成果は結果で語られるが、誠意は過程で評価される
そうして見事ボスを倒し、俺は割とあっさりと目的の物を手に入れることに成功した。後はティア達のところに戻るだけなのだが……
「あー、やっぱ開かねーのか」
ボスを倒しダンジョンコアを手に入れたら開くかも? と思っていた封印の扉は、相変わらず閉まったまま。やはりここを通り抜けるにはもう一度「不可知の鏡面」を使うしかないらしい。
仕方が無いので、俺はその場で時間を潰すことにした。さっきの戦いを反芻して剣を振ったりして時間を過ごすと、おおよそ五時間くらい経ったところで急に辺りが暗くなり始めた。慌てて「彷徨い人の宝物庫」からランタンを取りだしつつ調べてみると、どうやら松明が燃え尽きてしまったようだ。
「うわ、マジか……」
おそらくはダンジョンコアを俺が手に入れてしまったことで、魔法的な力で消えることなく燃え続けていた松明が普通の法則に戻されたのだ。つまり俺が白布を倒しコアを手に入れたあの瞬間から、ここはダンジョンから遺跡に……モンスターは死んだら蘇らず、罠や宝箱も復活しないごく普通の建造物に成り果てたのだろう。
となればあの「封印の扉」も、今はただの石扉となって壊せる可能性は高いが……
「……いや、駄目だな」
壊すだけなら手段は幾つか思いつく。が、魔法的な守りが無くなったということは、強い衝撃があれば遺跡が崩壊することもあり得るようになったということだ。脱出手段が何も無いというのならともかく、敵もおらず飲食にも困らない状況で一日待てば確実に出られるのに、無茶をする意味など無い。
ということで、俺は普通にそのまま時間を潰し続けた。「彷徨い人の宝物庫」から出した飯を食って水を飲み、部屋の隅っこで用を足して野営用の外套にくるまり……そうして自分の中で「不可知の鏡面」が再使用可能になったのを感じると、それを使って何事もなく扉を通過。すると少し先にはティアやニコ達の姿が見える。
「おうみんな! ただいまー」
「エド! おかえりなさい!」
今回もすぐに能力を切って手を上げながら声をかければ、ティアが屈託の無い笑顔で俺を出迎えてくれる。それに少し遅れて駆け寄ってきたのはニコだ。
「エドさん! よかった、大丈夫だったんですね!」
「ああ、勿論。ティアから話は聞かなかったのか?」
「聞きましたけど、それでも心配はしますよ! だって僕にはエドさんが目の前でいきなり消えて……今も閉まってるはずの扉の方からいきなり出てきたようにしか見えないですから」
「……それもそうか。ま、とにかく大丈夫だ。ありがとな」
軽く笑いながら俺がニコの頭をグリグリと撫でると、ニコが困ったようなくすぐったそうな顔でそれを受け入れる。そんな俺達にカナンとアリエールもまた近づいてきて話しかけてくる。
「お疲れ様ですエドさん。ご無事で何よりです」
「それで? 扉の向こうはどうなってたの? ダンジョンの照明が消えたから、コアを確保できたんでしょ?」
「勿論。扉の向こうに白い布を被ったみたいなモンスターがいてな。割と強かったんだが、そいつを倒したら出てきたのが……これだ」
言って、俺は「彷徨い人の宝物庫」からあらかじめ移しておいた青白い宝玉を、腰の鞄から取り出してみせた。するとカナンがジッと顔を近づけてきて、まじまじとそれを見つめてくる。
「どう、カナン?」
「ええ、間違いなく本物ね」
ニコの問いに、カナンが答える。そしてその答えに、俺は思わず苦笑する。
「おいおい、俺がすり替えるとでも思ってたのか?」
「念のためよ。それともアンタ、確かめもせずにホイホイ信じられた方がいいの?」
「ははは、確かにそっちの方が嫌だな」
自分にやましいことがないなら、目の前できっちり疑われて調べられた方がいい。そこで双方の合意が得られれば、後に「実は偽物だっただろ!」なんて難癖を付けられることがなくなるからな。
「ってことで、こいつが勇者様のご所望の魔導具……が入ってるのか? とにかくこの遺跡のダンジョンコアだ。ほれ、無くすなよ」
「あ、ありがとうございます!」
ニコの小さな手に、俺がダンジョンコアを乗せる。するとニコは嬉しそうな顔で受け取ろうとして……しかし横からカナンがサッと奪い取る。
「カナン!? 何を――」
「待ってニコ。ねえ、結局アンタは何でアタシ達に協力してくれたわけ? 何が目的なの?」
「カナン! 親切にしてくださったエドさん達に、そんな言い方は……」
「アリエールは黙って。この世にタダより高いものなんてないのよ。アタシは無償の協力なんて信じない。先に受け取って白紙の請求書にサインするつもりはないの」
「なんだよ、随分今更だな。そんなの最初に確認することじゃねーのか?」
ニヤリと笑う俺に、カナンがジッとこちらを睨んでくる。
「まさか本当に黄の宝珠無しで『封印の扉』を突破できるなんて思わなかったからよ。変な犯罪に巻き込まれたり、体よく利用されてダンジョンコアだけかすめ取られる可能性だってあったから、あえて深入りしなかったってだけ。
でも、アンタは間違いなく本物のダンジョンコアを手に入れてきた。そんな人物がアタシ達に……勇者にどんな要求するつもり?」
「フフフ、なら教えてやろう。確かに俺達の目的……要求は、勇者の力を利用することだ」
「っ!? やっぱり――」
「そう! 勇者の力を利用して、魔王を倒してもらう!」
「怪しいと…………あれ?」
大げさな身振りと共にドヤ顔で宣言した俺に、カナンがその動きを止める。だが俺はそれを意に介さず、更に言葉を続けていく。
「俺達の目的も魔王の討伐でな。そのために力を磨き技術を身に付け、色々と努力してきたんだが……ほら、やっぱり最後の決め手は勇者だろ? だから一緒に魔王を倒してもらおうと思ってるんだよ」
「うわ、僕と同じ目的なんですね! 凄く嬉しいです!」
「ええ、本当に。私達が出会うのは神のお導きだったのでしょう」
「えっ、ちょっ…………ほ、本当に?」
「ああ、本当だぜ。なあティア?」
「勿論よ。一緒に魔王を倒しましょう?」
「……な、なら何で最初からそう言わないのよ!」
「いやだって、誰だかわからない奴にいきなり『仲間にしてくれ』って言われたって困るだろ? だからこっちの実力を見せられる機会をどうやって作ろうかって考えてたんだけど、そこにちょうどあんた達が困ってる場面に出くわしたから、こりゃいいと思って利用させてもらったんだ。
で、どうだ? 俺達は『勇者パーティ』に合格か?」
「勿論です! ティアさんとは昨日いっぱい話して少しだけ実力も見せてもらいましたし、エドさんだってダンジョンコアを手に入れられるくらい凄いなら、僕としては大歓迎です!」
「私も勿論、歓迎致します。勇者様はまだ幼く、私もカナンも女性なので、頼りがいのある男性がいてくれるのは助かりますし」
「うぐぐ……ま、まあそっちの娘と一緒なら、アタシ達に不埒なことはしないでしょうけど……」
「だって。えっちなことを考えちゃ駄目よ、エド?」
「考えねーよ! ったく……じゃ、改めて。ほれ、返せ」
「あっ!?」
ニヤニヤ笑うティアを無視して、俺はカナンからダンジョンコアを取り返すと、ニコの手に持たせる。そしてその上から包み込むように俺の手を重ねていく。
「よろしくな、ニコ!」
「はい! よろしくお願いします、エドさん! ティアさん!」
「あ、私も! フフッ、よろしくね」
「よろしくお願いします、お二人とも」
「何よ、アタシだけ警戒して馬鹿みたいじゃない……よろしく」
俺の手の上にティアやアリエールの手も重なり、最後に若干ふてくされ気味のカナンがそっぽを向きながら手を重ねて……こうして俺達は、正式に『勇者パーティ』の一員になることに成功した。




