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「しかし、困りましたな。馬車が壊れてしまってはここから歩きとなりましょう。」
セバスチャンさんは本気で困り果てた様子で馬車を振り返る。
馬車は無惨にも足が破壊され使い物にならない。
馬たちは危機が去ったことを察して大人しいが、どことなく哀愁が漂っていた。
俺は高級旅館と豪華ディナーが確定して気分が大いに良かった。この場に人が居なければ踊りだしたいくらいに。
「なぁに、こんくらい俺が治してやるよ。その方が早く街につけるだろ!」
俺はほんとルンルンで無意識にスキップしながら馬車に近づくと魔力を込めて馬車に触れる。
「時間回復」
これはその場所だけ時間を巻き戻す様に物を治す治癒魔法だ。治癒ってなんだっけ?と本気で疑いたくなるが治癒魔法だ。錬金術師だけが使える特殊な魔法でもある。
飛び散った部品達が自ら元いた場所に戻るように集結し、馬車はあっという間に元通りになった。
――ほんと、魔法ってすげぇな。
周りの護衛達からも、おおッ!という歓声が上がる。
それに俺は益々気分を良くしていた。
くるりと後ろを向けば、あんぐりと口を開けてびっくりしているセバスチャンが立っていた。
仕方ないので俺から声をかける。
「治ったぜ?これで良いだろう?」
でもセバスチャンには聞こえて無いようだ。ブツブツと何かを言っている。
「....そんな、無詠唱に加え、ここまでの技術....!」
ばね仕掛けの人形の様にばッと顔をあげてセバスチャンがいう。
「あ、貴方様はッ!?高名な魔導師様でいっらっしゃいますか!?」
「いや、俺は錬金術師だけど?」
「れ、錬金術師...。」
セバスチャンは肩を落とし、ちょっと残念そうにしている。
――優秀な魔導師でも探しているのだろうか?
「とにかく、これでお嬢様を御屋敷までお連れ出来ます。有難う御座います。」
セバスチャンは隅の方で護衛に囲まれていた少女の元へ行く。視線で着いてくるよう言われた俺はそのまま後ろをついて行った。
「お嬢様ご無事で何よりです。こちらの方は我らを助太刀して下さった方です。ノア様と仰るそうです。」
「そう。ノア様、先ほどは危ないところをお助け頂き有難う御座います。わたくし、ハーヴェイ辺境伯が娘、クリスティア・ハーヴェイと申します。」
クリスティアと名乗るふんわりした雰囲気の少女は見た目に似合うおっとりとした声で礼を言う。
よく見てなかったが、金髪碧眼で柔らかそうな肌は透き通る様に白く、中々の美少女である。さらには将来有望そうに見えた。どこが、とは言わないが。
「いやいや、ただの通りすがりですのでお気になさらず。」
セバスチャンの時とは打って変わって敬語になる俺。さすがに少女相手に悪態つくほど腐ってないつもりだ。
セバスチャンが少女に何やら耳打ちをすると少女はこくり、と頷いた。
「ノア様も我が家まで御一緒されるのですね。もし宜しければ、馬車で色々とお話を伺いたいですわ。」
「俺で良ければ喜んで。」
美少女の微笑みに、俺は心からの笑顔を返した。