24.力と矜持と嘘
浚われた私を救ったのは、私より年下なあべこべな双子だった。
私は待っていた。いや、正しくは私ではなく、私を浚った者達が。開催されるオークションに備えて、盗品を集め揃え、待っていた。彼らの唯一の長所は、盗品をぞんざいに扱わないこと。お陰で私は、暴行を振るわれることは無かった。
いつものように盗賊達はニヤニヤと次に盗む物の話をしていた、その時だった。獣の鳴き声が聞こえ、彼らの口が一様に閉ざす。そして、恐怖に染まったかのような声で呟く。ここには、奴等は来ないはずなのにと。
生きる気力も無くなっていた私は、ただその声を聞いていた。どうなってもいい。どうだっていい。私の人生は、心は、あの男に壊されてしまった。この先、獣に食い殺されようがどうでも。
一人、また一人と、外へと出ていく。ここから聞こえたのは、悲鳴と命乞いをしていらしい言葉、引き裂かれる音。
そうしてその音達が止むと、部屋の扉が開いた。真っ白な髪の少年と、その少年に足首を持って引きずられている子供が入ってきた。子供をぽいっと物のように置くと、直ぐ様、部屋を出ていった。倒れたままの子供を確認すると、生きてはいるようだった。
子供を見ていると、ふと、故郷にいた領民の子達を思い出した。あの子達はどうしているだろうか。路頭に迷ってはいないだろうか。彼らは何も悪くはないのに、他の者に虐げられてはいないだろうか。
私はそっと子供を掬い、ベンチに寝かし、頭は私の太ももの上に乗せた。父の庭の一本木でこんな風にあの子達と一緒に昼寝をしたのだ。今となってはとても遠い過去のように思える。
大丈夫だと、心を落ち着かせる。彼らはあの日に逃げたのだから。優しく優しく子供の髪を撫でた。私はそうしているうちに、怒りや悲しみ、苦しみを思い出した。
そうだった。全てを取り返し、必ずあの男に報復する為に、私は生きねばならない。屈してはいけない。父は素晴らしい人格者で、兄はあんなにも誇り高き人だったのだ。そんな家族の中で育った私が諦めてはいけない。また心が息を吹き返したように、動き出す。
それから子供が目を覚まし話を聞くと、子供と少年は双子だと知った。
子供だと思っていたのは兄だと言う。彼は食事をとっていないかのように、細く弱々しい。案の定、スライムに勝てることも出来ないほどに弱かった。冒険者というのは、嘘なのかと思うほどだ。
この人は、多分臆病な性格だ。何に怯えていたのかわからないが、少しの動作で瞳の奥が揺れる。彼はきっと自分でも気づいていないのだろう。そのわりには、私を見て痛ましそうに目を背ける。
悪人には見えなかったから、私の話をしてしまった。話していく内に、心が少し軽くなる。そして私はずっと苦しく、誰かに頼りたかったのだと、ようやく気づいた。出来ることならば一時の気の迷いを裏切らないで欲しいと、そう思うのは高望み過ぎるだろうか。
弟の方は見た目に反して恐ろしく強い。体の何倍もある狼達をまるでボールのようにポンポンと飛ばしていく。きっと盗賊達を殺したのは彼なのだろう。
彼は人間味が欠けていた。話しても、まともに返事が返ってこない。まるで心が凍りついているような、そんな印象を持った。けれど、彼に悪意があるわけではない不思議な存在。
これから私は、彼らと行動するのだから少しでも理解出来るように、弟の方に鍛えてもらうことにした。そしてこの先、誰も私を虐げることがないように、強く、強くならねばならないから。
けれど。けれど、救われた私が言えることでは無いが、これは横暴過ぎではないか?鍛える為とは言え、反抗できる力も無いのに、強制するなんて、酷い。
「····そうかもしれません。けれど、貴方のやり方は嫌いです」
父に言われた。
『力があるといって、振りかざしてはならぬ。その力は弱いものを守るためにあるのだ』
父はその言葉の通り、領民を守って亡くなった。
兄に言われた。
『地位があるからといって、自惚れてはならぬ。他がためでは無く、自らの矜持を守るために』
兄は亡くなったが、その矜持を守るために奮闘していた。
だから私は私の矜持の為に、弱いものを守る。私はこれから強くなるのだから。
私は木の棒を構えた。父は兄に剣術を教えたが、私に教えてはくれなかった。だが、それを見続けている。思い出せ、私は強くならねばならない。
「あの、俺は本当に大丈夫ですから」
カカオさんはそう言うが、傷は無いらしいが血まみれの姿がどうも説得力を欠いてしまう。
「そう見えません。兄弟なのでしょう?なら、尚更ちゃんと言うべきです。嫌なら、嫌とはっきりと。私も助太刀します」
「え、でも····」
彼は右往左往と目をキョロキョロさせる。
「う、嘘をつきました!申し訳ございませんでした!」
頭を下げている。急な言葉に私は少しの間だけ思考停止してしまう。嘘、嘘とは何が?
誰にも秘密を漏らさないこと?それとも一緒に暮らしてくれること?何、何が?
それから、頭をあげたカカオさんから全て聞いた。
ユーリールさんは魔物であること。
兄弟や双子でもないこと。
先生と呼んでいること。
テイムされていること。
この世界の人間ではなく、召喚された者であること。
長く意識が保てないこと。
それを聞いてある程度は納得すると共に、疑問が浮かぶ。
魔物であるユーリールさんが、心が無いのも魂が無い魔物だからと納得できる。だがそうであるならば、こうして意思疏通が出来るのは何故なのだろうか。それに魔物が人をテイムするなぞ聞いたこともない。
テイムした魔物が名前によって魂の誕生するということはある。しかし、それはかなりの年月によりなるもの。例としてあげるならば、金の国に準ずるドラゴンだ。
「あの、本当にすみませんでした」
カカオさんの声で私は思考から現実へと帰る。
「良いんですよ。初対面の人間に、全て話せないことは分かっています。嘘だって、1つの手段ですから。それより、私に真実を教えてくださってありがとうございます。」
「あ、いえいえ」
やっぱりこの人は悪い人ではない。私の目に狂いはなかったようで、安心する。
彼の行動可能な時間が終わるため休むと言い、小屋の中に入っていった。
細い背中を見ながら、これから先の不安は多いが、この偶然に出会えたことを感謝した。




