65.閑話
老女は店から出ていく客人2人を見送って、先程の木の実を取り出す。確かにあの木の実だった。
小さな客人がこれを出したときから小さな店員達がそわそわとしていた。
「これ、レッリドですよね?」
老女にそう声をかけたのは、店員の中の一人の獣人族だ。小さな客人や他の小さな店員よりも大人びている子供だった。
「そうさ。悪いが、味見してくれないか」
老女にとって自分の味覚は信用ならなかった。
獣人族の子供はこくりと頷いて1粒口にいれた。
赤い木の実は、甘酸っぱい懐かしい味だったが、記憶にある味と少しだけ違った。
「確かにレッリドですね、これは。でも、知っているレッリドよりも少し酸っぱいです」
「やっぱり野生のレッリドかい····」
「ですね。栽培したのであれば、もっと甘いはずです」
子供はレッリドの生育環境を思い出す。
「野生のレッリドは、迷いの森の奥深くに生えていますので、大人でも採ってくるのは危険なはずです。それが何故、彼が持っているのでしょうか?」
子供の言葉に老女は、2つの可能性を思い浮かべる。
「····迷いの森に出入り出来る何かしらの方法を持っているんだろうさ」
その答えの1つを口にした。もう1つの可能性はこの子供にとって希望を消してしまうものなのだから。
「それって、ヤバイですよね」
「あぁ、そうさ。だから、こうして縁を持ったんじゃないか。ポーターの方はあまり関わりたくないようだけど、私はなるべく目を離したくない。いつ、敵対するか分からないし、良い情報を持ってくるかも知れないしね」
「良い情報····」
子供は少し目を輝かせる。
その目に老女は少し同情する。今回小さな客人が持ってきたのは、良いものではなく、悪い可能性がある情報だったからだ。
野生のレッリドは森の奥深く、けれど、もう1つの可能性。それは、森に住んでいる獣人族が栽培していたレッリドが野生化するということ。つまり、森の獣人族がいなくなったということ。
それを子供に話すのは酷だった。
その内、事実がハッキリするだろうが今のうちは希望を持たせてやりたかった。
「今日はこれを皆でお分け」
「えっ!良いんですか!?裏に流せばお金になりますよ?」
子供の気遣いに頭を撫でる。
「そんなこと私が一番分かってるさ。今日だけの特別さ。ほら、他の子も食べたがっているだろうから、早く持っていっておやり」
「はい、ありがとうございます!」
子供はレッリドを遠くから様子を伺っていた他の子達の元に持っていく。
嬉しそうに騒ぐ店員達を見て、老女はパイプを吸って、白い息を吐いた。




