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俺と剣と魔法の世界  作者: 小山 静
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 さて、御屋敷を去ったがまず向かったのはもちろん冒険者...では無く傭兵ギルドである。

 森を散々彷徨った時にいくつか素材を手に入れていたのだ。

 素材と言うとRPGの様に触れたらそこだけ切り取れるとか、魔物を倒すと落ちてるとかそんな都合のいい話は無い。生の死体から剥ぎ取ったのだ。何かのスキルでも働いているのか、そもそもそういう仕様なのか分からないが、解体は思った以上にスムーズに出来た。まるで初めから知っていた様だ。

 つまり、俺の異空間収納(インベントリ)にはいくつかの素材が入っている。

 これを売れば今日の宿と食事代くらいにはなるだろう。肉の血抜きだけはいまいち上手くいかないのだが、原因が一体なんなのか俺は知る術を持っていなかった。


 昨日セバスチャンがギルドだと言っていた建物を目指し大通りを真っ直ぐ進む。

 大通りの両脇には屋台がいくつも並び、怪しげな品を売る商人やいい匂いをさせる屋台で賑わっている。そしてその真ん中を立派な馬車が行き交っていた。ギリギリすれ違える程度の幅しか無いため、走る速度はとてもゆっくりだ。

 馬車の通行を邪魔しないよう注意しながら人々は縫うように間を通る。

 馬車から眺めた以上に街の喧騒は賑やかだ。


 人の波に合わせてふらふらと屋台を冷やかしながらギルドへ向かう。

 異世界の物価事情を確認してまわっているのだ。

 屋台で何かの串焼きが10Gなのに、その奥で俺が着ている服とそっくりな麻の服が上下セットで5Gで販売されている。


 ――これは服が安いのか?それとも肉が高いのか?


 異世界の物価はよく分からない。

 ギルドは街で領主館の次に大きい建物だ。しかしその造りは簡素で一見すると大きな酒場の様にも見える。領主館と違い木造の建物はとても庶民的で温かさを感じた。

 さすがに傭兵ギルドともあって、近づくにつれて屈強な男たちが目立ってくる。

 大きな斧を背負った筋骨隆々な大男や、弓を持った身軽そうな奴ら。いかにもRPGの冒険者です。といった出で立ちの人が多い。

 俺のように村人の装いはかえって浮く様な気さえする。

 しかし、一応正宗を腰に差しているのだから変では無いはずである。


 ――大丈夫....だよな?俺。


 不安になりつつも無事ギルドの建物の前に辿り着いた。意を決して、大きな両開きの扉を開けて中へ入る。中は思ったより静かだった。ちらほらと傭兵らしき姿があるがどちらかと言うと俺のような一般市民っぽい人が多い気がする。

 ギルドのイメージ通り、中の一角は立ち飲み酒場の様だが昼に近い時間であることで、酒を飲む人は居らず、昼食を食べる傭兵らしき人が少数ながら居るだけだ。

 奥にはカウンターが2箇所に分けていくつか設置されており上に『受付カウンター』『買取カウンター』と書かれている。あの何となく読める文字で。

 俺は受付カウンターと書かれた看板の下の1番端にあるカウンターへ行く。


 そこを選んだのには訳がある。


 受付嬢が巨乳だったのだ。


「いらっしゃいませ。本日はご依頼でしょうか?」


 ストレートの髪をきつく結わえたクール系美女は表情を変えずに淡々と挨拶をする。

 俺の着ている服がとても傭兵には見えないのだろう。依頼を持ってきた村人と思われた様だ。

 俺はここにきた要件を話す。


「いえ、ぼう....じゃ無かった。傭兵ギルドへ登録したいのですが。」

「....登録、ですか?」


 すると周りの空気が変わった。

 なんというか、一段温度が下がった様な気分だ。原因は周りにちらほらいる傭兵達のようだ。

 全員....目の前の受付嬢を含めて、全員が目で訴えている。


 ――お前がか....?


 一応正宗を持ってるんだが、あまりにも軽装過ぎる様だ。自覚があるだけにいたたまれない気分になった。小心者の俺はそれだけで心折れそうだが、さらに俺を追い詰める一言がくる。


「失礼致しました。では先に登録手数料として5G(ゴールド)頂きます。本日お持ちでしょうか?」

「....登録料?」


 何てこった。


 ここでも金がいるらしい。


 俺は無一文だ。金なんかあるわけが無い。

 しかし、俺には魔物の素材がある。こいつを売れば払えるかも知れない。そう思って買取へ出そうとすると...。


「残念ながら、魔物の素材の買取はギルド登録された方のみとなっております。」

「..........。」


 もう、俺の心はズタボロになった。


 傭兵に登録出来なければどこかで働き先を探す事になる。

 前世の就活が頭を過ぎる。

 正直言っていい思い出は無い。

 書類選考で落とされ続け会ってすらくれない会社。運良く面接へ行けても、生来のあがり症が邪魔をして繰り返し落とされた。何度も送られる不採用の通知は俺の心を追い詰めた。


 ――異世界に来てまでまた同じ思いをしなければならないと言うのか?


 真っ青になる俺を不憫に思ったのか、受付嬢は控えめに提案をくれる。


「....特別枠のGランクでしたら登録も可能ですよ?」

「特別枠...?」

「ええ。素材の買取は出来ませんが、溝掃除や草抜きといった簡単な依頼を受けることが出来ます。そちらでお金を用意して本登録という流れですね。」


 どうやら俺の様なお金の無い者の為の救済措置らしい。


「それって、どれくらい時間が掛かりますか?」

「5Gですので、5日間何かしらの依頼を受け続ければ確実に本登録へ進めるでしょう。」


 絶望だ。


 5日間も宿無し、食事無しを言い渡されたに等しい。

 残るは誰かにお金を借りる、という方法だが。


 ――異世界に知り合いがいるはず....。いや、居たわ。


 思い浮かんだのはついさっきまでいた辺境伯家の面々である。G(ゴールド)という通貨が日本円のどのくらいに当たるのか分からないが、あの人達なら5Gはきっと端金だろう。何せ貴族である。

 ほとんど折れかかっていた心は何とか首の皮一枚で繋がった。


「....知り合いから借りて来ます。」


 そう言って俺は出口へ向かった。


 巨乳の美女に情けない姿を見られてしまった。せめて普通に登録出来ればまだましだが、俺は金が足りずに逃げ出すのだ。

 男として甲斐性が無いことを堂々と宣言した様なものだ。登録すると言った時には鋭い視線だった周りの目も今では何となく温かい。

 悲しい思いを振り切る様に俺は早足で御屋敷を目指すのだった。









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