考えてもわからないことは、害がないなら気にするな
「着いたわ、ここよ」
「おー、これはこれは……」
目的の魔導具を取ってきてやる……そんな俺の提案に、しかし勇者達は条件付きの同意を返してきた。即ち「自分たちも一緒に行って、その入手を見届ける」というものだ。
そこにはおそらく「出会ったばかりの相手を信用して、適当な偽物を掴まされたらたまらない」という考えがあったんだろうが、俺達としてもそっちの方が都合がいい。何せその功績で勇者パーティに入れてもらうと考えていたのだから、ぶっちゃけ報酬の前払いをされてるようなもんだからな。
そうして俺達が辿り着いたのは、砂漠を歩き進んだ先にあった、やたらでかい石造りの三角形。見上げるほどの大きさの建造物の中腹にはぽっかりと黒い口が開いているが、周囲に人の気配はない。
「凄い遺跡ね。でもこんなに立派な遺跡なのに、他にここを探索する人はいないのかしら?」
「ああ、それは……」
「ここって儲からないのよ。罠ばっかりやたらと多いし、出てくるモンスターもアンデッドばっかりでお金にならないの。コアが生きてるから宝箱は再生成されるけど、その中身もよくわかんないガラクタが多いし……」
「…………? 罠が多いのはわかるけど、それは解除すれば終わりでしょう? それに宝箱が再生成?」
「あー、いやいや! そりゃ確かに人も来ないわな。じゃあとりあえずその封印の扉とやらの前までは、あんた達に先行してもらう形でいいのか? 俺達もそれなりに戦えるけど」
「はい、いいですよ! 僕達はもう三回目ですから!」
ティアの言葉を遮り、慌てて大きな声で言う俺にニコが笑顔で頷く。そうして全員で遺跡に向かって歩いていくなか、俺が手を繋ぐとティアがすかさず「二人だけの秘密」を発動してくる。
『ねえエド、今の何?』
『あー、あれだ。この世界では地下迷宮とは違う意味での「ダンジョン」ってのがあって、どうやっても壁から外せないけどずっと燃え続けてる松明が等間隔で壁に設置されてたり、中の罠とか宝箱とかが復活する遺跡があるんだよ。仕組みは知らねーけど、とにかくそういうものだと思っとけば間違いない』
『えぇ……何だか随分不思議な世界なのね。あ、ひょっとしてゴウさんの世界で、突然宝箱が置いてあったのと同じ感じ?』
『うーん、向こうの世界の仕組みがわかんねーから何とも言えねーけど、それで納得できるならいいんじゃねーか?
ちなみにダンジョンにはコアっていうのがあって、それが壊れると普通の遺跡に戻るらしい。で、コアのなかには大抵値打ち物の魔導具とかが入ってるから……』
『ニコ達の狙いはそれってわけね、了解』
「ほら、そろそろ中に入るわよ! いくらアタシ達が先行するからって、油断しすぎないでね?」
「おっと、悪い。大丈夫だ」
ティアへの説明を終えたところでカナンに声をかけられ、俺達は手を離して互いに周囲を警戒し始める。その様子を見たカナンがピクリと眉を釣り上げ、ニコが驚いたように目を見開いて俺達を見る。
「あの、ひょっとしてお二人って、見た目よりずっと強いですか?」
「お、わかるのか?」
「ええ、まあ。これでも勇者ですから」
「人のことが言えるような歳じゃないけど、その若さでそれだけやれるなんて、アンタ達何者?」
「そうですね。若い男性とエルフの女性の二人パーティというだけでも大分目立つと思いますのに、そのうえ腕も立つというのであれば、噂になっていてもおかしくないと思うのですが……」
「ははは、目立つ奴ってのは目立つように活躍してるからさ。無駄に功績を誇ったりしなけりゃ、それこそまじゅ……モンスターの群れから町を救ったとか、そういう状況にでもならなきゃ名が売れたりはしねーよ。
特に俺達の場合は、そういうの割と気をつけてたからな。ほら、ティアがこうだから」
「何? 私に何かあるの?」
俺の顔の前に、ムッとしたティアが顔を近づけてくる。だがその顔を俺はぐいっと押しのけてやる。
「そういうとこだよ! ティアは何処に行ってもすぐ人気者になっちまうから、俺が寂しい思いをしないようにしてもらってるってことさ」
「あら、そうなの? フフーン、そんなに寂しいなら頭でも撫でてあげましょうか?」
「言っとけ」
ニマニマ笑うティアの手をペチッと払いのけてやると、前の三人は納得したように頷きつつ、それぞれの感想を口にする。
「ショボい男の独占欲……みっともないわね」
「あら、そうでしょうか? 美しい愛の形だと思いますが……」
「人知れず難しい依頼をこなす冒険者! 凄い! 格好いいです!」
「好き放題だな……てか、あんた達こそ気を抜きすぎるなよ? 罠もモンスターも満載なんだろ?」
「それは大丈夫です! いきますよ……『罠看破』!」
ニコが鞘に入ったままの剣を床に打ち付けると、そこから光の波紋が広がり、罠があると思われる部分がぼんやりと光を放つ。壁面に設置された松明が通路を十分な光量で照らしていることもあり、これならうっかり引っかかることはないだろう。
「すごーい! 何それ?」
「これは勇者の力の一つで、僕に対して害のある存在を見分ける魔法の一つです。ただこれだと罠の場所がわかるだけで、解除ができるわけじゃないので……アリエールさん」
「お任せください。『ホーリーガード』!」
ニコの言葉を受けたアリエールが魔法を発動させると、光っている部分を淡い光の膜が覆っていく。
「これで罠そのものを覆ってしまったので、毒の雲とか矢の罠はこのシールドに阻まれてこっちには届かなくなります。足下の落とし穴だけはこれでは防げないので、床の光ってる部分は踏まないようにしてくださいね」
「了解。はー、こりゃ便利だな」
一周目にも経験したことがあるが、それも主観では一〇〇年以上昔のことだ。懐かしさと便利さに改めて感心しつつ、俺達は罠を避けて進んでいく。とはいえ行く手を阻むのは罠だけではない。
「ウォォォォォォォォ…………」
「グールにマミー……こりゃ人気無いわけだな」
二人なら余裕があっても、三人並ぶと肩がぶつかる程度の幅の通路に立ち塞がるのは、全身から腐臭を立ち上らせる人型のモンスターと、同じく全身を包帯でグルグル巻きにした、やはり人型のモンスター。そのうめき声は生者に本能的な嫌悪感を募らせるのだが、俺からすれば単にうるさいだけだ。
「グールは倒しても何も得られません。マミーは一応……本当に一応ですけどあの包帯が売れます。けど山ほど持っていっても子供のお小遣いくらいにしかならないです。清潔な包帯が手に入るなら需要もあったと思うんですけど……」
「あんな不潔な包帯ですら使わざるを得ない人々がいることは、とても悲しいことです。ああ、神よ。か弱き人々をどうぞお救いください」
ニコが顔をしかめ、アリエールが天に祈る。が、そんな二人の背後から飛んできた火球が、グールとマミーをこんがりと焼き上げてしまう。
「二人とも馬鹿なこと言ってないで、さっさと倒しなさいよ。臭いったらないわ」
「あ、ごめんなさいカナン。じゃあ残りは僕が……」
「私も頑張ります。神よ、不浄なる者達に安らぎの光を! 『ディバインオーラ』!」
ニコが小さな体で通路を駆け抜け、数体のマミーをあっという間に切り伏せる。そんなニコに手を伸ばすグール達も、アリエールの魔法を受けてその体がボロボロと乾いて崩れ落ちてしまう。
「流石は勇者パーティってところかしら。これだと私達は出番がなさそうね」
「だな。ま、目的地まではのんびりさせてもらおうぜ」
強敵が出て苦戦しているならともかく、簡単に倒せる雑魚相手に連携が完成しているパーティに無理矢理入り込むのは邪魔になるだけだ。
油断はしない。だが過度な緊張もしない。俺達は勇者パーティに先導されながら、危なげなく遺跡の奥へと進んでいった。




