格好つけようとして失敗した様は、普段の一〇〇倍格好悪い
「なあ、ちょっといいかい?」
「……何? アタシ達に何か用?」
突然声をかけた俺に、魔法師の女性が胡乱な目つきで俺を見てくる。が、俺はそれに怯むことなく話を続ける。
「ああ、そう睨まないでくれよ。そっちの子がどうも良くない感じのハマり方をしてるみたいだったから、一応注意しておこうかと思ったんだ」
「余計なお世話よ。他人のパーティの問題に口を出さないで頂戴」
「ちょっとカナン! ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが確かにこれは私達の問題ですので……」
魔法師の女性を制し、法衣の女性がぺこりと頭を下げながら言う。その言葉遣いこそへりくだっているが、声には確かに拒絶の色が混じっている。
「そうかい? でもそれなら、そんな年頃の子に賭け事をやらせることそのものがどうかと思うんだが……」
「それこそ余計なお世話よ! 何、アタシ達に因縁つけようって――」
「カナン!」
「…………」
「あー、いいって。確かに余計なことだわな。邪魔して悪かった。適当に聞き流してくれ」
ぶすっとした表情をする魔法師の女性と、それを諫める法衣の女性。そしてそんなやりとりのなかスロットに集中する勇者の少年。そんな三人に苦笑いを浮かべつつ、すぐ隣のスロット台の前に立った。
「さて、それじゃ俺も運試しをしますかね……おっと、当たった」
ピロンという軽い音と共に、俺の回したスロットが当選の証を吐き出す。出てきたのは一〇チップ五枚なので音としては寂しいが、それでも当選は当選だ。
「ではもう一回……おっと、また当たりだ」
今度はピロリーンというやや派手な音を立てて、一〇チップが二〇枚ほど出てきた。一度に五枚まで入れられるスロットに一枚しか入れず、それでいて二連続当選というのは相当に運がいい。
「……………………」
そしてそんな俺を、隣にいる勇者の少年がジッと見ている。そりゃそうだ、自分が散々外しているのに、隣で二連続で当てられたら気になって当然だ。
しかも俺は、当たったことを大して喜びもせず、さも当然という顔をしている。となるとその頭には、「ひょっとしてこの人にはスロットを当てる何かがあるんじゃないか?」という考えが浮かぶことだろう。それが技術かイカサマかは別として、その視線は刺すように俺を見つめてくる。
(ふふふ、いいぞいいぞ)
無論俺はその視線に気づいているが、気づいていないフリをする。ここで興味を引くことこそが、俺がこの勇者パーティに勧誘される流れなのだ。
一周目において、俺はここで三連続でスロットを当て、その結果彼に「仲間になってスロットの当て方を教えてください!」とお願いされることになる。といってもこれは俺が勇者の仲間になるために必要な儀式……即ち「偶然という必然」の効果なので、スロットの当て方なんてわからない。
それでもなんやかんやありつつ仲間になって一緒に過ごすことになるわけだが、まあそれはいい。とにかく今はとっかかりとして、三回目の当たりを……あれ?
「あれ?」
当たるはずだったスロットは、スルリと絵柄が滑って不揃いになる。おかしい、こんなはずは……んん?
「…………?」
二度三度と続けて回すも、やはり絵柄は揃わない。いやいやいやいや、それは話が違うんじゃないですかね? ここで当たらないと勇者様の興味を引けないわけなんですが?
「ぬっ! そいっ! ああー……何で!?」
ハズれるハズれる、スルリと外れる。焦ってチップの投入枚数を増やすも、やっぱりハズれてしまう。ムキになって回し続けると、七三枚あった手持ちのチップは、あっという間にその全てがスロットに飲まれてしまった。
「……………………」
「ほら見なさい。賭け事にのめり込んだ奴の末路なんて、あんな感じなのよ。ニコもわかったでしょ?」
「違いますカナン! そんなことありません! 僕は選ばれし勇者なんですから、あの人と同じになんてならないんです!」
「勇者様! いくら惨めに見えたとしても、そのようなことを言ってはいけません!」
隣からそんな会話が聞こえてきたが、それを気にする余裕は俺にはない。何故、何でこんなことに……こうなったら追加でチップを買ってきて――
「エドー!」
と、そこで遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。振り向いてみれば、そこには満面の笑みで近寄ってくるティアの姿がある。
「ティア? どうしたんだ、まさかお前も――」
「見て見てエド! そこの奥でやってたスライムレースとかいうのをやったら、大儲けしちゃったの! じゃーん!」
そう言ってティアが得意げに見せてくるのは、銀色のチップ。一チップが赤、一〇チップが青、一〇〇チップが黄色で、銀はその次……つまり一〇〇〇チップだ。
「おおあな? とか言うので二〇〇倍になったの! ひょっとして私、賭け事の才能があるのかしら?」
「あのっ!」
ニンマリと笑うティアの元に、スロット少年が近づいて話しかける。
「ん? 何?」
「あの……僕に、カジノの勝ち方を教えてくれませんか?」
「へ!? そんな事突然言われても……貴方、誰?」
「し、失礼しました! 僕はニコ。えっと……勇者ニコです」
「勇者!? 貴方が? えっと…………?」
ティアの視線が俺の方に向いたので俺は無言で頷く。するとティアも小さく頷いてから、ニコの顔を見て話し始めた。
「そう、勇者様……悪いけど、私はカジノの勝ち方なんてわからないわ。これだって偶然当てただけだもの」
「そう、ですか……いや、そうですよね……」
「でも、もし貴方が何かに困ってるなら、その力にはなれるかも知れないわよ? もう少し詳しいお話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「それは…………」
ニコが振り返り、二人の仲間の方を見る。すると魔法師の女性はあからさまなため息をつき、法衣の女性は柔らかく微笑む。
「ハァ、別にいいわよ。話してどうこうなるってものでもないし」
「そうですね。これも神のお導きかも知れません」
「っ! じゃ、じゃあ改めてお話を……いえ、その前に自己紹介ですね! 僕はニコ! 勇者をやってます! 歳は一三歳です!」
「私はローレル神殿より勇者様の旅を補佐する者として使わされた、アリエールと申します。歳は一八です」
「アタシはカナンよ。見ての通り魔法師……え、これ歳を言う必要ある? 別にいいけど……二二歳よ」
「ニコに、アリエールに、カナンね。私はルナリーティアよ。エルフで精霊使いで、歳は……多分一二〇歳くらい?」
「何で自分の歳が『多分』なのよ……」
可愛く小首を傾げるティアに、カナンが半目になって突っ込みを入れる。俺も何でとは思うけど……別に一二〇歳でよくないか? まあティアなりのこだわりがあるのかも知れねーけど。
「んで、俺は――」
「さ、それじゃ行きましょうか!」
最後とばかりに俺が名乗りをあげようとすると、ニコがティアの手を引いてその場を立ち去ろうとする。
「いやいやいやいや!? ちょっと待って、俺は!?」
「そうよ、エドは?」
「あっ!? す、すみません! ついうっかり……」
「えー、そいつは別にいいでしょ? 何かしょぼくれた見た目してるし」
「カナン! 思ったことをそのまま口にしてはいけませんと、いつも言っているでしょう!」
「それはつまり、アリエールもそう思ってるってこと?」
「そ、それは……違います! 私はそんな……」
「あはははは…………俺はエド。ティアと一緒に旅をしてる雑……冒険者で、歳は二〇歳だ。よろしくな」
「大体カナンはいつもそうです! もっと淑女としての慎みを――」
「何が慎みよ! アタシはいつだって自分に正直なだけなの! 大体そんなでかい胸をぶら下げといて、慎みなんてチャンチャラおかしいわね!」
「胸の大きさは関係ないでしょう!? そもそもこれは母性の象徴であって、決して邪な目を向けるような対象ではありません! 勇者様だってそう思うでしょう?」
「ええっ!? ぼ、僕はそんな……そんなことは…………」
「ははははは…………誰も聞いてねーよな、うん」
「大丈夫、私はいつでもエドの味方よ」
完全に無視されている俺の手を、ティアがそっと掴んでくれる。そうしてティアの優しさに慰められながら、俺は五分ほど勇者ご一行のやりとりを遠い目で見守り続けるのだった。




