79.黄金の鹿
DMWにログインして、シンディさんを観察する。彼女は未だ深く眠りについている。目を覚ます様子は無かった。
フレッドは俺の背後からゆっくり近寄り、体を低くする。それを見て俺は、あの鹿のところまで連れていってくれる為に迎えにきたのだろうと予想する。
フレッドは上手い具合に俺を背に乗せる。もう手慣れたもんですな。
そして、あの湖にたどり着いた。黒い魔物である鹿は湖に浸っており、もう抵抗する気力もなく、ただただ息をするために腹を動かしている。それを見て俺は、良かったと、まだ生きているとほっとした。
フレッドにおろしてもらい、鹿に近寄る。
今はごちゃごちゃ考えず、ブラッシングの時だ!この櫛が火を噴くぜ!いや、実際の火は噴かないけど。
なんて、一人漫才を頭の中でしながら、入水する。
優しく丁寧にブラッシングしていくが、エリマキ達のように簡単には黒いもやは落ちなかった。それでも丁寧にゆっくりと、もやが落ちるように櫛を通していく。
「この洗剤を使えば頑固な汚れも一拭きで、ほらご覧の通り····って落ちないやないかーい」
何となく掃除用洗剤のCMが思い浮かび、真似をするが、やっぱりCMのようにはいかなかった。いや、無理だって分かってるんだけどね。これで落ちたら、ビックリだよ。
そういえば、CMの曲って何であんなに頭に残るんだろう。不思議だ。
俺はCMの謎を考えながらブラッシングして、ようやく、もやが取れてきた。
一部のもやが取れてきたら、他のもやも徐々にとれていく。毛の生えていない、角は水をかけて、手で擦るを繰り返す。
カカオ君は疲れましたよ。本当に。力は抜けないが、疲労は貯まる。主に精神に。
すべてのもやが取り除かれ、鹿の全容が露になった。
大きさは、フレッド達よりも一回り小さくなったみたいだが、それでも、俺からしてみれば十分に大きい。
鹿の毛の色は、にぶい黄色。陽の光に当たれば、輝くのだろう。
ツヤフワの毛並みがうらやましかった。俺の髪もこれで解かせば、ワンチャンツヤフワ?後でやってみよ。
角は立派で、所々に草が巻き付いてある。草が寄生している訳でもなく、ただ本当に巻き付いているだけって感じだ。
「そういえば!」
ハッと思い出す。俺としたことが、すっかり忘れていた。
鹿の口に草を放り込む。あー、最初に食べさせて上げれば良かったと今更ながらに後悔する。こういうところがポンコツなんだよな。
でも、反撃食らったら困るから、今のタイミングで良かったのかも。エリマキは大変だったからな。と、思い直し自分を正当化した。
鹿はゆっくりと咀嚼し、草を飲み込む。すると、鹿は重い瞼を開かせる。
「わぁ」
鹿の瞳は綺麗な濃い緑だった。優しげな目をしていて、あの苦しそうな目ではなかった。誰かの目に似ているような。そう思い出そうとしたが、思い出せない。
そして残念ながら、木の棒が刺さった左目は、草では治らなかったのかポッカリ空いていた。俺が謝ることじゃないけど。
「ゴメンね」
鹿はそう呟いた俺に焦点を合わせ、また、目をスッと閉じた。




