見習い聖女は無感情剣士に愛を説く
「私のこと、好きじゃないの?」
焦っていた。
とはいえそれだけ聞くとまるで勘違い女のようなセリフに、しまったと思いつつ後には退けない。
今しがた、私をさっさと置いて去ろうとした彼を引き留めるために、私の頭のなかはフル回転だ。
「すき……?」
やはり彼は、不思議というより不可解そうな声音でその言葉を反復した。
「好きだから、守ってくれたんじゃないんだ?」
聖女になるための旅の護衛として、彼が雇われて数ヵ月。
人としての情には欠けているけど、腕は一流。
それがどうやら感情に果てしなく疎いせいだと気づいたのは、つい最近だ。
そして先ほど状況は一変。私はどうやら国に見捨てられ、放り出されてしまった。同時に彼も解雇。
なんの後ろ楯もなくなった今、去られてしまうわけにいかない。私の目的には、彼の力が必要だった。
とはいえ国が出していた給金分なんて私が補てんできるわけがない。
どうするか。
何の感情も浮かんでいない瞳に怯みそうになりながら、挑むように見上げる。
仕事だからとあっさり言われることも想定していたが、意外にも彼は首を傾げた。
知らない分野から飛んできた謎の言葉を、違うと切り捨てることができないようだ。
「好き……」
「そう! ラブ! 嫌いじゃないってこと!」
「……?」
「えっとね……」
変わらない表情に透けて見える困惑と戸惑いに、なんとか勝機を見出だそうと言葉を選ぶ。
「私のこと、斬りたくはならないでしょ?」
「ああ」
即答した彼は、しかし淡々と続ける。
「俺は好き嫌いで斬ってない」
「でも私のこと傷つけたくないって思わない? 他の人からも、傷つけられたくないって」
案外素直に、彼は頷いた。
「それが守りたいって……好きってことじゃない?」
もう一度確認するように頷いて、透き通った茶の瞳がまっすぐこちらを向いた。
「そうだな。俺は君が好きだ」
「よし」
私がにんまり笑うと、彼の表情は心なしか柔らかくなる。
聖女とは、導くもの。
そんな言葉を思い出して、少し良心が痛む。
いつかはその言葉の本当の意味に気づくのかもしれない。
けれど、それまでは。
「嫌いになるまでいいの。守ってくれる?」
「……わかった」
どこか神妙に頷く彼に、くすりと微笑んで。
ズルい私はそっとその頬に唇を寄せた。