18
「俺はギルドマスターのロドリゲスだ。2次試験については聞いてるか?」
「いえ、実技試験、としか。」
「聞いての通り、2次試験は実技だ。俺と一対一で模擬戦を行い、実力を測る。そこでどのランクから初めるかが決まる。以上だ。何か分からないことはあるか?」
正直言って分からないことだらけである。ゲーム内ではギルドに入る為の試験なんてものそもそも存在しない。とりあえず分かっていることでも出来る限り聞いた方がいいだろう。
「ランクとは何でしょうか?」
「そこからか、何も知らねぇで登録に来たんだな、お前。」
「すみません。」
俺はすかさず謝る。これはもはや反射の様なものだ。前世の会社で色々とあって引きこもりになった俺は何かにつけてついつい謝る癖がついてしまった。直せるなら少しずつでも直していきたいものだ。弱気な俺にロドリゲスは困った様に眉を曲げる。
「いや、たまにお前みたいなのが来るんだよ。ろくに調べもしないで唐突に来る奴。今は良いが、情報は命だ。動く前に集める癖をつけておけ。」
「はい。ありがとうございます。」
ロドリゲス、いい奴だ。親切にも俺に傭兵としてのイロハを教えてくれる。俺の中での株が一気に上昇した。なにせ右も左も分からない無知な状況である。こうして少しでも情報を貰えるのは嬉しい。
「っと、ランクの話だったな?ランクっつうのはギルドの強さの指標みてぇなもんだな。こなした依頼の難易度や回数に応じて貢献度ってのが数値化されて溜まっていく。ある程度溜まると上のランクに上がれるって寸法だ。自分のランク以上の依頼は受けられねぇから稼ぎたければランクをあげることだな。」
大体はゲームと基本は同じ様だ。依頼をこなした回数でランクが上がる。ただ課金なんてシステム無いだろうから地道に上げていくことになるだろう。
――それで良いか。普通に暮らしたいだけだしな。
俺は別にここで英雄になろうとか思ったりはしなかった。俺TUEEEEッ!何て歳はもうとっくに過ぎたのだ。
「例外として余りにも強すぎる相手だとギルド会議ってのにかけてランク上げすることがあるがほとんど稀だな。例えば、ドラゴンを倒せる奴が居たとしてそいつがいつまでも低いランクに居ると低いランクの奴らの仕事を奪いかねないからな。実力に見合った仕事を斡旋するのも俺らの仕事よ。」
ここ、笑うとこだぞ?
って顔に出てるが、どこで受けたらいいのか常識も分からない俺は反応出来ず曖昧に笑う。
「ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fと、あとは聞いたことあるかも知れないが、傭兵としてはカウントされないが身分証として使えるGランクってのがある。Gランクは街の掃除とかが主な仕事で子供でも出来るからな。小遣い稼ぎには丁度いいぜ。」
Gランクはさっき聞いたな。
5日かければ5Gは確実だって受付嬢が言っていたのを思い出す。子供のお小遣い程度の値段ということだが、いまいち物価が分からない。
「ちなみに俺は元だがAランクの傭兵だ。
んで、登録する時全員実力が一緒ってことは無ぇから個々の実力にあったランクへ振り分けるって寸法だ。」
強そうだと思ったらAランクだった。
ゲームだとSが当たり前だったが現実でそうはいかない。上から二番目なんだしかなりの実力者なんだろう。しかし、わざわざ模擬戦の必要があるだろうか?この世界にはステータスがあるはずである。
「ステータスを調べれば正確に実力がわかるのでは無いですか?」
「それが出来れば良いんだけどな。ステータスは秘匿にする習慣があるし、調べるにはいけ好かない魔導士どもに鑑定を依頼する必要がある。金が掛かりすぎるんだ。」
どうやら他の人のステータスを見るには鑑定魔法が必要らしい。それは人件費がバカにならないからやらない、と。
この人はどうにも魔導士が嫌いな様だし、あと単純に模擬戦したいんだろうな。
「腕が良ければ最高でDランクから活動できるぞ。それ以上は人柄やらを検討してギルド会議にかける事になる。まぁ、よほどでなければ普通に上がれる筈だ。他に質問はあるか?」
「模擬戦の形式は何ですか?」
「ノアだったか?お前の一番得意な武器で俺と一対一で戦ってもらう。ただし剣なら模造刀、弓なら鏃の付いて無いものを使ってもらうがな。怪我はありだが、殺しや無用な攻撃は禁止だ。ノアは....防具が無ぇが、剣士?だよな。」
何か作法があったりするのか?という質問のつもりだったが、何でもありの様だ。
そりゃそうか。傭兵は騎士じゃない。礼儀作法何て分からないどころか、字も読めない者もいるのだ。
そして、俺は剣士じゃない。ここだけは訂正しておこう。
「いえ、俺は錬金術師です。」
「....は?」
キョトン、とされても困る。相手はおっさんだし、キモいだけだ。
俺はもう一度言った。
「いや、だから。錬金術師です。」
次回は年明けを予定しております。
皆様良いお年を。