無限湧きの敵と耐久をやるのは、いくら何でも分が悪い
そこからの羽付きとの戦いは、まさに激闘と言うべきものだった。倒しても倒してもすぐに羽付きは復活だか何だかで代わりが出現して、すぐに槍を投げようと構えに入る。無論俺や黒騎士はそうされる前に倒そうとするわけだが、時間経過で羽付きの数が徐々に増えていくと、どうしても手が回らない個体も出てくる。
そこで役に立ったのが俺達以外の戦力だ。エルフ達の精霊魔法が拠点の上空に分厚い空気の層を作り、投げられた羽付きの槍の勢いを半減させる。そして落ちてきた槍を黒騎士の力を得て黒い光を纏った戦士達の盾が受け止める。
怪我をすれば神官がすぐに回復魔法を飛ばしてくるし、魔法師達は直接羽付きを攻撃することはないものの、この騒ぎでやってくるかも知れない通常の魔獣に対する対処のために厳に警戒を続ける。
誰もが皆、死力を尽くしてこの聖地を守ろうとしている。根比べは互いに決め手のないまま拮抗しているように思えたが……先に限界を見せ始めたのは、俺達の側だった。
「うぉぉぉぉ!」
戦い始めてから、もう五時間。自身を奮い立たせるべく雄叫びをあげながら、俺は必死に剣を振るう。だが俺がどれほど頑張っても、既に一〇体を超える羽付きがいる現状では全ての攻撃を未然に防ぐことはできない。
ちなみにだが、羽付きを倒した数などとっくに三桁を超えている。大口を叩いた分の仕事は十分にこなしたはずだが、そんなことに何の意味もない。今もまた一本、俺や黒騎士の対応が間に合わなかった羽付きから地面に向かって槍が投擲される。
「ぐぅぅ……もう少し……っ!」
「おい、無理するな。一旦下がれ!」
そんな槍の勢いを殺すため、今回もまたエルフ達が精霊魔法で空気の層を作る。というか、もう大分前から常時魔法を発動させっぱなしのはずだ。呻くような声はそこかしこから聞こえてきており、今も魔法を使い続けてくれているエルフ達の数は、当初の半分ほどまで減っている。
そんな風に術者が減れば、当然精霊魔法の効果も下がる。最初は水の中にでも撃ち込んだのかと思うくらい鈍った槍の勢いも、今ではわずかに勢いが落ちるのみ。そうして強い力を保ったままの槍が、盾を構える人々のところに着弾する。
「ぐぁぁ!?」
「カシム!? 糞、俺ももう盾が……っ!」
それを受け止める人間達も、明らかに満身創痍だ。ギリギリ槍が大地に刺さるのこそ防いだが、盾が割れ腕がへし折れ、踏ん張る足すらおぼつかぬ大怪我を負った男に、近くに居た男がすかさずカバーに入る。その間に別の男が怪我人を引きずって神官達のところまで下がっていくが、それは防衛戦力が減ったということに他ならない。
「おい黒騎士! 手ぇ抜いてんじゃねーぞ!」
「ふんっ、貴様に言われるまでもない! 『魔王力付与:Fort』!」
俺の怒鳴り声に、黒騎士が改めて防衛隊に力を付与する。禍々しい黒が若干濃くなったが、そちらもやはり戦闘開始直後とは比べものにならないほど薄い。
だが、防御が薄くなったなどと文句を言う者は一人もいない。むしろその分自分たちが頑張らねばと張り切る始末だ。俺としてはもう少し安全策をとってもらいたい気はするが……まあそんなことを言ってられる状況じゃねーしなぁ。
というか、そもそも俺だって人のことを言える状況じゃない。魔王の力の扱いは繊細を極めており、ほんの少しでも扱いを間違えれば自分の体を壊してしまう。そんなものを五時間もぶっ続けて使い続けているのだから、精神的な疲労は推して知るべし。
「ささ……げよ」
「……チッ!」
言ってる側から力が不安定になったのか、俺の一撃が羽付きの体で止められてしまう。慌てて力を込め直して羽付きを切り飛ばしたが、代わりに俺の手がまた少しだけ黒ずんでしまった。もう痛みすら感じないが、握力が残っていれば十分だ。
(あーでも、後でティアに怒られるんだろうなぁ)
チラリと視線を向けた先では、ティアが仲間のエルフ達と一緒に必死に精霊魔法を使っている姿がある。「また無茶して!」と怒られる自分の姿が想像できて思わず笑ってしまったが、おかげで少しだけ心が安まった気がする。ふふふ、流石はティアだぜ。
「はぁ……はぁ……なあ黒騎士、これいつまで続くんだ?」
そうは言っても、そろそろ限界は見えてきている。俺や黒騎士だけならまだしも、このまま戦い続ければ人間側が全滅するのはそう先だとは思えない。問いかける俺に、黒騎士もまた戦いながら答える。
「今は一三体になったところだ。一応これで確認されている最大数だが……たった今更新されたようだな」
「つまりまだ、終わりは先ってことか! クソッタレが!」
一四体目の羽付きが出現したことで、まだ敵は最大数じゃないことが判明してしまった。同時に出現できる全ての羽付きを一度に倒すのが今回の作戦の要なので、まだ増えるというのならこちらもまだ耐える必要がある。
終わりの見えないなか、俺達はなおも必死に戦う。そうして一五体目が出現してから、一時間。これまでは長くても三〇分もあれば数が増えていた羽付きだったが、未だ一五体のままだ。
「おい黒騎士! これはそろそろいいんじゃねーか?」
「ふむ、そうだな。人間共も限界であるようだし……いいだろう。ならば羽付きを一掃する攻撃を行う故、貴様は少し一人で時間を稼いでくれ」
「了解! 起動しろ、『火事場の超越者』!」
黒騎士の言葉に、俺は最後の札を切る。瞬間的に一〇倍になった身体能力を活用し、今まで以上の勢いで現れる側から羽付きを切り倒していく。
無論、俺の体にかかる負荷は甚大だ。長時間戦闘の後にこんなことをすれば、ほんの五秒か一〇秒で戦闘不能になるだろうが……
「覚悟せよ、我が世界を狙う薄汚い羽虫共! 『魔王力付与:Final Fragment』!」
そうして俺がボロボロになるのと引き換えに、黒騎士がその力を高めていく。黒い鎧の隙間からは輝く暗黒がほとばしっていき、正しく魔王といった感じだ。ああ、これならどんな敵でも倒せるだろう。
「これで――っ!?」
「捧げよ」
いよいよ黒騎士がとどめの一撃を放とうとした瞬間、黒騎士の遙か頭上に新たな羽付きが出現した。一六体目となるそれは、しかし他の羽付きとは明らかに違う。
「小さい? いや、でもこの気配は……!?」
その羽付きは、おおよそ俺達と変わらない程度の大きさでしかなかった。他の羽付きが一五メートルほどの巨人であることに比べれば、大人と子供の違いじゃない。
そしてそんな特別な羽付きの出現と同時に、それ以外の一五体の羽付き全てがその活動を停止した。糸の切れた操り人形のようにカクンと四肢を垂らした羽付き達はその体を光の砂へと変え、小さな羽付きに吸い込まれていく。
「この状況……よもや貴様が本体か!?」
「神の定めし秩序のために、この世界の全てを捧げよ」
「神など知らぬ! 我が輩は魔王だ!」
急遽予定を変更して、黒騎士が小さな羽付きに向かって飛翔していく。全ての羽付きを屠るために高めた一撃を見舞うべく、まずは小さな羽付きが投擲した白い槍を剣で弾こうとして――
「何っ!?」
まるで剣を避けるように、羽付きの投げた槍がギュルンと宙空で回った。そしてそのまま黒騎士の脇を抜け、地上へと一直線に落ちてくる。
「マズい!? くっそ……っ!」
今までの巨木のような槍と比べれば、投げられた槍は小枝みたいなものだ。だが感じられる力は比較にならないほど大きく、こんなものが着弾したら辺り一帯が全て吹き飛んでしまうとわかる。
「間に合えぇぇぇぇぇ!!!」
俺の体が地面に落ちた瞬間、骨の砕けた両足を辛うじて繋がっている筋肉だけで鞭のようにしならせて大地を打ち、落下の衝撃と合わせて再び体を宙に打ち上げる。
だがわかる。あの槍はきっと、俺の「不落の城壁」でも防げない。それでもせめて人々を……ティアを守りたいと全ての力を込めて手を伸ばした先に、不意に黒い影が出現する。
「ぐふっ!?」
「なっ!?」
俺の目の前で、白い槍に腹を貫かれた黒騎士がゆっくりと落下していった。




