44.雨は甘い
目を覚ましたシンディさんは、まだ眠そうにボンヤリしていたので小屋の中で眠るように手を引いた。ベッドは未だに掃除してないので床に洋服を積み重ねて寝かせた。
臭いベッドをどう干そうかな。引っ張って持ってく?それともストレージにいれて外に出す?うーん、難しい。布団も買った方が良いかな?大男の汗が染み付いた布団に女性を寝かせるのも失礼に当たりそうだ。
ふと、思い出してお腹を触った。そういえば胸焼けするほどケーキを昼に食べたのに、こっちではそれを感じないんだな。
こっちでも甘いものが食べたいなぁ、そう思うと少し寂しくなった。
窓のガラスを何かが叩く小さな音が聞こえ、外を見た。あ、雨だ。
ポツポツと窓を叩く。雨は好きな天気だ。現実なら、好きでも風邪を引くのは困るので遊びに出ることは無いが、ここはゲームの世界だから、体調を気にする必要は無い。多分····。
初めてみる雨の光景に俺は外に出て、空を見上げる。まるでオーロラのように空の色が様々な色に混ざりあっていた。
雨粒は徐々に強くなっていく。雨は地面に落ちると、ほわっと明るく輝いた。蛍ような淡い、色とりどりの明かり。
「綺麗だなぁ」
残念ながら、俺に当たっても雨粒は輝く事は無かったが、俺のテンションが上がるのには十分だった。
雨は意外にもポカポカと暖かく、たまたま口に入った一粒の雨は、とても甘い。
「あまっ」
水飴のように甘く、けれど水飴のようなとろみは無かった。
外にいたはずのエリマキ達は、森の木陰で雨宿りしていた。心配そうな、不思議そうなどちらとも言えないような感情でこっちをじっと見つめてくるエリマキ。
手を振ってみると、エリマキは体を起こして俺の元に来ようとする。だが、ウィンに足で押さえられていて動けなかった。見ている分には2匹の行動が可愛く見えて、ついつい、ふはっと笑ってしまう。
甘い、甘い、甘い雨と可愛いらしい彼らの行動にテンションも上がっていき、俺はその場でクルクルと回りだした。赤い明かりを踏んで、今度は緑、次は黄色、とまるでダンスをしているような感覚になる。
いいだろう、エリマキと、自慢気味に遊んで見せた。
スキップして、一回転。いつも来るはずの疲労感がなく、体が軽い。ピチャピチャと跳ねる水溜まりがこんなにも楽しい。
「そうだ!」
大きく口を開けて降ってくる雨を飲み込みながら、名案が浮かんだ。
洗濯に使った桶に雨を貯めよう。鍋よりも多く水が入るし、貯めた分だけこれからの甘味が確保出来る。なんて素晴らしい考えなんだと、自画自賛するぐらいに、天才的な閃きだった。
残念ながら、ウィン達の手助けは期待できない。彼らは森から出てこない。いつもなら俺が外にいれば、多少なりとも近くに寄ってくる筈なのに、それがないということは多分、雨を降っている間は雨宿りし続けるつもりなのだろう。
俺、一人で持てるかなと不安が過るが、テンションと謎の自信で桶の移動に挑戦する。
「ふんとこっしょ、どっこいっっしょ!」
まるで大きなカブを引っこ抜くような掛け声で、小屋の裏の軒下に立て掛けてあった桶を転がしながら、雨の当たる場所まで持っていく。
「ふんっ!」
どか、と勢いよく横に倒す。これで、この雨が集まる。端からみれば大したことではないけれど、俺にとっては大きな進歩だった。
そして、鬼人族である俺がここまで動けるのだから、この雨には特殊な効果があると確信した。エリマキ達が雨に当たらないようにしていることから、これは鬼人族専用のイベントかも?もしかしたら、鬼人族用の救済措置?だるさは魔素不足から、····つまりこれは魔素の雨?これを飲めば、当初予定していたテイマーなのに前衛職が出来る?
よし、瓶買ってきて詰めよう。そして、今のうちに飲んでおこう。お腹の中にも貯めておけば良いだろう。
もしかしたら、これでスイーツも作れたりするか?リンゴみたいな果物を買ってきてフルーツ飴とか作れそうだな。よし、果物も買ってこよう。
あ、でももしかしたら、お金が足りなくなるかも知れないな。森が近くにあるから、自生の果物とかとって来た方がコスパは良いかも。だけどな、食えるか食えないかなんて俺が知るわけないしなぁ。ウィン達なら知ってるかな?




