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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一九章 少年勇者と欲望の魔王

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鉄と鉄を打ち合わせたら、鍛えられるのが世の道理だ

「ほいっと」


 あらゆる物を通り抜ける追放スキル「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」を起動してから、わずかに一秒。たった一歩進んだだけで、俺は見事に勇者ニコ達を悩ませていた「封印の扉」の突破に成功した。


 うーん、思った以上にあっさりだったな。万が一通り抜けられなかったら周囲の壁や床、天井なんかを抜けようと思っていたり、それでも駄目なくらい強固な封印が為されているならカジノから黄の宝珠(イエローオーブ)をこっそり拝借……ゲフンゲフン、大義のために一瞬だけ借り受けることも検討していたのだが、どうやらその必要はないらいし。


 ということで、扉の向こうに来ることそのものには成功したのだが……


「暗いな……何も見えねーぞ?」


 扉の向こうは、真っ暗な空間だった。勿論開くべき扉が閉まっているのだから暗いのは当然なんだが、それにしたって暗い。「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」の発動中は物の見え方が変わるというか、物体の輪郭が強調して見えるような感じになるのでまだ何とかなってるが、通常の視覚でいうなら目の前に近づけた自分の指先すら見えないだろう。


 持続時間は三時間あるものの、一度解除すると一日使えなくなる「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」を有効活用すべく、当初はこのままの状態で部屋の奥を探り、あわよくば件の魔導具が入っているというダンジョンコアを見つけようかと思っていたんだが……こりゃ普通に戻ってランタンでも出さねーとどうしようもねーな。


「仕方ない……おおっ!?」


 俺が「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」を解除した瞬間、左右に立つ一番近い柱にボッと松明の火が灯る。そのままゆっくり歩き始めると、一定距離に近づくごとにその近くの柱に取り付けられた松明の火が灯るようだ。


「なるほど、姿が消えてたから入場判定されなかったってことか。で、随分とあからさまな誘導だが……」


 まるで王の通り道であるかのように、足下の床には赤い敷物がまっすぐに敷かれており、そこを進めば左右に並んだ柱が導くように松明に火を灯していく。部屋自体は随分と広いので道を逸れる事もできるが、確実に何かあるはずの場所を無視して何があるかもわからない暗闇を調べて回るのは迂遠に過ぎる。


「へぇ、こうきたか」


 そんな道を歩いた先に待っていたのは、白い布を頭から被ったような姿をした謎の魔獣……じゃなく、モンスター。背丈は俺の胸ほどまでしかなく、布の裾から人間のような足が二本伸びているが、布の内側に隠れているのでなければどうやら腕はないっぽい。


「……こいつ、強いな?」


 こんなところに単独で配置されてる時点で弱いはずはないのだろうが、それを別にしてもこの白布からは強者の気配を感じられる。そしてその勘は外れる事無く、白布が床を蹴った瞬間、その姿が一瞬にして俺の眼前に迫る!


キィン!


「ぬおっ!? ってマジか!?」


 繰り出された閃光のような蹴りを受け止めると、俺の手に硬い手応えが伝わってきた。つまりあの足は見た目と違って金属のような硬さがあるってことだ。


 おまけに白布は、地に足を着くことなく三度蹴りを放ってきた。単純に空を飛んでいるとかではなさそうだが、何らかのイカサマを使っているのは間違いない。


「チッ、随分と速いじゃねーか! なら次はこっちの番だ!」


 流石に四度目の蹴りはなく、床に下りた白布がこっちに飛んできたのと同じ勢いで背後に飛ぶ。ならばと俺はそれに追いすがるように床を蹴り、その胴体と思われる白い布に「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」で切りつける。


キィン!


「へ!? 嘘だろ!?」


 ふわりと風に舞っているというのに、聞こえたのは甲高い音と足を切りつけた時のように硬い手応え。まさかあんなフワフワしてやがるのに、全身硬いのか!?


「完全に見た目詐欺じゃねーか! くっそ!」


 そんな白布に俺は何度も切りつけるが、どうにも刃が通らない。単に硬いだけ、あるいは柔らかいだけなら幾らでもやりようがあるが、金属の硬度を持ちながら布のようにたわんで力を吸収する存在なんて切ったことがないので、どう力を込めれば切れるのかがわからないのだ。


「くっ、このっ!」


 敵の攻撃手段は、基本的に二本の足のみ。だというのにそれが変幻自在に襲いかかってきて、的確に俺を追い詰めてくる。俺も反撃を試みたいところだが、今のところ合わせるだけでもなかなかに厳しい。


 とまあそんな状況ではあるが、実は羽付きを倒す時に使っていた攻撃をすれば、こいつはおそらく簡単に倒せる。が、あれはあくまでも通常攻撃が通じない相手に対するやむを得ず使う技であって、普通に攻撃が通じる相手に使う技じゃない。あれに慣れちまうと、おそらく俺の腕はあっという間に鈍っていくことだろう。


 あるいは「不落の城壁(インビンシブル)」を展開すれば、防御を完全に捨てても無傷でいられるだろうが、それもまた違う。いざって時の切り札はあくまでも切り札であり、常用したらそれが通じない相手……それこそ絶対負けられないような勝負で足をすくわれることになる。


 だから、この状況はいい。戦場には俺と白布の二人だけ、余計なものを気にすることなく戦いにだけ集中できる環境にて、俺はこいつを砥石にして「普通の剣士」としては微妙に曇り気味だった自身を磨き上げていく。


「もっとだ! もっと速く! もっと鋭く!」


キィン! キィン! キィン!


 鞭のようにしなり槍のように伸び、剣のように切り裂き鈍器のように叩きつける。そんな白布の二本の足を捌きながら、俺は知らずその顔に笑みを浮かべていた。


 ああ、これだ。この感覚だ。鍛冶に集中しているときのように、俺の思考を戦いだけが埋め尽くしていく。


 斬る、突く、払う、背にして受け止め、刃で切り裂く。白布の足に呼応するように俺の剣も踊り狂い、押されていたはずの戦況が徐々に拮抗に、そして優勢へと変遷していく。


キィン! キィン! キィ――ブシュゥ!


 遂に完璧な角度で切り込んだ俺の剣が、白布の左足をすねのところで切り飛ばした。吹き出した血は人と同じ赤い血だったが、着地した白布は痛みを感じていないかのようにそのまま俺に飛びかかってくる。


 だが悲しいかな、片足は片足。最後のあがきとばかりに血の吹き出す足を振り回して俺の視界を塞いでから攻撃しようとしたようだが……


「悪いな、それは通じねーよ」


 俺は自分の腕を顔の前に持ってきて、その血しぶきを防ぐ。塞がれるまでもなく、もはや視覚など必要ないのだ。強敵を相手に、半分になった膂力で俺に攻撃を通そうとするなら……その軌道はこれしかないのだから。


キィィィン!


 白布の放った乾坤一擲の蹴り。だがその先には俺の置いた(・・・)夜明けの剣(ドーンブレイカー)」があり、自身の蹴りの威力で白布の右足首があらぬ方向にすっ飛んでいく。


 その結果、白布がべたりと床に落下した。両足を失い立ち上がることすらできずに床に這いつくばるその姿は、敗者に相応しい無様な姿か? 答えは――否。


「――フッ」


 不用意に近づく俺に、顔を上げた白布が最後の力で体当たりをかましてきた。そしてそれを予想していた俺は、白布の体で唯一布がたわんでいない部分……頭部からその体を両断する。すると切り裂かれた二枚の白布から黒いもやが立ち上り、ただの布と成り果てたそれがヒラヒラと床に舞い落ちた。


「ふぅ…………」


 数秒の残心の後、俺は漸く息を吐いて体から力を抜いた。落ちて重なり合っていたはずの布はいつの間にか一枚の布に戻っており、俺がそれを拾い上げると、その下からほのかに青白い光を放つ半透明の宝玉が姿を現した。


 その存在には、見覚えがある。一周目の時に他のダンジョンを攻略した際、その最奥にあったのと同じ物だ。


「つまりこれがダンジョンコアってことか。ならこれで目的達成だな」


 俺は徐にダンジョンコアを「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」にしまい込むと、最後にもう一度奴が倒れ伏した床に視線を落とす。


「いい勝負だった……お前、強かったぜ」


 聞く者のいない賞賛を口にすると、俺は静かに剣を収めて微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
こういう中のキーアイテム取りに行くだけの部屋って、中の物を取った瞬間にマップに大きな変化が起きるタイプならともかく、大抵は扉開放のフラグとアイテム入手のフラグが連動していないから壁抜けでアイテム取ると…
[一言] なかなかに熱い展開のはずなのに、あのお姿がちらついてしまいにやけてしまいました。 次回も楽しみにしております
[気になる点] メシェド様じゃないか!
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