43,5.閑話
赤で統一された部屋に女性が一人、座り込んで本を読んでいた。更に回りには、無数の本が山積みになって散らかっている。
女性は、その本に目的の物が書かれていないことが分かるや否や、ページを引きちぎり、本をぶん投げた。
「あ"ぁ、苛つくわね!」
その物音に気づいた者が部屋を覗いた。女性は、その人物に近くの本を投げる。いきなり投げつけられた本を簡単にキャッチした。
部屋に入ってきたのは、彼女が他人で唯一信頼の置ける者だった。
「トーリー様、本をぞんざいに扱うのはお止めください。ブロウ様に睨まれるのは私なのですぞ?」
「そんなの私が知るわけ無いでしょ!私の知りたいことが書いてないその本が悪いのよ!あのチビにも役立たずとでも言っておきなさい!それにどうせ、その本は複製でしょ!?」
トーリーと呼ばれた女性は焦っていた。調べようと無数の本を漁ったが、納得のいく答えは書かれていなかった。苛立ちに任せて、炎の羽を散らす。
溜まっていた魔素が消費されると、少し冷静さが戻ってくる。
「それよりも、昨日の火傷平気だった?ちょっとやり過ぎた気がしてたの」
「安心してください。この通り綺麗に治りました」
トーリーに男は手のひらを見せると彼女は頷いた。
「良かったわ。例え、貴方だとしても傷が残るのは少し心苦しかったの。あぁ、それでお父様は何か言っていたかしら?」
「いつもすまないと、謝っておられました」
「そう。お父様はいつも心配性ね。私の事なんか気になさらなくても良いのに」
はぁ、とため息をつく。昨日までの彼女の態度は多少の演技も入っていた。彼女が正気であると噂されるのは彼女らにとって不都合だったので、彼らの前でそういう風に振る舞ったのだ。
早く彼らを見つけて味方につけなくては、と彼女の心が焦る。
「····あれらは本当に使えるの?」
「一番、役立ちそうで純粋な者達だとそう報告を受けています。私も実際に話しましたが、彼らには悪意は無いと思われます」
「悪意が無いのは良いわね。悪意が無い····」
そう呟き、自分の生まれた国の悪意を思い出し、グツグツと腹が煮えたぎるようだ。世界の危機的状況なのに、戦争を起こそうとするあの国は本当に愚かだと、彼女はそう思った。
一変して彼女の顔が、怒りに変わったのを男は見た。
「早く見つけなさい!私が病的だからといって、あの国が見逃し続ける訳がないのよ!」
彼女は頭を抱えた。
戦争に黒い魔物、神殿に使者と余所者、今この国には、不穏な要素が蔓延っている。その怒りと不安に耐えられなくなった彼女は部屋に置いてあるベッドに駆け寄った。ベッドの横の地べたに座り、シーツを握りしめる。
「お母様、お母様、お母様の代わりに必ず、この国をお守りいたします」
もうここにはいない者に祈りのように何度も彼女は誓う。
彼女がこうなっては、今は誰も言葉も届かなくなる。それを知っていた男は部屋を出ていこうとドアに手をかける。
「ルイス、ポーターはまだ動かないの?」
その前に彼女の理性が戻った声に手を止める。珍しく正気に戻ったのか、と男は驚いた。
「今はまだ」
「····早く、早くして頂戴。多少の犠牲は目を瞑るけど、民が苦しむ事は誰も望んでいないのだから」
「はい」
彼女の「お母様····」の言葉に今度こそ男は部屋を出た。




