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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第91話 死人の天敵

 あたり一面に広がる橙赤の炎。


「神秘的な炎だねぇ」

「何が起きているんだ……?」

「どうなってやがる、屍達が一斉に……」


 屍を介し炎は伝染し、身体を焼かれた屍が、灰のように儚く散っていく。


「ア、あァ……っ!」


 屍が漏らす悲鳴が歓喜の声に聞こえた。屍が流す黒涙が嬉し泣きに見えた。

 言葉にならぬ声が。

 顔にだせぬ表情が。

 心を通じて、俺の心には届いた。


 ああ、やっと開放される。ありがとう。ありがとう――。





「ふむ。これは……"壊された"というより"召された"と言った言葉を当てるのが正解でしょうか。いずれにせよ私の人形達が使い物にならなくなったことは確かなようです」


「ハっハぁっ!! よお分からんが形勢逆転だなぁ化物(てんし)様よぉ!!」





「――なぁカルラ。お前……何したんだ?」


 隣で焼け逝く屍達を見つめているカルラが、いつもの調子で話し出す。


「なーに。別に大したこたぁしてねぇよ。アイツらの身体ん中に生命(いのち)()っただけさ。

 核が魂だけなら、今の俺の力でどうにかできんじゃねぇかなーって思ったんだけど、読みが当たって良かった良かったぁ」


 ふふんっと満足気なカルラ。

 違う。そうじゃない。ソレじゃない。俺は首を横に振って、


「違ぇよ、お前のソノ力の……」


 しかし俺の言葉は、強引に上から踏みつぶされた。


「――さーてとぉ、レンレン! そろそろフィーナちゃんを傷つけたあのイケメン糞野郎をぶっ潰しに行くか!」


 言うよりも早く、カルラは我先にと駆け出していく。

 聞かれたくないなら聞かないが、いくら何でもあからさますぎだ。


 たぶん、フィーナが助かったことと関係しているんだと思う。

 恐らく、ウィーがあんな顔をしていたことと関連しているんだと思う。


「まったく。無茶しやがって……」


 無茶させた当の本人は俺なんだが。

 心の中で感謝を捧げ、俺は振り向きながら、


「エスティア、俺達も――……」


 言いかけ、言葉を切る。

 呆然と立ち尽くす彼女の視線の先を捉え、「先に行ってる」と一言残し、俺はカルラの背中を追った。





 エスティアの視線の先。炎に包まれる屍達の中。黄色い髪の一体の屍を見つめていた。


「レオ様……」


 ぼそり。エスティアの口元が小さく動く。

 その屍もまた、黒い瞳で真っ直ぐエスティアの姿を捉えていた。


「…………」


 周りの屍と同じく、次第に彼の身体も灰となり散り始める。


「――くっ!!」


 一歩前へ踏み出しかけ、エスティアは奥歯を噛み締め踏み止まる。

 憤怒。悲哀。無念。悔恨――。

 エスティアは全ての感情を沈め、右手を胸元に押し当て静かに頭を下げた。


「あなたは誰よりも強く、誰よりも優しくあろうとした。わたしはそんなあなたを尊敬し目標とし、お慕いしておりました。

 後のことは私共に任せ、安らかにお眠り下さい。

 長い間、本当にありがとうございました……!!」


「…………」


 屍の頬に微笑が浮かび、直後風に吹かれ、屍は空の彼方へと散っていった。



 長きに渡り【聖王】という重みを背負ってきた彼には、思い残すことが山ほどある。

 最後までグリンピースが食べれなかったこと。もう一度魚料理を堪能できなかったこと。結婚できなかったことに、友との約束を果たせなかったこと。

 でもやはり、サリエルに暗殺され、魂を操られ仲間や友に矛先を向けた自分のことを、責任感の強い彼は許すことができないだろう。

 後悔や未練が渦巻く人生の中、死んで蘇らされ、魂消えゆくその最後に、彼は見た。


 あれほど幼かった少女の成長した姿を――。


 それが彼とっては、後悔や未練といったモノが帳消しになるくらい嬉しいことだった。

 子どもがいない彼にとって、彼女は愛娘のようなものだから。

 大人びた彼女(むすめ)を見て、彼は満足しながら大空に旅立った。


 大きくなったな。エスティア――。





「――よぉ、さっきは世話んなったな天使サリエル!」


 なんとか師匠と合流し、カルラとウィーに続きサリエルに斬りかかる。


「4対1、ですか」


 サリエルは余裕の表情を崩さない。


「エスティアさんと狼さん達を含めれば7対1っすけどね」


 ウィーのクナイをサリエルが右腕で受ける。

 彼女の能力は魔力を流した箇所の自由を奪う。故に致命傷でなくとも、充分致命傷なり得るのだ。

 サリエルの右腕がだらんと垂れる。――と同時にウィーの顔色が変わった。


「おっ、も――……!」


 ウィーの能力は封じる大小、質量、時間、対象で魔力の消費量が変わってくる。

 仮にも神の眷族足る天使の片腕を封じるのだ。海を数時間縛りつけるのとは訳が違う。

 それを踏まえた上で、サリエルはわざとウィーの攻撃を右腕で受けたのだ。


「封縛。やはり、この中で最も厄介な能力ですね……」


 能力の確認を含め、ウィーの魔力を早めに空にさせるために――。


「しかし。数が増えたところで連携が取れなければ何ら脅威ではありません。

 ほら。こんなふうに、容易く崩せますし、――ね」


 振り向きざま、背後を取ろうとしていたカルラの喉元をサリエルの鎌が襲う。


「うをっ!? なんで分かっ、た」


「逆に私に気づかれないとでも思っていたのですか――?」


 虚を突かれ、眼前に迫った鎌をカルラは躱せない。そのまま一直線に、鎌がカルラの首を薙いだ――かのように見えた。


「――なんてな?」


 目を見開き、驚愕の表情を見せるサリエルの腹に、カルラの右足が吸い込まれていく。


「っらあ――ッ!!」


 俺の不意打ち以外で、この戦い初めてサリエルにまともな攻撃が届いた瞬間だった。

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