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邪魔は入ったが、これでご飯を食べに行ける。
俺の頭の中はご飯でいっぱいだ。
ふと、思う。
――ご飯は良いけど、俺って金持ってんの?
インベントリ内を探ってみるが現金が無さそうである。視界の左下にいつも所持金の表示があったはずだが見当たらないのだ。当然金が無ければ当然食事も出来ないだろう。
――アイテムはある癖に現金が無いなんてどうなってんだ?
――いっそこいつら探って奪うか?
目の前のボロボロの盗賊団を見ながら俺は相当物騒なことを考えていた。
しかしそれは実行される前に必要無くなった。
襲われていた一人、白髪の多く混じるアッシュグレーの紳士な執事服の老人が話しかけてきたのだ。
「わたくしめは辺境伯家に使える執事のセバスチャンと申します。危ないところを助けて頂き、有難う御座います。」
「....ん?ああ、ご丁寧にどうも。邪魔だから退けただけですし、気にしないで.....」
そこまで言って俺は良いアイデアを思いついた。
すかさずそれを実行に移す。善は急げ、だ。
さっきまでのやる気ない感じとは打って変わって、意地の悪い笑みを浮かべた俺はセバスチャンに詰め寄る。
「なぁ?さっきお前ら明らかにピンチだったよなぁ?」
「...はい?」
態度を急に変えたからか爺さんは思いっきり警戒している。それもそうだろう、俺だってこんな聞き方されたら嫌な予感がする。けれど今の俺はそんな事頭に無かった。
ちなみに今俺がやってるのはカツアゲのつもりである。辺境伯がどのくらい立派なのかよく分からないがセバスチャンの身なりを見る限り、そして後ろの馬車からもそれなりに金持ちそうなのは明白。
そう、俺はタダで高級な旅館(御屋敷)で豪華ディナーにありつこうとしているのだ。
「じゃぁお前らは、俺に命を救われたって事じゃねぇか?」
「...何が仰りたいのでしょうか?」
「いや、な。俺は長旅で疲れてんだよ。命の恩人ならばなんかそれなりの"礼"ってのがあっても良いんじゃねぇか?」
「....それは金銭を用意しろ、と?」
「そんな無粋なこと言わねぇよ?ただちょーっと、風呂と飯と寝床を貸してくんねぇかなって思ってな?」
「それは、もちろんで御座います。辺境伯家で心からおもてなしさせて頂きます。」
「いやぁ、セバスチャンよ。話が分かるじゃねぇか!俺はノアっていうんだ。よろしくな!」
どこぞのチンピラよろしく俺はセバスチャンを呼び捨てにした上、馴れ馴れしく肩を叩いた。
セバスチャンはいい思いをしていないだろうに1ミリも顔に出さない。さすが本物の執事と行ったところだろうか?
俺はこの時セバスチャンに要注意人物扱いされているなどとは1ミリも思っていなかった。
執事ってどんな喋り方するんですかね?