23.体を鍛える
俺は今、一匹のスライムと死闘を繰り広げている。先生から返してもらったナイフを手に持って。
スライムは体を伸びさせて俺に攻撃をしてくるので、よく見て避ける。ようやく体は俺の思ったように動いてくれる。まぁ、数テンポ遅いときがあるので、その時に攻撃を食らうとすっ転ぶ。転ぶと、スライムは俺の上に覆い被さるように体を広げてくる。内心、悲鳴を上げながら、距離をとって体制を立て直す。
勿論、このスライムは先生じゃない。先生がどこからかつれてきた魔物だ。本当に先生って謎。
そんでもってその先生は、シンディさんと稽古している。先生は最初、俺を外に連れ出してスライムを押し付けて、自分はウィン達をまるでアクション映画の如くアクロバティックに吹っ飛ばしていた。多分、それが先生なりの鍛練なのだろう。それを見ていた俺は少し引いたが、彼女は違うらしい。木の板で出来ているサッシを開けて、覗いていらしいシンディさんは、先生に鍛えてほしいとお願いした。
彼女は俺が渡した木の棒で、先生は体術というか力技で。ひたすらに先生の攻撃を防いでいるが、先生は攻撃の手を休めない、容赦もしない。彼女の腹に先生の蹴りが入って吹っ飛んだ。
「うげ」
よそ見をしていたら、顔にパンチされた。スライム、やっぱり強い····。
ダメージで瀕死になり、また体が動かなくなった。くったりと地面にうつ伏せになる。その間、スライムが攻撃してこないことにほっとする。
静かに見守っていたフレッドが俺の首もとを噛んでずるずると引きずって、器用に横たわり自分の腹に乗せる。自ずと顔がフレッドの体毛に埋もれる形になった。少しごわついているが暖かい。フレッドの鼓動が伝わり、俺は心地よいその音を聞くために、目を閉じる。問答無用で心が癒される。やっぱり、もふもふは正義だ。もふもふサイコー。
父さんが病弱な為にペット類は飼うことが出来なかった。父さんは飼おうとしていて、まるで子供のように、「ちゃんと面倒見るからお願い!」と、母に頼んでいたが母は頷くことはなかった。
父さんが死んでからもペットを飼おうとは思わなかった。母が言い訳にしていた「手間がかかる」ということと、もう1つだけある。それは父さんのように俺よりも先に死んで欲しくも、長生きして欲しくもないという理由だ。身近な死を目の前にした。忘れていることも多々ある癖に、ふとしたときに思い出す感覚はいつまでもなれない。こんな思いをするのも、させるのも嫌だ。
その点、ゲームなら手間もかからず、先に死ぬわけでも長く生きるわけでもない。利点ばかりだ。ここぞとばかりにもふもふを堪能してやるぜ。
「何、サボっている」
先生の声でフレッドの毛が面白いくらいに逆立った。フレッドはするりと下から抜け出て、俺は重力に従い落ちる。危なく地面に衝突する直前、後ろ襟を掴まれて引っ張られた。
「うぇ」
喉がしまって苦しい。今日は何回カカオ君の首が締め付けれるんでしょうか。
そして、そのまま口に草を詰め込まれる。もっしゃもっしゃと食べ、体が動くようになる。
「あの、大丈夫なんですか?」
シンディさんが不安そうに近寄ってきた。俺はアハハと苦笑いをすると、彼女は少し眉をひそめた。
「大丈夫です。いつもの事なので」
「そうなんですか?でも、あまり無理してはいけませんよ。····ユーリールさんも強制していけません。強くなれる人が強くなれば良いのです」
そう言った彼女の目は決意に満ちていた。対して、先生は冷ややかな目でシンディさんを見つめ返す。
「お前に関係ない」
「····そうかもしれません。けれど、貴方のやり方は嫌いです」




