28.洗濯物
「いやー!冷たいっ」
小屋の後ろにあった倉庫から桶を取り出し、ウィンの吐き出した水で満たす。桶の大きさは大体直径で1mくらいで、俺は持ち上げられなかった。桶の前でわたわたしていると、フレッドが器用に桶を小屋の前の開けた場所に置いてくれた。
ウィン達は俺の言うことも少しは聞いてくれるというのは、今日の初めの2時間に彼らを観察してわかったことだ。
そして、彼らにもそれぞれの役割があるようだ。フレッドは俺のお守り役、ウィンは小屋の番犬、ウィルは泉と小屋を中心にグルグルと警備してるらしい。勿論、彼らとは直接話せない為、俺の推測だが。
試しに触ってみると驚くほどに冷たい。俺はすぐに手を引っ込めた。
水のたっぷり入った桶にだばだばと洗濯物を入れる。洗えない物はストレージに突っ込んだままで。
洗剤も無いので手洗い、いや足洗いか。
ブクブクと気泡が弾け、服が沈んでいく。それだけで水は汚くなった。足を突っ込んでみると背筋が凍る。ズボンが水分を含み重くなった。
おっとこれは。多分足をあげた瞬間、スッ転ぶ。どうするかな。このままいるのもアレだし、一回転んでエリマキにでもやらせようか。踏み洗いくらいは出来るんじゃないかな。それとも、足が届かないかな。
しかしどちらにせよ、今日の朝からエリマキはずっと首に巻き付いて動く気配がない。撫でれば嬉しそうにグルグル鳴くが、ただそれだけだ。本当に襟巻きになったように巻き付いている。無理に命令することでもないなと、思い直した。
何てことを考えていたら氷のような水に慣れてきて、冷たさも感じなくなった。心なしか体も軽くなった。これ肉を食べるよりずっと体が軽いんじゃ?それとも、朝に肉を食ったおかげ?
試しに足をゆっくりと持ち上げて、落とす。このくらいは出来るみたいだ。何が条件で動けるようになるんだろうか。これも色々検証しないとダメかな。
俺はズボンの紐をほどいて脱ぎ、さらに体を軽くした。上着がくそでかいから水に浸かる部分は手で持ち上げる。下半身露出はぎりしていないし、見た目ショタだから、この格好も許されるだろう。パンチラしたら、うん、ラッキースケベとして許してくれや。
「あめあめふれふれ、母ちゃんがお庭でちゃぷちゃぷかくれんぼー、あんまり急いでごっつんこ、ありさんとありさんがごっつんこー」
意外と童謡って思い出せないんだよな。だから、色んなものを継ぎ足してそれらしきものを歌う。
歌いながら、ゆっくりと踏み洗いしていく。歌ってすごいよな。歌ってるだけで楽しそうに思えるんだから。
ふんふんと気分良く洗っていく。こういうの好きなんだよな。なんかこう、水遊びみたいで。ウィンもマーライオンのようで、愉快愉快。
このゲームをやっていると、心も子供に戻っている気がする。
エリマキも興味が出てきたのか、肩から降りて、水に飛び込んだ。パシャンっと水飛沫がたって。小さな体のせいか、プカプカと泳いでいる。
「ハハッ!」
俺がくるくると踊るように踏んで、それに水鳥の雛のようについて回る。遊び感覚なせいか、汚れは落ちている気がしない。
水はくすんで桶から溢れていき、びしょびしょに回りを濡らしていく。フレッドはクフンと鼻を鳴らして水が掛からないように少し離れた。
こうしてると、あれを思い出す。テレビとかで特集していた足で踏んでワインを作る民族衣装を着た女の子達の映像を。どこの国だっけ?フランスか?いや、東京?のイベントだったかな?····ダメだ、思い出せない。
「わぉん!」
目が爛々と輝いているウィルと目があった。ウィンは嫌そうにウィルを横目で見て、彼から遠ざかり、小屋の横に伏せる。
ところでウィル、君いつ来たの?全然気づかなかったんだけど?
「わん!」
もしかして水遊びしてるって思われて、一緒に遊びに来たというところかな。ウィルの尻尾がブンブンと振っているところを見ると、多分間違いではない。
ウィルはスゥっと息を吸い込む。その時間が数秒どころの話じゃない。スッゴい長い。ヤバイ、このまま空気を吐き出されたら俺、吹っ飛ぶんじゃないか?
「待て待てま···ギャァー!!」
慌てて水から出ようとしたその時、桶の水ごと宙に浮いた。器用に風を吹かして俺やエリマキ、洋服を落とさないようにしている。
ぐるんぐるんと上下左右に振り回されて、洗濯機の中の気分を味わう。頑張れ、俺の三半規管!踏ん張れ、俺の三半規管!
あははは、むり。




