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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二〇章 水の勇者と深淵の王

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楽しいことと面倒ごと、どっちを優先するかでその人の性格が出る

「キュァァァァァァァァ!」


 口元の板っぽいものをこすり合わせて甲高い鳴き声をあげるのは、家ほどもある大きさの殻を背負った、巨大なヤドカリの魔獣。その飛び出た瞳がこちらを捕らえ、俺の体ほどもあるハサミを凄まじい勢いで振り下ろしてくるが――


「ハッ! そんな大雑把な攻撃、当たらねーよ!」


 この世界に来て、既に四ヶ月。泳ぐのではなく「水を蹴る」という移動方法を取得した俺は、素早く足を踏み込むことであっさりとそれを回避する。加えて荒れ狂う水流を利用することでヤドカリの上方へと移動し、そのまま剣を振り下ろす。が……


ガチィン!


「チッ、やっぱり殻は無理か。なら……ティア!」


「――顕現せよ、『サイクロン』! もう一個、『サイクロン』!」


 踏ん張りのない状態では、どうしても硬い物を斬るのは難しい。ならばと叫んだ俺の声に応えるように、ヤドカリの正面に陣取ったティアの手から二つの竜巻が伸びてくる。旋風を呼ぶ魔法を水中で使うことで、前方に渦巻く水流を発生させているのだ。


 ちなみに、水属性で普通に渦を巻き起こす魔法もあるが、そっちだとここみたいに完全な水中では逆に制御が難しいらしい……まあそんな専門的なことはいいとして。


「キュァァァァァァァァ!?!?!?」


 互いに外側に向かって回転する二つの渦が、ヤドカリの左右のハサミをそれぞれに捕らえて拘束する。流石に関節を砕いて腕をもぎ取るほどの威力はでないようだが、数秒攻撃できないなら十分。


「ギンタ!」


「任せるギョッ!」


 ティアの背後からまっすぐに飛び出して来たギンタが、己の左右で渦巻く水流に物怖じすることなく一直線に突き進み、手にした槍をヤドカリの顔面に突き刺す。槍の適性を持つ勇者だけにその一撃は極めて鋭く、その先端はぽっかり空いたヤドカリの口内に侵入し、その奥にある脳を貫くことに成功したようだ。


「キュァァ!? アッ、アァァッ…………」


 その瞬間、ヤドカリの体がビクリと跳ねる。最早死は免れないだろうが、生き物というのはこの状態からでも割と動く。ティアの魔法が切れ、無作為に振るわれたハサミが側にいたギンタを叩き潰そうとした、まさにその時。


「フンッ!」


 カバーに回った俺の剣が、そのハサミを関節のところから切り飛ばす。巨大なハサミがクルクル回りながら水中を飛んでいき……そうしてこの遺跡の主と化していた魔獣は、最後の悪あがきすら通すことなくその生涯を終わらせた。


「ハッハー! 見ろ、俺達の完全勝利だ!」


「やったわね」


「ギョォォ! 本当に勝てたギョ! オレ達凄いギョーッ!」


 邪魔者のいなくなった室内にて、俺とティア、ギンタの三人はパンパンと手を打ち合わせてハイタッチを交わす。するとギンタの手だけは若干震えており、どうもまだ興奮が収まらないようだ。


「何だギンタ、まだ緊張してるのか?」


「いやだって、あんなでかい魔獣を倒しちゃうなんて……」


「この三ヶ月で、それができるくらいギンタが頑張ったってことじゃねーか。大したもんだぜ。もっと自慢してもいいぞ?」


「あ、でも、私達がいないときにこんなのと戦っちゃ駄目よ?」


「わかってるギョ! オレ一人だったら遠くに見ただけで逃げるギョ!」


「ははは。ああ、そのくらいがいいだろ。ギンタはあくまでトレジャーハンターだしな」


 遺跡に潜る以上、不意に魔獣と遭遇するのは仕方がない。が、強大な魔獣の討伐はこの世界では警備兵の担当だ。倒せば遺跡を独占できるかも、なんて欲をかいて死ぬ馬鹿の話は、ありふれすぎて酒の肴にもなりゃしないのだから。


「ま、とにかくこれでこの部屋も調べられそうだな。おそらくここにあると思うんだが……」


 そんな領分違いの魔獣退治をしてまで俺達が探しているのは、ここに二つ目の鍵があると「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」が示しているからだ。


 一つ目を見つけてから、もう三ヶ月あまり。既に一〇以上の遺跡を巡り、流石にそろそろトゥーライに戻ることも考えるべきかと相談していたところで大きく羅針の方向がずれる……つまり目的地が近いということが判明し、成人前の遺跡探査の集大成としてやってきたわけだが……果たして。


「あっ!? ねえエド、ギンタ! これじゃない?」


 嬉しそうな声をあげるティアの側に近づくと、確かにその床には縦横五〇センチの正方形に線が引かれている。


「ギョォォ、正しくあの時とそっくりだギョ!」


「ほらエド、早く開けてみて!」


「おう! なら…………ん?」


 二人に急かされ、俺は線の中に両手をついて力を込める。が、あの時のようにほんのり青白い光が走ることもなければ、不思議な声が頭に響いてくることもない。


「あれ? 何の反応もねーぞ? おっかしーな。フン……ッ!」


 こすっても叩いても、何をしても蓋は一切の反応を示さない。え、どういうことだ?


「? どうしたのエド?」


「いや、何か開かねーんだけど……」


「そうなの? でもエドに開けられなかったら、誰が……あ、ひょっとして何か違う条件があるとか?」


「それは…………」


 ティアには、前回の蓋を開けた時に聞こえた台詞のことを話してある。あれが開く条件は「魔王因子」を持っていることだったわけだが……条件が違う? 魔王と対になる条件って言えば……


「なあギンタ。ちょっとここに手を置いて、力を入れてみてくれねーな?」


「オレがギョ? 別にいいギョ……ギョハッ!?」


 俺の言葉にギンタが線の中に手を置くと、あの時と同じようにかすかな青白い光が走り、その後蓋の部分が光の粒子となって消滅する。それにより支えを失ったギンタがそのままつんのめりそうになったが、その動きは予想できていたので素早く手を伸ばして支える。


「おっと、大丈夫か?」


「何か変な声が聞こえたギョ!? ユーシャインシがどうとか、ゲートキーアルファとか……ゲートキーアルファって、ひょっとしてこれのことギョ?」


 体勢を直したギンタが、開いた穴から二〇センチほどの金属の棒を取り出す。真っ白なそれは俺が手に入れたゲートキーΩ(オメガ)とそっくりな見た目だ。


「エドの持ってる鍵と色違い? こっちは白いのね」


「だな。蓋の仕掛けもほぼ同じだし、流石にこれで無関係の別物ってことはねーだろ」


「なら、これで二つの鍵が揃ったギョ? だったら……」


 ギンタの目が、少年のような輝きを宿す。そのワクワクは痛いほど理解できるだけに、俺の口元にも自然と笑みがこぼれてしまう。


 結局どれだけ調べても「この鍵が何なのか?」という情報は得られなかったが、先に鍵そのものが揃ったというのなら、やることは一つだけだ。


「ああ、後は扉のところに行くだけだ。まあその扉の場所はこれから探さないといけないわけだが。どうするギンタ? 一旦町に帰るか?」


「ギョォォ、ここまで来て帰るのは……せ、成人の儀がある日はわかってるんだギョ。その一ヶ月……いや、一週間前にトゥーライに帰れば、それで十分間に合うはず……」


「せっかくの記念日なんでしょ? あんまりギリギリはよくないんじゃない?」


「まあ一切寄り道せずにまっすぐ戻るなら、確かにここからでも二週間ありゃトゥーライまで帰れる。成人の義があるのが三ヶ月後だから、ギリまで粘るならあと二ヶ月くらいは行けなくもないだろうが……」


「ギョォォォォォォォォ…………」


 難しい顔をしたギンタが、ねじ切れるんじゃないかと思えるくらい首を傾げて考え込む。その内心はきっと、現実と浪漫の狭間で激しく揺れ動いているんだろう。


「別に扉は逃げるわけじゃないんだし、そこまで悩むなら普通に『成人の義』を終えてから探せばいいんじゃない?」


「それか、ギンタを町に置いてから、俺達で扉がある遺跡の場所だけ特定しておくとかだな。それなら儀式が終わったらすぐに行けるだろ?」


「それは流石にエド達に悪い気がするギョ。あと辿り着くまでの冒険もそれはそれで堪能したいギョ! でもオレのためにエド達をずっと町に引き留めておくのも気が引けるんだギョ……ギョギョギョギョギョ……」


「何だ、そんなことか。気にするなって。俺達は俺達で適当に時間くらい潰せるさ。何年も待てって言われたらそりゃ困るけど、帰りも適当に遺跡を巡ったり土産物を調達したりしながら進めばその分の時間もかかるし、ならトゥーライでギンタを待つのは精々一ヶ月ちょっとってところだろ?


「そのくらいなら町を見て回ったり、近所の遺跡を探索したりしてればすぐよ。何ならリーティちゃんにお土産話をしてるだけでも終わりそうだわ」


「ギョッギョッ、それは確かにその通りだギョ! じゃあ悪いけど、扉は後にして町に戻ってもらってもいいギョ?」


「いいとも。んじゃ、トゥーライの町に凱旋と行くか!」


「おー!」


「ギョーッ!」


 話は決まり、俺達は遺跡を出て船へと戻っていく。そうして船は一路トゥーライへと進み…………その途中で意識を失った。

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ん?なんで?船酔い?エドだけ?
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