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そこには確かに井戸があった。
石で組まれたそれは確かに井戸である。
中を覗くと底は見えない。水も見えなかった。
足元に落ちていた石を拾うと俺は井戸へ落とした。
ヒューーーーーーーーーーー.............。
.........。
いつまで経ってもなんの音も聞こえない。
――普通"ポチャン"、とか。せめて"カン"、とか何かしら反応があるもんじゃ無いのか?
――この井戸はどんだけ深いんだ?
異世界マジックである。謎の井戸。
とりあえずわかる事があった。
水は期待出来ない。そんな最悪の結果だけは分かったのだ。
井戸作戦?が不発に終わった俺は水を求めて森に入らなければなからなかった。
というか、いっそ街を目指そう!ということになった。
だって川を見つけたところで家まで運ばねばならず、運んだところで、キッチンも、風呂も、トイレも無い家でどうして良いかも分からない。
はっきり言って、テントが立派な家になっただけのサバイバル状態である。
ここで暮らすなど、平和にぬくぬくと日本で生きてきた俺にそんなこと出来るわけない。
せめてもの救いは小さい頃にキャンプ訓練をした事があるのと、最初のクビになった会社で自衛隊の訓練に強制参加だったことだろうか?意外とサバイバルしてるかもしれない。
兎にも角にも、目的を決めた俺はまず自分について調べる事にする。これは簡単だステータスと声を出せば表示が出る....ゲーム内だったら。
「ステータス」
そう言った俺の目の前に情報が表示される。ゲームの時と変わらず四角い薄ら青いそれに綺麗な白で文字が並んでいる。だがそこに書かれている文字は見たことのないものだった。なのに意味だけは頭に入ってきた。ラノベでよくある何となく読める文字だろう。
そこにはこう書かれていた。
ノア (Lv.889)
種別:人族
年齢:16歳
職業:錬金術師
加護:なし
HP:654321/654321
MP:567890/567890
物理攻撃力:3700
物理防御力:4200
魔法攻撃力:6800
魔法防御力:7000
錬金術:Lv.Max
状態異常耐性:高
異空間収納:高
他にも素早さや精神力などあるが、概ねゲーム時と変わらない様に見える。これでLvが1からだったら外に何て危険すぎて出られやしない。
俺の名前部分が本名では無くアバター名になってる。俺は日本での自分の名前を思い出そうとするが、モヤがかかった様に思考を何かに邪魔されてどうしても出なかった。
――まぁ、この世界で生きて行くならば日本名で無い方が良いだろう。
深く考えず納得した俺は次に異空間収納内を探って一枚の紙を出した。
これは地図である。
自分の歩いたことのある場所をマップとして示す便利品。森の中に居ようと自分の周り半径10kmくらいを自然と示してくれるのだ。
意気揚々と地図を開いて俺は絶句した。
地図は真っ白だったのだ。
正確には俺がさっき歩いた場所、つまり家と家の周りだけの地図だった。
クソの役にもたたない状態である。
俺はこれで記憶を頼りに街に向かうことが決定したのだった。