70.ある家庭の夕方
制服を着た少年がノートパソコンで、動画を見ながら人を探していた。
「兄ちゃん、見つかんねぇな・・・」
カチカチと動画を見ていくが、どれもこれも少年が探している人とは違う気がする。
学校から帰ってきては、動画を見ているが未だに見つからなかった。少年が誘った事のせいでまさか兄と連絡すらとれなくなるとは予想外だった。
確かに五感を体感できるゲームは、技術の結晶なんだろうが音信不通になるなんてと、少年は少し後悔をしていた。
「まだ見つからないの?」
少年の言葉に、夕食をつくっていた少年の母親はため息をはいた。
「早く見たいんだけど?」
母親の言葉に少年は心の中で悪態をつきながら、「わかってる」と返した。母親も兄のことを心配しているのだ。小言を言われるのはしょうがない。
探し疲れた少年は、動画の大元のサイトを開きながらとあるPVにたどり着いた。
そのPVは、まるで今まで見ていた動画のゲームの街がそのまま出てきたような娯楽施設に少年の心がときめく。
街の細部まで、こだわりが詰まっている。
例えば、ランプ。ゲームの世界ではランプは液体が発光しているという設定がちゃんと再現できている。
他にも、店員の服や、料理。動画の中で見たことのある物がそこにあった。
「すっげ何これ」
よくよく調べて見ると、条件をみたせば一般人も入れるらしい。もしかしたら兄と会うことができるかも知れない。直接会って一緒にこの街を見回って、遊べる!と少年は心を馳せる。
それを母親に説明しようかと思ったが、
「母さん、あ、・・・やっぱなんでもない」
兄の性格を思いだし、期待はあまりしない方が良さそうと考え直した。
夕飯の良い匂いがしてきたので、ノートパソコンを閉じる。
少年は立ち上がり、テーブルに二人分の箸を並べ、ご飯をよそっていく。出来上がった料理は毎回いつもの通りだった。
「「いただきます」」
母親と二人手を合わせ、食べ始める。
昔なら、父がいて、兄がいて、姉がいて・・・。一人ずつ居なくなっていく食卓。俺もその内、この家を出ていくんだろうか。兄がいなくなって、まだ1週間だったが、ひどく寂しかった。
少年はテレビの音だけが流れる静かになってしまった夕飯に、母親と二人。
少年が思うことはただ一つ、もう野菜炒めは飽きたということだった。
母親の料理のレパートリーは少なく、だいたいが野菜炒めだ。いい加減飽きた。少年も料理下手で、結局母親と同じ野菜炒めになる。もう嫌だ。
少年は死んだ目をしながら今日も母親の料理を食べる。




