96.命令?
お昼寝をして寝過ごした。時計を見ると、21時。道理でお腹が空くわけだよ。
俺は寝ぼけながら、太郎さんは帰っちゃったよな、と考えていた。しかし、扉から溢れるリビングからの灯りで少し不安になった。もうずいぶんと遅いけど、まさかな。
ゆっくりと開けてみると、テーブルの真横に微動だにせず立っている太郎さんがいた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます····?」
太郎さんの言葉におうむ返しのように繰り返す俺。夜だけど挨拶がおはようで良いのか?なんてどうでも良い疑問が浮かんだ。
俺はその疑問を頭を横に振ることで、吹き飛ばす。違う、違う、そうじゃない。
「えと、待っていてくれたんですね」
アハハハとから笑いする俺は、自分で何笑っとるんじゃいと、つっこむ。そんな気まずそうな俺を横目に太郎さんは、椅子をスッと引いた。
「どうぞ。今からご用意いたします」
「あの、俺、自分でしますから大丈夫です!」
太郎さんが、夕食の準備をしようとキッチンに向かおうとしたので引き留めた。いや、ここまで待たせといて、用意しろなんて鬼畜過ぎるだろ。
俺の言葉を聞いて、ピタリと止まる太郎さん。
「もし、俺が来なくても、食事の支度が終われば帰ってもらって大丈夫ですからね?」
俺は太郎さんにそう告げる。太郎さんは俺の方へと体を向ける。
「それは命令ですか?」
太郎さんの言葉に俺は、少しビビる。え?命令?え?これ命令だっけ?
「ち、違います。ただ、えと、太郎さんが迷惑なんじゃないかって思いまして」
「迷惑なんてものはありません。私は仕事で来ていますので」
「でも、ほら、夜遅くまでいたら、お腹空いたりとか、太郎さんの寝る時間とか無くなっちゃうでしょう?だから····」
「お気になさらず」
えぇ?何、太郎さんって仕事命の人だったの?もしかして、他のところにいる人達もこんな感じなのかな?
「じゃぁ、命令だったら聞くんですか?」
「はい」
「えっと、じゃあ、21時以降····いや、20時以降に俺がリビングに来なかったら帰って休んでください。命令です」
こ、これで良いかな?不安に思う俺に、太郎さんは頷いた。
「分かりました」
俺はホッと息を吐く。ん?これって良かったことなんだよな?なんか、言い方偉そうじゃね?
内心、自分の言葉に引きつつも、作り笑いをする。
「じゃあ、今日はこれで。お疲れ様でした」
「いえ、今日は最後までやらせて頂きます」
お、おう。太郎さんも中々強情だなって思ったが、夕食後に太郎さんがいなかったときの料理をどうするかの話し合いがあった。
味噌汁は鍋の中に、おかずはすぐにレンチンできるように皿の上に乗せてラップをし冷蔵庫の中に、ご飯は炊飯器、パンの場合は冷蔵であれば冷蔵庫、でなければかごの中に入っているのとのこと。それと、食事の内容が書かれたメモをテーブルの上に置いておくので確認をすること。
なんだか俺は何歳児だ、と思うような内容だったが、こういう確認を見過ごすと、後々にトラブルに見舞われたりするので重要なのだ。大事なのが、自分だけではなく、相手も理解していること。相互理解ってやつだな。
そうして、理解したあとは、太郎さんは頭を下げて部屋を出ていった。
なんだか、色々と疲れたがとりあえず、夕飯は美味しかった。特になすの天ぷら。




