非売品かと思ったら店売り最強装備だった件
「入りたまえ」
時刻は深夜を過ぎ、誰もが寝静まった頃。ランタンを片手に扉をノックすれば、その向こうからアレクシスの声が聞こえる。許可を得て中に入れば、薄暗い室内には何故かきっちり武装したアレクシスの姿があった。
「失礼します……?」
俺のなかにほんの一瞬「あれ、何かやらかしたか!?」と警戒心が湧き上がったが、それもすぐに消える。無礼者を手打ちにするにしても、わざわざ深夜に、しかも自分の部屋に呼んでなんてことはしないだろう。
だが、そうなると何で完全武装?
「フッ。困惑するのはわかるが、まずは落ち着きたまえ。別に君をどうにかするわけじゃない」
「は、はぁ。じゃあその、俺に一体何のご用で?」
「ふむ。それなんだが……これだ」
そう言ってアレクシスが差し出したのは、常に肌身離さず持っている勇者の武器、聖剣だ。
「えっと……?」
「手に取って構わないから、それを良く見てくれるかい?」
「へ!? いいんですか!?」
「ああ。頼む」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
俺はアレクシスから聖剣を受け取り、鞘から抜いてみる。これを抜いて戦っている姿は数限りなく見てきたが、アレクシスは自分以外の人間が聖剣に触れるのを極端に嫌っていたため、触れてみたのは初めてだ。ほほぅ、これが神が造ったとされる聖剣……………………?
「どうだい?」
「そう、ですね。流石聖剣というか、とてもいい剣だと思いますけど……」
「いい剣、か。正にその通りだ。ならば聞き方を変えよう。エド、その剣は君から見て『凄い剣』かい?」
「それは……………………」
実際に持ってみた聖剣は、確かに素晴らしい剣だった。鋼にミスリル、アダマントなどの複数の金属を目的ごとに使い分けて造られており、これ一本打つだけで通常の剣を一〇〇本打つよりもずっと手間がかかるであろうことが推測できる。
それは職人技の極致。俺がかつて造り上げた「薄命の剣」に勝るとも劣らない技術と熱意の結晶。だが――
「フッ、やはりわかるのか。そうだ、それは紛うことなく名剣ではあるが……聖剣ではない。人の手によって造られた究極の剣ではあるが、神によって生み出された奇跡の剣ではないのさ」
「……………………」
そう言って薄く笑うアレクシスに、俺もまた言葉を失う。まさかアレクシスの持っていた剣が聖剣じゃないとは……ん? ということは一周目の時もアレクシスは聖剣を持っていなかったんだろうか?
「あの、じゃあ本物の聖剣? は何処に?」
「わからない。少なくとも僕は、それが何処に在るのか知らないんだ。ただ勇者である僕が聖剣を持っていないというのは問題があってね。仕方ないからその剣をずっと聖剣と偽って使っていたんだが……
なあエド、君が皆のために造ってくれた武器は、本当に素晴らしかった。故に僕は思ったんだよ。君ならばこの剣よりも素晴らしい武器を造れるんじゃないかってね」
「それは……時間と材料があればいけるとは思いますけど」
偽聖剣の完成度は極めて高いながらも、これはあくまで汎用の直剣に過ぎない。俺が追放スキルを十全に使ってアレクシスに合わせた武器を造れば、これより強い剣は造れる。
「やはりそうか。ならば……」
そんな俺の言葉を聞いて、アレクシスがその場に片膝を突く。あの気位の高いアレクシスがこんなことをするとは思わず驚愕する俺に対し、アレクシスは更に頭を下げる。
「頼む、エド。僕のために……僕が勇者であるために、僕に剣を打ってくれないか?」
「いやいやいやいや! そんな、やめてください! アンタはそういう感じじゃないでしょ!?」
「僕の敗北は、人間の敗北だ。故に僕はいつでも最強で、最高でなければならない。常に皆の上に在り、振り注ぐあらゆる障害をこの手で切り払ってこその勇者! その大役に応えるためならば、このくらいするさ」
「でも――っ」
「エド、君ならわかるだろう? 僕よりも年下なのに、それだけの剣や鍛冶の腕を身につけている君なら、神に愛され、力を与えられた者の責務を。
僕は特別だ。僕が欲すれば何でも手に入る。僕が望めば何でも叶う。だからこそ僕は、皆が僕に欲する平和を、皆が望む希望に溢れた未来を実現しなければならない。皆の理想たる勇者であり続けるためならば、僕は……」
そこで言葉を切ると、アレクシスは立てていた方の膝すら折り、床に頭を押しつける。
「頼む。僕を『勇者』にし続けてくれ」
「……………………」
まさかの土下座に、俺は三度言葉を失う。だが今度は驚いたからではなく、俺自身の未熟さに呆れかえってしまったからだ。
一周目の時、アレクシスは何処までいってもいけ好かない王子様で、勇者様でしかなかった。自分以外を見下して偉そうにしている「神に選ばれた勇者様」……それが俺のアレクシスに対する印象だ。
それは確かにその通りだろう。だが決してそれだけの男じゃなかった。自分が特別であることを自覚し、特別に相応しい自分であるようにきちんと努力をする男だったのだ。
てか、考えてみりゃ当たり前だ。力をもらって調子にのってるだけの奴が、最後の最後で自分の命を投げ捨てて仲間を助けたりするはずがない。俺の異世界追放巡りの旅で最初に出会ったこの男は、神に選ばれたからではなく、神が選ばざるを得ないほどに本物の勇者なのだ。
「すみません。その依頼は受けられません。俺の剣は勇者様には相応しくありませんから」
「ぐっ……そ、それは流石に思い上がりが過ぎるんじゃないかい?」
俺の言葉に、顔を上げたアレクシスが苦々しげな表情でこちらを睨み付けてくる。だがその怒りの籠もった眼差しに対し、俺はニヤリと笑って答える。
「おっと、勘違いしないでください。勇者様が持つなら、俺の打った剣なんかよりずっと相応しい剣があるってことです。現れろ『失せ物狂いの羅針盤』」
俺の呼び声に応えて、俺の手の上に握りこぶしを二回り大きくしたくらいの十字型の金属枠が出現する。
そう、俺の造った剣じゃ勇者アレクシスには足りない。だってそうだろ? 神の力を分け与えられた人間が打った剣より、神本人が創った剣の方が凄いに決まってるじゃねーか!
「捜し物は……本物の聖剣だ。さあ、何処に在る!?」
その問い掛けに、金属枠のなかに白い靄が湧き出す。そこには俺が見たこともない剣が映し出され……それが消えると同時に赤い羅針が方角を示す。
「エド!? それは……魔獣の位置を特定するだけじゃなかったのかい!? まさかそんな、誰も知らない聖剣の位置まで……っ!?」
「みんなには内緒ですよ?」
どんな物のありかでもわかるというのは、「旅の足跡」と並んであまりにも利用価値が高すぎる。なので「知ってる魔獣の位置を特定する」くらいにしておきたかったんだが……今回ばかりは特別だ。
俺が強くなったからこそ、単なる荷物持ちには語り得なかった本音をアレクシスが吐露してくれた。ならそれに応えないのは男じゃない。それに本物の聖剣が手に入れば、間違いなくアレクシスは今より強くなり……あの未来もグッと遠くなる。
「ということで、勇者様? 最強の剣士で最高の荷物持ちで、超一流の鍛冶屋のうえに的中率一〇〇%の占い師のご用命はありませんか? 今なら格安でお仕事を引き受けますよ?」
「フッ、いいだろう。報酬は僕が魔王を倒し、世界を救うことだ。僕と一緒に戦ったという名誉を進呈しよう」
「ハハッ、そいつはなかなか破格の報酬ですね。ならば改めて……」
ずっと床に座ったままだったアレクシスの腕を掴んで立ち上がらせると、今度は俺が恭しく頭を下げてみせる。
「この俺が、見事貴方を勝利へと導いてみせましょう! 宜しくお願いします、勇者様――」
「アレクシスだ」
「えっ!?」
「共に戦ったという名誉をやるといっただろう? 単なる荷物持ちに名を呼ばせるつもりはないが、戦友ならば違う。宜しく頼むよ、エド」
「……ああ。任せてくれ、アレクシス」
差し出された手を、ガッチリと握り返す。この日俺は遂に、アレクシスから真の仲間と認められたのだった。




