13
俺は最高の気分で目を覚ました。
広すぎる部屋は落ち着かないが、さすがに疲れが溜まっていたのだろう。朝までぐっすりだった。
今は朝日が登って少し経った頃か、遠くの空はまだ微かに薄暗い。
こんなにも早起き出来る何て思わなかった。というか、前世では昼夜が完全に逆転していた。
――しかし、こんな早起きしてもゲームも無い場所で何をしたら良いのだろうか?
俺は暫く考えて、鍛錬をしてみる事にした。
俺がゲームと似たこの世界で稼ぐ方法はといえば冒険者である。つまり、先日説明を受けた傭兵ギルドがよく似た存在だろう。
魔物を倒し、報酬を得る。シンプルで分かりやすく、またある程度は稼げる仕事だ。
若いうちに働いてお金を貯め、引退してからは田舎でのんびりスローライフをする。うん、とても理想的な将来計画である。
――ただなぁ...。またあの森に行くことになる訳だ。
そうなると不安なのは自分がどこまで実戦で動けるか、という事だろう。強さはきっと充分にある。何せあの魔物達から逃げ切ったのだから。だがそれは完全に魔法の威力に頼りきりの拙いものだった。素材を取ってこい、という依頼だった場合は素材を消し炭にするような方法だ。
さらに効率も非常に悪い。大量のポーションで誤魔化し無理やりでないと戦えない。それではこの先やって行けないだろう。
少なくとも、ゲームで遊んでいたあの頃のように戦術を練り効率良く魔物を狩ることが出来るようになるまで鍛錬を積むに越したことはない。
「よっしゃ、一丁やるか!」
そうと決めたら俺はすぐに動き始める。借り物の着衣を整え、腰に正宗を差し、部屋の扉を開けた。
「お早う御座います。ノア様。」
そこにはセバスチャンが立っていた。
人が居ると思っていなかった為に結構な勢いで開けてしまった。
――....内側に空くタイプの扉で助かった。
――危ないぞ、セバスチャン。
朝からドキドキと早鐘を打つ心臓を宥めて俺はしっかり挨拶をする。
「お、おう。おはよう。」
「どちらへお出かけで?」
「いや、朝の鍛錬をしようと思って...。庭を借りたいんだが?」
「ご案内致しましょう。」
そう言ってくるりと向きを変える。
――一体いつから控えて居たんだこの人は?
まさか夜中ずっと見張っている何て事は無いだろう。
滅茶苦茶早起きである、としか考えられない。
「如何なさいましたか?」
「ああ、今行く。」
いつの間にか結構離れていたセバスチャンの後ろを俺は追うように着いて行った。
御屋敷には当然広々した庭がある。半日も滞在してない俺は全貌が見えて無いほど広い。小さな城と言っても過言じゃ無いくらいには広さがある。
全体は石造りで出来ており見た目にも城を彷彿とさせる。
しかし中は木造とあまり変わりないような内装となっている為、外観だけが石造りなのだろう。
セバスチャン曰く、終焉の森が近いこの領地は魔物達のスタンピードという暴走現象の被害を受けやすいのだそう。その時に避難所として解放出来るよう領主としては破格の大きさを誇る領主館となったそうだ。
その広すぎる領主館の庭先で俺は素振りをしていた。
鍛錬をしようと思ったがやり方がよく分からず、とりあえずうろ覚えのラジオ体操を行い、それっぽく素振りをしている。
何となくのイメージで動いているのだが、俺の身体は俺のイメージを忠実に再現してくれる。
木刀をが風を切る音が心地良い。
やってるうちに楽しくなった俺は素振りだけ出なく、体術の型の様なものにも挑戦した。
これもスムーズに身体が動く。まるで動きを身体が完全に記憶しているかの様だ。
これならば例えば奇襲を受けたとしても弱い相手ならば反射で対応出来るかもしれない。
朝食に呼ばれるまで俺の朝の鍛錬は続いたのだった。
朝食を終えて部屋に戻ってきた。
昨日脱いだ服が綺麗に畳まれて帰って来ていた。
俺は借り物の服を脱いで自分の服に袖を通す。
麻で出来た簡単な服と同じく麻のパンツ。上からベルトを締めて、ベルトのフープに正宗をさげる。THE・村人Aという感じのスタイルだが、俺がこの世界で初めて目を覚ました時に着ていた服だ。当然俺のゲーム内での服でもある。
その名も『村人の服』。
アバター専用の変わったアイテムで中に何を装備しても見た目が村人になるというものだ。
俺が持つアイテムの中でも数少ないアバター用アイテムである。
この村人の服を着ていると地方のフィールドに行った時にまるでNPCの様に振る舞えるという面白さ重視のアイテムだ。
つまり、俺の服はこの世界で一般的なド田舎の農家の服である。
豪華過ぎる室内でかなり浮いていた。
――ゆっくり休んだ事だし、そろそろお暇するか。
俺はここに長居する気はさらさら無かった。ラノベとかでよくある権力争いの様なものに巻き込まれるのは御免こうむる。
だったら最初から貴族に関わらなければ良かったのだが、豪華ディナーという誘惑に完敗だったのだ。
荷物は異空間収納に入れている為、見た目は完全に手ぶらだ。
「よしッ!行くか!」
一人掛け声を出して俺は部屋を出た。
そこにはセバスチャン...では無く若い執事服の男がいた。登場の仕方が何となくセバスチャンに似ているが、ここの使用人はみんなこんななのだろうか?
「お客様、どちらへ?」
「そろそろお暇しようかと思ってな。」
「では、旦那様をお呼びしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。色々とありがとう、と伝えてくれ。」
「畏まりました。僭越ながら門までお見送り致しましょう。」
「ありがとう。頼むよ。」
そもそも広すぎるこの屋敷、玄関までの道も正直ちょっとうろ覚えだったのだ。
渡りに船と言わんばかりに俺は親切を受け取った。
行きには盛大な歓迎のあった玄関も俺と若い執事それと門番の二人だけとなるとその広さを実感する。むしろ門番は二人で大丈夫なのか心配なほど広い。
門番にも挨拶をして俺は御屋敷を立ち去った。
実は結構な量の書き溜めがあるのですが、誤字脱字やら、辻褄が全く合わない、検討違い過ぎるなどの文面が多く、国語力の無さに泣けております。