82.考えない
木のうろの中でひたすら時間を潰す。狭いこの場所が今の俺にとって一番、安心出来るところだ。
何も考えず、ボーッとする。それが昔からの俺の特技。
フレッドが尻尾をうろの中に突っ込んできたので、俺は枕にして背中を丸めて横になる。エリマキは俺に寄りそうように、お腹の隣に丸くなった。
心配させているのは分かっているけれど、彼らに構っている余裕は無かった。少し気を抜けば、余計なことも考えてしまうから。
そんな憂鬱な俺の元に先生の声が届いた。
『殺してはない』
その言葉に、良かったと安心する。大丈夫だった、と。
けれど、次の言葉にひゅっと息が止まった。
『近くにいた人間に渡した。もうあの人間はいない』
え?だって、シンディさんは人と会うのを嫌がっていたのに。もし、危険な目にあってたら?
心拍数が上がっていくような気がした。嫌な予想が頭の中を駆け巡る。
その不安を拭うように先生は言葉を続ける。
『人間に敵意は無かった』
先生の言葉を疑う訳じゃないけれど、それで安心できる訳ではなかった。けれど、それを先生に伝える勇気もなく。
俺はただ『ありがとうございます』と、先生に言葉を告げる。
不安と共に、俺はうっすらと喜びも感じていた。シンディさんがいない。それは、俺がシンディさんを嫌な目に合わせなくて済むということ。
逆に言えば、先生にその役目を押し付けただけとも言えて、
「なんて、性格の悪い嫌なやつ」
自嘲するしかなかった。先生は何も悪くない。俺が悪い。
ダメだ。また変な風に考えがいく。考えないように。怖いものは考えない。
あ、そういえば、そろそろお昼ご飯だなぁ。




