30.夢の中
これは家族の夢だ。俺にはそうはっきりわかった。遠い昔の過去をぐちゃぐちゃに混ぜたような夢。
そこには白い服に身を纏う俺の弟妹がいた。空と野原、それと俺達以外には何もない。
「ねぇ、今日は何して遊ぼっか」
青空の下で妹が言う。天真爛漫、その言葉が彼女にはよく似合う。
「遠くの遠くまでかけっこしよう」
弟は走るのが大好きだ、きっと誰よりも。そして、誰よりも足が早い。
「良いよ」
彼女が頷くと、二人は手をつないで仲良く走る。俺は二人に置いていかれないように必死についていく。
青々と茂る野原に明るい太陽が差し込み、彼らの影を長くする。
息が苦しくなっても二人に追い付こうと、手を伸ばす。しかし、その手は届くどころか、彼らは遠くにいってしまう。
「ねえ、待って」
俺だけの声が木霊して、二人は振り返りもしない。
地平線の向こうに彼らは行ってしまう。俺は彼らを見失ってしまう。
「待って!」
声は届かず、彼らは進む。
「····待って」
小さく声が漏れる。疲れきった俺の足は立ち止まり伸ばした手を下ろした。
彼らの姿は小さく遠くなってしまった。日は落ち、暗い夜がそこまで迫って来ている。
いつもそうだ。俺はいつも彼らとは違うがために置いていかれる。一人ぼっちで、風が吹き寒々とした夜空の下で待たされる。彼らがここに帰ってくるまで。
俺は立ち去ることが出来なかった。彼らが消えてしまった後でも、ここにいることこそが俺の役目なんだと思った。きっと俺が離れてしまえば、彼らは俺を探すためにその手を放してしまうかも知れない。それだけは彼らにさせてはいけない。
夜が来て、雨のように星の光が降る。目がチカチカとするような眩しさに目を伏せた後、空にあった星は全て無くなっていた。
自分の手さえ見えない夜。まるで暗い闇に溶けてしまったようだ。
体が後ろへと傾き、頭からまっ逆さまに落ちていく。ぞわぞわしていく感覚に身を委ねる。何も怖くはなかった。俺はその先に何かあると知っている。だから、怖くない。
何があるんだろうか。誰がいるんだろうか。何も知らないはずなのに、知っている。
「───!」
だが、次の瞬間、耳元ではっきりと俺の名前を誰かが呼んだ。
そうだ、思い出した。父が探しに来てくれたんだった。
白い閃光が夜を食い付くし、
「うおっ」
俺はベッドから飛び起きた。
心臓がバクバクと胸を打ち、息も上がっていた。深呼吸をしながら落ち着かせる。
「····変な夢だった」
でも、すごく懐かしい夢だった。迷子になった俺を見つけ出してくれるのは、いつも父だった。
俺を見つけて抱きしめながら、良かった、ってそう言ってくれる。置いていかれる俺を見かねて、手をつないで一緒に遊んでくれる優しい人。
それを思い出したのはいいが、全くもって寝た気がしない。逆に思いっきり疲れた。
「もう一回寝よう」
俺は布団をかぶって眠りについた。
出来るならばもう一度、父が俺を呼ぶ声を聞きたい。




