たとえ希少であったとしても、使えないなら貴重にはならない
「ギョギョーッ!? 変な物の上に、変な奴らがいるギョッ!? オレ達と似てるけど、何者だギョッ!?」
「あ、あの…………」
「ギョッ?」
水面から顔を出す男に、俺達はまだ濡れている服を素早く身に付ける。それからティアが声をかけると、鱗まみれの男はこっちに顔を向け、そのままゆっくりと首を傾げた。
「……え、まさか話しかけられたギョ? いやいや、そんなはずは――」
「あの! こ、こんにちは……?」
「……………………ギョァァァァァァァ!? シャベッタァァァァァァァァ!?!?!?」
「ひっ!?」
奇声を上げてバチャバチャと暴れ回る男に、ティアが顔を引きつらせて伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。そうして俺を見てきたが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「ちょっ、エド! 何なのこの人! 人なのよね!?」
「ああ、人だぞ。なあ、おい」
「喋った!? 喋ったギョ!? 水の上にいて言葉を話すなんて、まさかコイツら、伝説の『丘の人』なのかギョッ!?」
「おーい、まずは落ち着いて俺の話を――」
「凄いギョ! 大発見だギョ! 早速捕まえて、友達に自慢するギョ!」
「いや、だから話を――」
「確か『丘の人』は水に落ちるとアワアワするらしいギョ。ならこの変なのの底に穴を開けてやれば――」
「話聞けよ!」
「ギョハッ!?」
俺の投げた銅貨が、バシンといい音を立てて男の額に直撃する。それにより一瞬身をのけぞらせた男は慌てて俺達から距離を取り、船から五メートルくらい離れたところで停止して声をあげた。
「こ、攻撃されたギョ! 伝説の『丘の人』は凶暴だギョッ!」
「俺の話を聞かねーからだろ! あと船に穴開けようとするなよ!」
「ギョ? 船? 何を言ってるギョ。船ってのは水中を早く進むのに使うもので、こんな形はしてないギョ?」
「あー、そう言えばそうだったな……いやそうじゃない。そういうことじゃなくて、俺達が水に入れないってわかってるっぽいのに沈めようとしたんだから、そりゃ敵対行為だろ? お前はあれか? 言葉が通じる相手を会話もせずに一方的に捕まえるような極悪非道な奴なのか?」
「ギョギョッ!? それは酷い言いがかりだギョ! 一七にもなっていつまでも遊んでないで仕事しろとは言われるけど、悪人呼ばわりされる謂れはないギョッ!」
「えぇ、それはそれでどうなの?」
男の言葉に、ティアが何とも微妙な表情になる。ちなみにだが、多くの世界で成人は一五歳なのに対し、この世界での成人は一八歳だ。なので一七歳はギリギリ子供である……あくまでも制度の上では、だが。
「あー!? 何でそういう目をするギョ! あーもう駄目だギョ。繊細なオレはとっても傷ついてしまったギョ。これはギョラン堂のとろーり赤ブドウパフェを奢ってもらわないと一生立ち直れないギョ」
「何それ、美味しいの?」
「そりゃ美味しいギョ! ギョラン堂と言えば行列のできる名店だギョ! オレのお小遣いじゃ三月に一回しか食べられないギョ!」
「へー。ちょっと興味あるし、お店に案内してくれるならご馳走してもいいけど」
「本当かギョッ!? ギョォォ、『丘の人』のメスは太っ腹だギョ! 丸々と肥え太ってるギョッ!」
「…………やっぱりやめたわ」
「ギョギョッ!? 何で不機嫌になるギョ!? まさかあからさまに褒めすぎたギョ!?」
「待って、今の褒め言葉だったの!?」
「当たり前だギョ。優しく丸く膨らんだお腹は、全人類の憧れだギョ。ひょっとして『丘の人』は違うギョ?」
「それは――」
「待て待て待て待て! 話が脱線してるから! 一旦仕切り直させてくれ!」
何故か普通に会話をし続けているティアと男に、俺は大声と身振りで割って入る。いつの間にか誰とでも仲良くなれるのはティアのいいところだが、流石にこれでは話が進まない。
「まずは……そうだな、お互い自己紹介しよう。俺はエド。で、こっちは――」
「ルナリーティアよ。ティアでいいわ」
「オレはギンタだギョ。よろしくだギョ」
俺達の名乗りに、勇者ギンタは水面から手を上げて答えてくれる。ああ、懐かしい名前だ……そうだよな、ここで溺れた俺を拾っていくことになるんだから、そりゃ今の段階でこの辺にいて当然だよな。出会いをどうしようかと思ってたが、悩む必要はなかったようだ。
「それで、二人は一体何者だギョ? 体つきは似てるけど鱗も無いし、やっぱり二人は伝説の『丘の人』なのかギョッ?」
「それは……っていうか、そもそもえるたーたん? って何?」
「何って、言葉のまんまだギョ。この世界には大昔、ちょっとだけ水の上に地面がある時期があったんだギョ。で、そこで暮らしていた水の中で生活できない人達のことを、オレ達は『丘の人』って呼ぶんだギョ」
「へー。そうなると私達はその『丘の人』でいいの?」
「厳密には違うんだろうけど、水の中で暮らせないって意味じゃ、そうかもな」
「ギョォォ、凄いギョ! 本物の『丘の人』だギョ!」
俺達の言葉に、ギンタがまたも興奮して水面をバシャバシャと叩き始める。気づけば五メートルあったはずの距離は一メートルほどにまで縮まっており、その顔からは警戒心がスッポリと抜け落ちているようにみえる。
「自慢したいギョ! 父ちゃんと母ちゃんと妹と友達に自慢したいギョ! エドとティアの二人を、オレの家に捕獲……招待したいギョ!」
「ははは……今のは聞かなかったことにしてやるけど、次言ったら頭の鱗を毟るからな?」
「ギョォォッ!? 何て恐ろしいことを言うギョ!? この歳でハゲは嫌だギョッ! わかったギョ。二人を家に連れて行くのは諦めるギョ」
「ああ、そっちは別にいいぜ?」
「ギョ?」
「だから家に行くのはいいって言ってるんだよ。ちゃんと友人として招待してくれるんだろ?」
「ギョォォォォッ!? ほ、本当かギョッ!? やった! これで周りの奴ら全員を見返してやれるギョ! オレは立派なトレジャーハンターであって、断じて穀潰しではないのだギョ!」
ニヤリと笑って言う俺に、ギンタが今までで一番の雄叫びをあげてはしゃぎ始める。その姿は微笑ましいと言えなくもないが、そこはかとなく漂う残念感は隠し切れていない。
ま、それはいい。問題はここからだ。
「ただな、知ってるとおり、俺達は水中では活動できねーんだよ。だからそれを可能にする魔導具が必要なんだが……」
「ああ、これのことギョ?」
困り顔で言う俺に、ギンタが無造作にそれを取り出す。赤くて丸い石の周囲に金属の飾りのついたそれは、身に付けることで水中での活動を可能にしてくれる魔導具で……って、違う、そうじゃない!
「えっ!? ちょっ、何で持って……いや、持ってるのはいいとして……」
あの時も溺れた俺を助けたのだから、持っていることには不思議はない。というか、よく考えればこの時点で持っていなければ俺は普通に死んでただろうしな。なので重要なのはそこではなく……
「なんで二つも持ってるんだよ!?」
「ついさっき、ちょうど遺跡漁り……ギョフン、トレジャーハントをしているときに見つけたギョ。他に価値があるものが見つかったら捨てればいいと思って鞄に詰めていたギョが、早速役に立ってよかったギョ! これもヌオー様のお導きギョ!」
「そ、そうか…………」
ギンタの言葉に、俺はガックリと肩の力が抜けるのを感じる。あの時も二つ持ってたのか、それともティアが来たことで微妙に世界が変わったのかはわからねーが……ああ、どうしようかと考えてたのが馬鹿らしくなるな。
「じゃあ、これあげるからウチまで来て欲しいギョ!」
「ハァ、わかった。ならありがたくもらっとくよ」
とにもかくにも、こうして俺は水だらけの第〇一二世界を自由に動き回る手段を手に入れることに成功した。




