14.名前と痛み
そのあと、サクラさんとノブナガさん(ひょろながの男)と一緒に片付けた。もう一度、頼んで食べる気も待つ気力も無いので、謝罪を聞き流しながら、速攻で帰ってきた。
部屋に帰ってタブレットでショップを開き、小麦粉(薄力粉と強力粉)とドライイースト、トマト缶、チーズ、卵ついでに牛乳とチョコレートを頼んでおく。食べられなかったので、手作りしちゃうぜ。ここなら、誰も邪魔しないしな。
チョコ味のシリアルに牛乳をかけて、シリアルはパリパリのうちに食すに限る。そして、チョコが溶けた牛乳を一気に飲む。この食べ方はいつになっても止められない。
洗い物を片してから、DWMにログインした。
俺は未だにうろの中にいたが、体は楽になっていた。多分、先生が草を食べさせてくれたのだろう。
うろの外に顔を出してみたが、誰もいなかった。先生、もしかして真っ裸で出歩いてるのか?何それ、不審者じゃん。せめて、俺の上着だけでも着させないと。って、スライムに戻ってる可能性があるのか。
「せんせー?」
なるべく小さな声で、呼び掛ける。大きな声なんか出して違う魔物が出てたら嫌だしな。
「せんせー?」
もう一度呼び掛けると、湖の水面が揺れ動く。そこからぬっと頭を出した。白い髪が顔にピタリと張り付いている。湖から手を差し伸べられる。俺は迷わずその手を取った。
『お前の名前を教えろ』
声が頭に響く。もしかして、先生の声?何処かで聞いたことのあるような声だった。
「俺はカカオです」
うっかり敬語になったのは、この人型スライムを敬称で呼んでいるからだろう。
『カカオ』
頭に響いた声が頭痛を招き、身体中に苦痛が駆け巡る。先生は俺が痛みに崩れ落ちても、手を放してくれなかった。なんで痛みが続くのか俺にはわからなかった。HPが削られているならば、俺は死に戻りしているはずだ。だが、俺は死んでない、つまりはこれは直接的な攻撃ではない?
痛みのせいで上手く考えられなかったが、先生が元凶であることには違いないだろう。
「止めて、止めてくれ」
吐き気を堪えながら、涙鼻水垂らしながら、恥も外聞もなく先生に助けを求める。スライムに体当たりされたって痛みなんか感じなかったのに。大体この種族は痛覚が鈍いんじゃなかったのか!?昨日から踏んだり蹴ったりだな、本当に!
痛みのせいで徐々に怒りがたまってきた。先生は苦しむ俺を見ても何もしてくれない。
『俺に逆らうな、───』
逆らったことなんて1度もないだろうが!痛みのせいで言えなかったが、頭の中で怒鳴った。逆らう余地もなく浚われて、草を食べさせられて、これ以上何しろって言うんだ。逆らわないんじゃない、俺はお前には逆らえないんだ。弱いからな。ポンコツは逆らわない!
逆らわないと、何度も何度も繰り返し、心の中で思う。すると、さっきまでの痛みが嘘のように引いていった。吐き気も息苦しさもない。
「え?」
『今から俺がお前の主人だ』
「え?」
予想外の言葉に思考が停止した。この人型スライムはなんていいました?ちょっと日本語話してもらって良いですかね。
先生にぶん殴られて瀕死状態になるまで呆けていた。




