都合の悪い事実から目を背けてはいけない。受け入れる勇気こそが力に変わるのだ
「おおー、ここがア、アト……何だっけ?」
「アトルムテインだ」
「そう、それ! アトルムテインかー!」
苦笑する俺の隣で、ティアが楽しそうに町並みを見回している。そんな俺達の背後からは、馬車を降りたアレクシスが微妙な表情を浮かべている。
「はしゃぐのは後にしたまえ。それよりもエド、本当にこんなところにお宝とやらがあるのかい?」
「そうそう、お宝! エドったらずーっと『着いてのお楽しみだ!』って言うから、私ずーっと気になったまんまなのよ!?」
「ガッハッハ! 長命のエルフのくせにそう急くな。小僧にも何か事情があって言わなかったのだろう?」
「それは勿論。とは言えここで話すようなことでもないので、宿をとってその部屋の中で……ということで構いませんか?」
「ワシは構わんぞ? アレクシスはどうだ?」
「ふむ。確かに立ち話は優雅じゃないね。僕もそれでいい」
「私もー!」
「じゃ、そういうことで」
全会一致を得られたことで、俺達はアトルムテインの町を歩いて行く。通りを行き交う人々には活気があるが露店は少なく、この町が外部からの客を相手にした町ではないことを物語っている。
「うわー、煙突が一杯! あれって全部鍛冶屋さん? なら確かに凄い武器とかありそうね」
「馬鹿なことを言わないでくれティア。この町に武器などあるわけないだろう?」
「えー、何でよ!? エ、エド?」
「あー、今回は勇者様が正しいな。確かにここは鉱山と鍛冶の町だけど、ここで掘れるのは銀なんだよ。だからここで作ってるのは主に食器とかだな」
「へー。あ、じゃあひょっとして、お宝ってどんなものでも美味しく食べられる、伝説の食器とか!?」
「そりゃあいい! 味の改善さえできれば、小僧でもワシの筋肉丸を食えるのではないか?」
「いや、それはちょっと……まあとにかく、詳しい話は宿に着いてからな」
「はーい、エド先生!」
ちなみにゴンゾのオッサンが言う「筋肉丸」とは、筋肉の成長に必要な要素だけを高濃度で固めた丸薬だ。口に入れるとじわりと溶け出す血と脂の風味が並の毒薬など比較にならないほどの吐き気を呼び起こし、まともな味覚を持つ人間が食べられるものではない。
なお、何も知らない時に食わされた俺は、思いっきり吐いたうえに三日くらいは何を食っても味がわからなかった。二周目は絶対に食わないぞ……
と、そんな危険で楽しい雑談を繰り広げていれば、あっという間に宿に到着する。残念ながらアレクシスのお眼鏡に適うほどの高級宿は存在しないが、それでも町一番の宿に部屋を取ると、俺達は改めて顔を付き合わせた。
「では、説明してくれたまえ」
「わかりました。では……これは俺が確かな筋から手に入れた情報なのですが、どうやらこの銀山にはロックワームが生息しているようなのです」
「ロックワームだと……っ!?」
徐に切り出した俺の言葉に、アレクシスが驚愕の声をあげる。当然だろう。ロックワームは鉱物を食う魔獣で、こいつに狙われると鉱山の寿命が一気に縮む。しかも食った部分は穴だらけになるため、ロックワームの存在に気づかなかったために大規模な崩落事故が起きた事例は今までに幾つもある。
そして、それはこのアトルムテインも例外ではない。このまま放置した場合、おおよそ三ヶ月後には鉱山が崩落し、半年後に俺達がこの町を訪ねた時には、仕事を失った人々に見切りをつけられたこの町は諦めと絶望に飲まれた暗い場所であったのだ。
「おいエド、その情報は本当に信頼できるんだろうね? 冗談でしたではとても済まない内容だよ?」
「勿論です。相手は生きている魔獣ですから今この瞬間に鉱山を食い荒らしているとまでは言いませんが、このアトルムテインの銀山を餌場としているのは間違いの無い情報です」
「では、それをここまで秘匿した理由は?」
「ロックワームを、確実に俺達の手で仕留めるためです。何らかの理由で情報が漏れた場合、色々な意味で大事になりますから」
「…………ミスリルか」
苦々しい表情をするアレクシスの呟きに、俺は内心でニヤリと笑う。だがそんな俺達の横には、話についていけない長耳エルフの少女が一人。
「ね、ねえ? 私よくわかんないんだけど、その迷惑な魔獣とミスリルに何の関係があるの?」
「ああ、ティアは知らないのか。じゃあティア、ミスリルって何だか知ってるか?」
「何って……ミスリルはミスリルでしょ? 魔力の伝達率が高くて許容量が大きいから、優秀な魔導具や付与魔術のかかった武器は大体ミスリル製よね」
「そういうことじゃなくてだな……言っちゃうと、あれだ。ミスリルってのは、長期間強い魔力に晒された銀が変異したものなんだよ」
「そうなの!? ってことは、もしかして強い魔獣が住んでるこの山の銀が、全部ミスリルになっちゃってるとか!?」
「当たらずとも遠からずと言えなくもないが……うーん」
「何よ? 何でそんな変な顔するの?」
困った顔になる俺に、ティアがキュッと額に皺を作る。これは言うべきかどうか……どうせすぐわかることだし、いいか。
「銀に魔力を加えるとミスリルになる。それはそうなんだが……実際にはかなり強烈な魔力に朝から晩までずっと晒され続けないとミスリルにはならないんだよ。だから近くに魔獣が住んでるくらいじゃ足りない。もっとずっと魔獣の魔力を浴び続ける必要があるわけで……」
「……だから、何?」
「…………ロックワームは鉱石を食う。だが食った鉱石の全てが消化吸収されるわけじゃない。残った鉱石は腹の中でロックワームの魔力を浴び続け、何十年という時間をかけてミスリルへと変わっていく。つまり……」
「……っ!? 待って、聞きたくない!」
「ミスリルってのは、ロックワームの未消化のウンコってことだな」
「いやー! 聞きたくなーい!」
あまりにも残酷な現実に、ティアが長い耳をギュッと両手で握って塞ぎ、イヤイヤと首を横に振る。
まあ、うん。今まで知らなかったなら当然の反応だよな。ちなみに一周目の時は俺達はそれを目にしていない。仕事を無くした人達に少しでも雇用を与えようってことで、死体の解体はこの町の人達に依頼しちゃったからな。後でミスリル塊も渡されたけど、その時は「この鉱山で採れたものです」としか言われなかったし。
「そんな、ミスリルがそんな……そんなだったなんて……」
「まあ自然の環境魔力で変化するミスリルもあるけどな。その場合は普通にミスリル鉱山って感じになるから、世界全体の産出量としてはそっちの方がずっと多いはずだ」
「な、なら! 私が今まで触ってきたミスリルは、魔獣のうんちじゃないのね……?」
「あー、多分な」
現実的な確率で言うなら、世に出回っているミスリル製品の大半はミスリル鉱山を採掘して得たミスリルを加工した物のはずだ。普通に市販されているものであれば、まず間違いなくそっちだろう。
「だが、今回俺達が狙ってるお宝は、まさにそれだぜ?」
「えっ……えっ? ど、どういうこと……?」
「フッフッフ……ロックワームの腹に溜まった宿便にして、鉱山からじゃ決して得られない完全な純ミスリル塊! それが俺の目指すお宝にして、俺達の新しい武器の材料だ!」
「いーやー!!!」
ティアの悲痛な叫びが宿の室内に響き渡る。だがこればかりは譲れない。これから先を……俺がいなくなった後の未来を考えるなら、絶対に必要な物なのだ。
「ガッハッハ! 強くなるなら糞でもなんでもいいではないか!」
「嫌よ! うんちの武器なんて……っ」
「諦めたまえティア。ミスリル製の武器なら確かに戦力増強になるはずだ」
「うぅ……ならアレクシスも持つのよね?」
「ハッハッハ、僕にはこの聖剣があるからね」
「ずるいー! ねえエド! エドはそんな酷い事しないわよね?」
「任せろ。最高の武器を用意してやる」
「うわーん!」
最高の笑顔でポンと肩を叩いた俺に、ティアが世の不条理を噛みしめて泣く。その後も耳やほっぺたを引っ張られるとか、膝を後ろからカクッとされるなどの陰湿な嫌がらせを受けはしたが……五日後。俺達は遂にロックワームを退治するために坑道へと踏み込むことになった。
メインヒロインにうんこ武器を持たせようとする鬼畜主人公がいるみたいですよ?(笑)




