規定のルートを無視したら、難易度が跳ね上がるのも致し方ない
「なんだ、そういうことだったの」
俺とギンタが一緒に出てきた経緯を聞いて、ティアが納得したように頷く。その視線が次に向かったのは、近くに座っているギンタの方だ。
「でも、ギンタはそれでよかったの? エドが攻撃できないのは変わらないんだから、そのままやったら勝てたんじゃない?」
「確かにそうかも知れないギョが、そもそも訓練なんだから勝ちも負けもないギョ。むしろエドが凄く強いことがわかってよかったギョ! あんな離れたところからハンマーシャークを真っ二つとか、一体どうやったらあんなことができるようになるギョ?」
「ん? それはまあ、地道な鍛錬の積み重ねだな」
ギンタの問いに、昼食である肉団子を囓りながら答える。実際俺には、剣にしろ鍛冶にしろ、才能と言うほど目立った何かがあるわけじゃない。永劫に続くかのようなループのなか、人の身にはあり得ない長い長い時間があったから、その一部を鍛錬に費やしてきた……本当にただそれだけのことなのだ。
「ギンタだって、やろうと思えばいずれできるようになるはずだぜ? 努力が報われるとは限らねーが、裏切ることだけは絶対に無いからな」
報われるには他人の評価が必要だが、自分が積み重ねた分は必ず伸びる。それがどれだけ小さな一歩であろうとも、積み重ねればいつか必ず、雲すら貫く巨大な山となるのだ。
「ギョォォ、何だか格好いい物言いだギョ! オレもいつか後輩に、そんな感じの台詞を言えるようになりたいギョー」
「ははは、なら頑張れ」
「頑張るギョ! エドみたいに壁をぶち破れるくらい強くなってみせるギョー!」
「壁? 何の話だ?」
「さっきの訓練だギョ。エド達は何故か、道を外れて壁を抜けてたギョ? 何であんなことしてるのかと思ったけど、なるほど、より激しい訓練のためだったのかギョ」
「……待て、どういうことだ?」
ギンタの言葉にもの凄く嫌な予感を感じて、俺は食事の手を止め問う。するとシャーティ謹製の肉団子を豪快に囓っていたギンタが、何気ない感じで話を続けてくる。
「どうもこうも、さっきの訓練は危ないところと安全なところを見分けるためのものだギョ。だから通ったら駄目なところは大量の罠を仕掛けて、通っても大丈夫なところは簡単な罠がちょこっと仕掛けてあるだけになってたんだギョ。
だから普通は安全なところしか通らないギョ。なのにエドは無理矢理に大量の罠のなかを抜けていったから……
「いやいや待て待て。いやだって……大量の罠がある通路とあからさまに簡単な罠しかない通路があったら、普通簡単な方は誘いだと思うだろ? そっちに進んだらより凶悪な罠が待ち構えてるんじゃないのか?」
「それだと何処を進んでも全部行き止まりになっちゃうギョ?」
「そうだけど、だからこそ危なそうな場所のなかから、通れそうな場所を見極めて進むんじゃ……それにほら、明らかに罠の少ない通路だけを進んだらほぼ完全な一本道だったうえに、それじゃ遺跡全体の三分の一も回れなかったはず……」
俺はこっそり「旅の足跡」を発動して、さっきの遺跡の内部構造をもう一度確認する。やっぱりそうだ、これは明らかに行動制限をさせて誘導する罠――
「そりゃ相手は初心者なんだから、目の届かない変なところに行かないようにするのは当然ギョ? 特に今回はオレ一人だから、オレが想定していた活動範囲は大分絞ったんだギョ」
「っ……い、遺物は遺跡全体のどっかに隠すって……瓦礫の下とか、調べるところはいくらでも……」
「瓦礫の下にあるような遺物は、高確率で壊れててお金にならないギョ。勿論そうじゃないこともあるけど、そんな見極めは知識と経験を積んだトレジャーハンターじゃないと無理だギョ。
だから初心者はある程度原型を留めている棚とか箱とか、そういう場所の遺物を探すのが基本なんだギョ。オレの隠した遺物も、ちゃんとわかりやすいところにあったギョ?」
「…………ああ、あったな」
「ねえギンタ。ちょっといい? なら今回の訓練って、本来ならどういう感じに進むものだったの?」
思わず頭を抱えてしまった俺に変わって、肉団子を小さく千切りながら食べていたティアが問いかける。その答えはあまり聞きたくなかったが……無情にもギンタは平然とそれを口にしてしまう。
「罠によって塞がれた場所を避けて、安全な通路を進んでいくギョ。すると部屋に辿り着くから、そこにある現状を留めている家具とかの中を探すギョ。それを遺物が見つかるまで何部屋か繰り返す感じギョ。
その途中にはオレが現れるけど、オレはわかりやすく歌を歌いながら近づいていくし、きちんと姿が見えないように隠れていたら部屋の中は探さないギョ。最後は遺物を手に入れた時点でオレが直接追いかけるようになるギョが、ここでも安全な通路できちんと隠れていた場合は、見失ったことにするギョ。
あ、勿論音を出したりしたら別だギョ? だからそれを利用してオレを誘導し、いい感じに逃げ切ったら訓練は終了……って感じだギョ」
「へー。つまりギンタがエドを追い詰めてたのは、エドが隠れなかったり、私が誘導したりしなかったからってこと?」
「そうだギョ。正面切って普通に逃げられたら、そりゃ追いかけるしかないギョ」
「だって。どうエド?」
「……………………」
ニヤニヤと笑いながらこっちを見てくるティアに、俺は憮然とした表情で無言を貫く。チッ、まさか自分の中の常識、思い込みに振り回されて、無意味に訓練の難易度をあげていたとは……
「いやー、いきなりエドが通す予定のない罠の方に行って、しかもそこを突破された時にはどうしようかと思ったギョが、前の誰かが訓練に使った罠がそのまま残ってて助かったギョ。
それにどうしてあんなことをしたのかとも思ったけど、今の話を聞いてやっと意味がわかったギョ! 流石はエド、日々の鍛錬を欠かさない、やる男だギョー」
「……………………ま、まあな」
「ふっ、くっくっく…………」
何処か尊敬のようなものを込めて言ってくるギンタに、俺はそっと顔を逸らしながら辛うじてそう答える。するとすぐ側でティアが必死に笑い声を堪えているような気がしたが、きっと気のせいなので完全に無視しておく。
「よ、よし! とにかく訓練は合格ってことなら、今後のちゃんとした遺跡探索は大丈夫そうか?」
「勿論だギョ。これなら次はもう、近所の遺跡なら普通に入っても大丈夫そうだギョ」
「ならそうするか……おいティア、いつまで笑ってんだよ」
「べ、別に笑ってなんか……くひゃっ!?」
未だに顔と耳をヒクヒクとさせているティアに対し、俺はその無防備な脇腹を指で突いてやる。するとティアの体がピクンと跳ね、翡翠の目が俺を睨み付けてくる。
「何するのよ! エドのえっち!」
「えっちじゃねーよ! ほら、さっさと食って、午後は組み手とかしようぜ。もう少し戦闘時の動きを慣らしたい」
「はいはい。それってギンタもやるの?」
「そりゃやるだろ。なあギンタ?」
「ギョッ!? ま、真っ二つにされたりしないギョ?」
「しねーよ! それに単純な動きで言うなら、今はまだギンタの方が上だと思うぜ? あの時魔獣が襲ってこなかったら、捕まってた可能性は否定できねーし」
俺達と違って、ギンタはその体も意識も水中で活動することに最適化されている。何でもありなら俺の勝ちは動かないが、単純な追いかけっことかだと普通に負ける目もあるだろう。
「むしろこういう広くて何も無いところの方がきついかも知れねーな。てわけだから、ギンタも付き合え。一緒に強くなろうぜ?」
「一緒に強く……何て浪漫溢れる台詞だギョッ!? わかったギョ! オレも一緒に訓練するギョ!」
その台詞が心の琴線に触れたのか、ギンタが猛烈な勢いで残りの肉団子を口の中に詰め込んでいく。そのやる気はしっかりと訓練にも現れ、俺達は充実した初日を終えることができた。




