53.牽制
男は、この小さな子供の名前を聞いていなかった事を思い出した。
「そう言えば、おめぇさん、名前は?」
「あ、俺の名前はカカオって言います」
「そうか。俺はポーターだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
ポーターは静かに子供を観察する。細い体に痩せこけた頬。どう見ても健康とは言い難かった。けれども男はこういう子供を今までたくさん見てきたので、彼に同情はしていない。
「んで、どーする?今から買いにいくか?」
「いえ、少し休ませていただきたいんですけど、良いですか?」
「まぁ、良いけどよ。ベッド、使うか?そっちの方が休めるだろ?」
ポーターはベッドから立ち上がり、退こうと思ったが、子供は頭を振って断った。
「大丈夫です。あ、この椅子は借りても良いですか?もし、ダメなら部屋の隅でも良いんですけど」
「そんなんで、休めんのか?」
「はい大丈夫です」
そういうと、子供は器用に椅子の上で膝を抱える。パチリパチリと、ゆっくりと瞬きをするとプツリと動かなくなった。
この子供は、神殿から出てきた者の中で男が最初に接触した者だ。穏やかな性格の彼は好ましかったが、後から出てきた者達には性格に難がある者達ばかりでポーターは少し疎ましく思っていた。それでも、子供に手を貸したのは、彼らに味方についてもらわねばならなかったからだ。そして、もし彼らが敵対したとして、その際の弱点も見つけなければならなかった。
この子供であれば、それらの事が容易そうだった。
「にゃぁ」
背後からのその一鳴きに身震いした。
振り向くと、小さな生き物がこちらをじっと見ていた。まるで、見定めているかのようだった。
よく覚えているこの似た感覚を。これは····。
「魔物····」
しかも、上位種だ。何故、それがここにいるのか。
男はその生き物から目が離せなかった。生き物はゆっくりと歩き、子供が座ってる椅子の近くに腰を下ろした。尻尾が床をタンと叩く。
もしこの魔物と争えば、黙ってやられるつもりはないが無事ではすまされないだろう。それにこんな所では、他に被害が出てしまう。まぁ幸い、この魔物はこちら側に危害を加えるつもりはないようだ。
この国で魔物狩りとして生きてきたポーターは、負けるつもりは無かったが、決して勝てるとは言いきれなかった。
「俺は敵対するつもりはねーよ」
上位種であればあるほど、人の言葉を理解する。
その言葉に魔物はポーターからフイと目をそらし、真ん丸に踞った。
「もしかして、坊主の言った"いろいろ"ってコイツの事じゃあるめぇーな」
ガシガシと頭を力目一杯に掻き、これからを思うと嫌になった。




