73.シカ
「手触りサイコー」
エリマキを撫でてその艶やかさを堪能する。ツヤッツヤ!
満足行くまでエリマキをブラッシングした後、フレッド達もブラッシングしてやろうと思い小屋を出る。
扉を開けると、外はスライムが溢れ返っていた。スライム以外ににもスライムを食べてる猪みたいな動物とかが十数匹いる賑やかな光景だった。
「えー?何コレ?」
俺がポツリと溢すと、気づいた猪(仮)が突進してきた。
ヤバイと思ったが、そのスピードに逃げられる訳がないと諦めその衝撃に備え、目をつぶる。
いつまでたっても来ない衝撃に、恐る恐る目を開けると、猪は射ぬかれていた。シンディさんがやってくれたんだろう。姿は見えないけれど、凄くカッコいい。多分、スキルを使えば居場所はわかると思うけど、使わない。
さっき弓を弾いた時に聞いた音は鳴っていなかったのは、どういう原理なんだろう。確かにあの音が何度も鳴ってたら、うるさくて獲物に逃げられると思うけど、そんな簡単に鳴らさないってありなんですかね。まぁ、ありなんでしょうね。やってるし。コレは、シンディさんが凄いのか、それともDWMの仕様なのか。
俺も弓やってみたら、出来るかな?でもまぁ、俺はその前にブラッシングか。
キョロキョロと見回してみても、先生がいないのはわかるけど、フレッド達も見つからなかった。いつも近くにいるのに何故?
「フレッド?ウィン?ウィル?」
折角、ブラッシングしようと思ったのに。
ちょっとがっかりしたとき、スライムを食べていた動物達が逃げ出した。まるで何か恐ろしいものから逃げるように。
エリマキも俺の前に飛び出して、毛並みを逆立てている。あー、折角整えたのに。
森からのっそりと現れたのは、黒いもやを纏った大きな鹿だった。そのもやは、フレッド達についてたものよりもドロドロと粘着質だった。立派な角でしか判断出来ないほど、より深くまとわりついている。大きさは小屋と同じくらいに大きい。もしかしたら、フレッド達よりも大きいのかな。
でも、なんでこの鹿はここに来たんだろう?先生やフレッド達はどこに行ったんだろう。やられたってことはないと思うけど。
疑問が尽きないが、エリマキの威嚇の声で我にかえる。
シンディさんは逃がした方が良いかもな。エリマキが勝てるかどうかも分からないし、出来れば、エリマキも逃がしたいけど、逃げないんだろうな。
手早く口に草を詰め込む。パイプを試すのはまた今度だな。流石にいきなりの本番は無理だ。
鹿は一歩一歩はゆっくりだが、確実に此方に向かってる。一刻も早く逃がすなら今のうちだ。
俺は意を決して、大声で呼び掛ける。多分、鹿を刺激するだろうけど、シンディさんが優先だ。
「シンディさん!俺は大丈夫ですから逃げてください!」
シンディさんは、聞こえただろうか。今の俺には、確認するすべはない。
『視線を反らすな』
俺が叫んだ瞬間にそう先生から命令が下った。だから、俺は一瞬たりとも反らしてはいけない。シンディさんの為にスキルを使えば、目を瞑らなくてはいけなくなる。そうしたら、命令に背いてしまう。それはダメだ。
大丈夫、どこかに先生がいる。大惨事にはならない。
多分。




