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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第93話 希望の一手

 まるでオセロの駒を裏返すかのように、盤上の戦況はクルリと一変した。


 死者の軍団を封じられたこともだが、何よりカルラとウィーの増援が大きかった。

 つい先程まで戦いを楽しんでいたサリエルが、今では防戦一方。

 確実に俺達がサリエルを追い詰めていることは明白である。


 しかしそれでも、サリエルの顔から余裕が消えることはない――。



「フンヌゥゥッ!!」ガドロフの拳が頭蓋を砕き、

「ラアァ――ッ!!」師匠の太刀が身体を斬り裂く。

 

 致死に直結する傷。本来ならば即死に繋がる負傷だが、サリエルの身体は際限なく再生し続ける。

 どこぞの不死身男を相手取っている気分になる。


「おいおい。不死身なんて特性、まさか天使全員が持ってるわけじゃねぇよな!?」


 そうだったのなら絶望するしかない、が――。

 そんな理由で戦いを放棄する奴はこの中にいない。諦めるのは死んでからでも遅くはない。


 いくら傷を負おうがひたすらに再生を繰り返すサリエルと、ひたすらに攻撃の手を止めない俺達との戦闘は、少しずつだが着実に終わりに向かって動いている。


 これは消耗戦だ。先に魔力の尽きた方が負ける。そして恐らく、それは俺達の方だ。

 対峙しているからこそ解る。

 俺の滞在魔力量を泉と例えるならば、奴の魔力量は大海に相応する。

 残存魔力量は4割弱。味方の奴らも然程俺と変わりはないだろう。

 このまま戦い続ければ、1時間以内に俺達は敗北する。


「…………っ」


 身体中が熱を帯び、全身が鈍い悲鳴を上げている。

 長時間に渡り魔力を酷使しすぎたせいだ。

 新たに習得した魔力法に身体が慣れていないこともある。かと言って、攻撃に注ぐ魔力を緩めることはできない。緩めたところで終わりがほんの少し先延ばしになるだけ。いや、むしろその逆で、ほんの僅かでも攻撃が緩んだ隙を奴は見逃さない。


 状況は悪化する一方。こちら側が優勢にも関わらず攻め切れないのは、現状を打開する一手が足りないからだ。

 闇の中、どこにあるかもわからない、ソレこそ本当に実在するかどうかも怪しい弱点(モノ)を、制限時間内に手探りで探す。


 何かカラクリがあるはずだ。

 奴の動きを細かく観察しろ。

 他と比べ再生が遅い部位はないか?

 悟られぬよう庇っている箇所はないか?

 奴の言動に不可解な発言はないか?

 安易に見落としている点はないか?

 考えろ。察しろ。見極めろ。


 何でもいい。何か、何か……。



 ふと、何か違和感が脳裏をくすぐった。


「…………」

 

 それは奴の視線――。

 一見、向かってくる攻撃全てを目で見て確認し、防御に徹しているかのように見える。

 ――が、よく見れば攻撃とは真逆の方を向いていたりと、サリエルが攻撃を見ずに防いでいることは直ぐに分かる。

 奴の視界の端には、必ず彼女の影があるからだ。


 サリエルが唯一最も警戒を置いている人物。それが《封縛の勇者》ウィー・リルヘルスである。

 同士打ちを誘う立ち回りで攻撃を遮り、ウィーが攻撃を出せないよう意図的に俺達を盾に上手く身を隠している。しかも常に反対側にはカルラを置き、カルラの自滅突進を避け、ウィーを近づけさせないよう全て計算されつくしている。


 二つ名の通り、ウィーの能力は己が魔力を流し、対象を縛るといったモノだ。

 人体に物体。魔力を流してしまえば液体だろうと関係ない。そう、それが例え神器であったとしても。

 サリエル自身もウィーの能力を厄介だと言ってい――……。


 そこで違和感が疑問へと姿を変えた。


 俺は……いや俺達は、とても重要なことを見落としているのかもしれない。



 サリエルは、どうしてウィーの攻撃を避ける必要があるのか――?



 初め、サリエルは身体の自由を奪われることを懸念しているのだと思っていたが、別に四肢の自由を奪われることを危惧する必要はない。なにせ頭を砕かれたところで奴は死なないからだ。

 それに奴は一度、自らウィーの攻撃を喰らっている。


 俺達の目の前であえてその身に攻撃を受け、

『封縛。この中で最も厄介な能力ですね』

 奴がそう口にしたことで、"サリエルがウィーを警戒している"と俺達に強く認識させることにより、ウィーの攻撃を回避する理由を作った。

 そして同時に、ウィーの能力で四肢を縛られると困る、そう俺達の目を欺いたのだ。

 もしそれが、腕を囮に俺達にウィーの能力を過小に思い込ませるための意図的な行動と発言だとするならば、もしかすると俺達が思っている以上にウィーの能力はサリエルにとって危険な代物なのかもしれない。

 でなければ、わざわざ攻撃を受ける必要も、回避する理由もないだろう。

 迂闊だった。まんまと奴に思考誘導させられていた節がある。


 腕ならば問題ない。言い換えるなら、腕以外を縛られると不味い――。


 落ち着けと、自分を制す。

 これは一つの仮設だ。推論だ。可能性だ。そして希望だ。

 もしウィーの能力がサリエルの不死を無効化できる鍵ならば、やってみる価値はある。

 0.1%でも可能性があるのであれば、賭けるには十分――。



 ウィーと目が合う。

 小さく頷きかけると、ウィーはサリエルに気づかれぬよう顔色一つ変えずに、不自然なく俺の後方へと身を移す。

 作戦は伝えていない。

 僅かでも不自然な行動を取り、警戒されれば奴に近づくことすらできなくなる。

 色々な意味で、チャンスは一度きり。

 心を決めた。

 ウィーなら対応できると信じ、俺はサリエルとの間合いを詰め、一歩、死に近づいた。


「「――――」」


 サリエル、師匠、カルラ、ウィー、エスティア、ガドロフ、ノウ、ウェルガー、エメ。

 全員の意識が俺に集まる。

 無視して、更に一歩死に踏み込む。


「バカッ!? 下がれッ!!」


「前に出すぎですッ! ヴィレン!!」


 サリエルの懐。鎌の射程範囲内。仲間の必死の驚叫を背に、俺は"死"にその身を晒した。


 自滅覚悟の一撃。サリエルに俺の行動の意図は理解できない。理解するための時間が圧倒的に足りない。

 故に彼は、この場での最適解を選択する他ない。


 サリエルの鎌がゆっくりと振るわれる。遅れてエメの転移が発動するが、手遅れだ。


 眼前に迫る死に、身体が竦む。

 剣を握りしめる手に汗が浮く。

 下唇を噛み締め恐怖を誤魔化し、俺はサリエルの眼を真下から睨み返した。

 サリエルの瞳にあるのは失望と悲嘆の色――。


「自滅とは愚かな。残念です、漆喰の勇者よ!!」


 にやり。目と鼻の先まで迫った死を感じ、口元が緩むのが止まらない。

 自滅、ねぇ……。

 確かにそうだ。俺もカルラやフィーナのこと、あんまり言えねぇなぁ。

 死の縁に立った俺の身体は限界を少し超える。

 魔力が身体の隅々まで行き渡る感覚。その力全てを剣を振るう動作一つに込める。


「――――ッ!!」


 異物が身体に食い込む違物感。ひんやり冷たい大鎌が俺の右脇助骨を紙のように切り裂き肺に突き刺さる。

 一瞬の出来事ゆえ痛みはまだ感じない。あるのはひたすらに恐怖だけだった。

 攻撃に注いだ魔力が防御に分散しかけるのを堪え、俺は歯を食いしばる。

 思い出せ。忘れてなるものか。妹を傷つけたコイツを、絶対に許すな――ッ。

 恐怖の代わりに憤怒を燃やし、瞳を紅く全力で剣を振り上げる。


「――――ッう、をおおおおお!! サリエルぅ――――ッ!!!」


 大鎌が肺を通過し、進路上にある骨やら臓器やらをことごとく轢き裂き右腰から飛び出した。

 代わりに俺の命を賭した一振りが、サリエルの左腕を鎌ごと引き離す。


 最後。暗く、遠くなる意識の底で、死力を尽くし、俺は声にならぬ声で囁いた。



――九番目(ノヴェント)終焉(ピリオド)因果(ルール)否定率(・ブレイク)》――

 

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