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少し内容を変えました。
ガヤガヤ、チカチカ、ゴミゴミ…。
都会の喧騒は人の心の落ち着きを無くす。
ビルの谷間から見上げた空のなんと薄汚れていることか。
よれよれのリクルートスーツに真っ黒な長い黒髪をゴムでまとめただけの洒落っ気の全くない姿。ある意味都会に溶け込んでいる。
まるでだれも気に留めない影のよう…。
「あぁ〜…」
どうしてこうなった…。私は何がしたかったのか…。
ついついため息が出てしまう。
大学を卒業し、就職した職場だったのだが、やりたい仕事と言うわけではない。一日中パソコンを見つめ続けて目や肩が痛いし、仕事は山のように押しつけられる。こんな状況を楽しめるほど悟をひらいていない。何の修行だよ。
「あああああぁ〜っ!」もう、嫌だ。耐えられない。いくらお金のためでもこんなの無理。元々田舎で育った私にはこんな目が眩む場所は似合わない。
両親は私が物心つく前になくなり、唯一の肉親であるおばあちゃんに育ててもらった。
おばあちゃんはスーパーおばあちゃんだった。いつもパワフルで、料理や裁縫、ピアノなど何でもできて、いろいろと教えてくれた。
おばあちゃんは家でピアノ教室をひらいていたので、いつも一緒にいてくれて寂しくなかった。
おばあちゃんの畑の新鮮な野菜で一緒に料理を作ったり、ピアノを弾いたり毎日が充実していて楽しかった。
「くすん…田舎に帰りたい。綺麗な夜空が見たいよ…」
ぼんやりと足元の影を見つめていたら急に影が動いた。
「?!」
びっくりして動いたところを見ると、黒猫だった。
「……っ、びっくりしたぁ〜…」
「にぁ〜」
猫は金色の目を向けて鳴いたが、こっちを見たのは一瞬ですぐに歩き出してしまった。
ドキドキを落ち着かせながら猫が歩いていく様子を見守った。
しかし、落ち着くはずの心臓は猫を見ていたせいでさらに大きな動揺を生む。
何故なら、猫は横を見ることなく車道に出ようとしていた。大型トラックの運転手は小さな猫の存在には気付いていない。
「…っ、ダメっ!」
気がついたら猫を追いかけて、車道に出ていた。猫を抱き上げて思いっきり歩道へ押し投げる。
猫はひらりと歩道に着地した。しかし…。
「キィーッ!」
大きなブレーキ音の方を振り返ると真っ白なひかりの中にいた。
そして目を瞑った…。