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街道を歩いて半日もしない場所で馬車が止まっていた。それを囲うようにいかにも盗賊です、みたいな格好の人達が取り囲んでいる。
状況は明らかに馬車側が不利であった。
スタスタと歩いて近づくと馬車から女性?まだ少女と呼べる様なドレス姿の人が引きずり出された。甲高い悲鳴と下品な笑いが響き渡る。
こんな状況でも俺には助けようなんて心は無かった。
むしろ奴らの仕事が終わるのを待っても良いかな?と思うほどだった。
兎に角、俺は休みたかったのだ。
宿屋の布団とまともな食事を妄想して歩いていたのだ。早く街に行きたかった。
しかし、盗賊は遊ぶ気なのかなかなか仕事を終わらせようとしない。
サバイバルで気が立っていた俺は、さっさとこの茶番を終わらせる事にした。
もちろん倒すのは盗賊のほうだ。異世界に来て即犯罪、何てやりたくない。
普通に歩いて馬車へ近づく。
そして声をかけた。まるで挨拶するように。
「すみませーん。通るのに邪魔なんですけどー」
久しぶりに出した声はまともだった。世界観が日本と違うからだろうか?ゲーム感覚が抜けてないのかも知れない。しかし、いい傾向だと思う。何故ならば、現実の俺はコミュ障だからだ。異世界に来てまで引きずっていては目も当てられない。
つらつら考えてるとなんか偉そうな盗賊が御託を叫んでいた。
しかし俺は早く街に行ってご飯を食べたいのだ。肉以外を食べたいのだ。
俺は空腹も合わさってキレた。
「あ゛?通るのに邪魔って言ってんだよ!?」
偉そうな奴の合図で一番近くにいた盗賊が俺に襲いかかる。
しかし遅い。魔物ばっかり相手にすると動体視力が上がるらしい。動きがまるでスローモーションだ。
俺はゲーム人生での最高傑作の武器、名刀『正宗』を引き抜いた。引き抜きざまにそのまま盗賊を切り捨てる。どこぞの抜刀術とでもいえば伝わるだろうか?初見殺しの技である。
そのまま手近な奴らからバッサバッサと切っていく。どうせ犯罪者なら問題ない。
俺は人を殺す事に躊躇いを無くしていた。それほどまでにサバイバルは俺の精神を狂わせていた。
半分は切ったな、という頃、目に見えない何かが俺を目掛けて飛んできた。
俺はほとんど反射で"そいつ"を『正宗』で切った。
切られた"何か"は俺を避けるように二つに別れ消滅する。
正体は風だった。
風魔法の一番初歩『鎌鼬』である。風を刃に見立てて飛ばずそれは目に見えない刃となってなかなか厄介である。
俺はソレを放った奴を見た。
真っ直ぐな軌道で飛んできたそれは魔法を放った奴の居場所をはっきりと示している。
というか、一人だけ魔導士らしいローブを纏い、大きな杖を持っていれば目立つ。
俺はニヤリと笑って、まるで軌道を辿るように同じ『鎌鼬』を放つ。
サバイバルの時に気付いたが、魔法はどうやらいちいち口に出さなくても出来るらしい。
そうでなければ言葉を使わない魔物が魔法を使える訳が無いのだ。
俺の鎌鼬は相手の放ったそれより遥かに大きく盗賊の何人かを巻き込みながら驚いて動けないそいつの上半身と下半身を分断した。
「無詠唱だと...!?」
「何て威力だ!?こんなの勝てる訳がねぇ!!」
残り5人となった盗賊は負けを悟り、一斉に逃げ出そうと背を向けた。
だが、俺から逃れる術など無く、あっさりと正宗の餌食となった。
餌食とはいえ、逃げ出した奴らは命は取らず、足を切りつけ逃げられないようにした。逃がして後で絡まれたら面倒だ。
一連の流れを呆然と見ていた護衛達は我に返ると怪我で動けなくなった盗賊達を縄で縛りあげていく。
――一件落着だな。
刀といえば正宗なのは私だけでしょうか?