55.門番の宿舎
夕暮れ時、ポーターが訪れたのはこの街の唯一の入り口である門の番をしているもの達の宿舎だ。
「おう、いるか?」
ポーターはノックもせずに我が物顔で中に入る。宿舎の中は簡素な作りをしていた。
「あ、ポーターさん」
嬉しそうに駆け寄るのは、門番の中で一番若い青年。青年の頭には触覚のような髪がピコピコと揺れていた。
「よお、ガート。ハランはいるか?」
「今、門の方にいます」
「あ?この時間にか?」
「ちょっとしたことがありまして···。じいちゃんに何かご用ですか?」
「いやな、上位の魔物が入り込んだことは知ってんのかと思ってな」
ガートと呼ばれた青年は一瞬、理解できずに言葉を繰り返す。
「···上位の魔物ですか?」
「そうだ」
「え?」
ガートは、あり得ない事態に険しい顔をした。門番の役割は迷いの森から来る魔物の撃退だ。その門番がまず魔物の察知が出来ていないことがおかしいかった。
しかし、ガートには思い当たることがあった。
「もしかして」
自分の父親があるミスをして罰を受けていた、祖父が唯一気の緩んだあの一瞬。その一瞬で、もし入られたのなら。
ガートはゴクリと唾を飲む。
深刻な顔をしているガートにポーターは声をかける。
「あ、いや、そこまで深く考えなくても大丈夫だ」
「でも」
「敵対の意思も今のところねぇみてえだしな。今回来たのは把握しているか聞きたかっただけだ。まぁ、一応ハランには報告しといてくれ」
ポーターは頭をガリガリと掻いて、そのグシャグシャになった髪を手櫛で整えた。
その言葉にガートは少し安心した。ポーターは魔物狩りの実績もあり、祖父も認める男だ。その為、ポーターはその言葉を信頼した。
「分かりました。祖父に伝えておきます。」
「まぁ、次は気をつけてくれ」
ガートの頭を一撫でしてからポーターは宿舎を去った。
「じいちゃんが気づかないってどんなバケモンだよ」
誰もいなくなった部屋でガートはポツリと呟いた。
例え一瞬の隙があったとしても歴戦の兵士だった祖父を掻い潜るような魔物。ポーターの話によると敵対はしていないらしいが、もし敵対していたらと思うとガートはゾッとした。
「それもこれもあのクソ呑んだくれのせいだ。あのクソ野郎」
ゲラゲラと真っ赤な顔で笑う自分の父親を思い出してガートは腹が立った。いつもいつも飲みくれて不真面目、守秘義務を守れないほど口が軽い。
「こんなことで尾端祭がちゃんと出来るのか?」
ガートは父親に呆れるばかりだった。
しかし彼の父親は、"夜狩り"という異名を持つほどに、日が暮れてから力を発揮する。ガートはこの異名を知らぬ訳ではないが半信半疑であり、今回のことで楽しみにしていた祭りの開催を不安に思うのだった。




