極めつけはジンクの前に現れた魔王軍の兵士がたまたまその実験の関係者で、わざわざジンクに事件の真相を告げて死ぬ? いくら何でも出来過ぎだろう。
「この世界には神の意志が間違いなく働いてるし、俺だって『偶然という必然』みたいな力を持ってたりするから、この一連の流れ全てが予定調和……神の定めた運命だって可能性も否定はしねーよ?
でも普通に考えたら、これは勇者ジンクを絶望で闇落ちさせるのが目的なんじゃねーかと思うんだよ。その結果どうしたいのかまではわかんねーけどな」
「なら、ジンク達はまだ狙われてるってこと?」
「それに関しては、今は何ともいえねーな。とりあえず最初の一手は潰したけど、それで諦める程度のものなのか、あるいは続くのか……ただ勇者が狙いだって言うなら、ジンクが生きている限りは次の勇者は生まれない。なら俺達にできる最善は、三人の魔王とやらの動向を探りつつ、ジンクを守ることだと思う」
「そっか……ちなみに、その三人の魔王のうち、エドの分身はどの魔王なの?」
「ん? そう言えば調べてなかったな……」
ティアに言われて、初めて気づく。確かに三人全員が俺の力の欠片ってことはねーんだから、あらかじめ確かめておくのは重要だ。俺は「失せ物狂いの羅針盤」を具現化し、俺の力の欠片を指定して捜す。すると……
「……へぇ?」
映し出されたその姿に、俺はニヤリとほくそ笑む。なるほどなるほど、これはなかなか面白いことになってるようだ。となると大幅な計画の変更が必要になりそうだが、さて……
「うわぁ、エドがまた悪い顔になってるわ……」
「人聞きの悪いこと言うなよ! まあ確かに、ちょっと色々思いついたけど」
「そんな顔をしちゃうくらい、悪いことを?」
「だな。きっといい感じの吠え面が見られると思うぜ?」
「……つまり、エドの吠え面ね?」
「おう! ……おう?」
確かに魔王は基本俺の顔なので、そうなる……のか? あれ?
「ふふふ、どんな顔なのかしら? 楽しみね。うりうり」
「そ、そうでございますね。ははは……」
ニヤニヤ笑いながら頬を突っついてくるティアに苦笑しつつ、俺は頭の中で今後の予定を練り上げていった。




