第87話 敵の敵
咳ひどすぎてこれはもしや新型肺炎か!?と思ったけどただの風邪でした
戦いの影響により大地は抉れ、そこら一体に転がる建造物の残骸に火の手が回る。
ここがもし本物のルクシオンであれば、今頃王都は何万という数の民衆の血で真っ赤に染まっていたことだろう。
考えただけで血の気の引くような惨状に、背筋に悪寒が走る。
俺は荒れた呼吸を整え、彼らに続き再びサリエルに斬りかかる。
視界の奥。派手な音とともに王城が崩れ落ちた。
「フンヌぅッ!!」「しねェッ!!」
ガドロフにウェルガー。
「よっと!」「はぁッ!!」
ノウにエスティア。
師匠に教わった魔力法を用いて、皆目に見えて格段に動きが変わった。かろうじてだが、サリエルのスピードにも対応できるようになっている。
数十分前とは別人のようだ。
そう、俺を除いて。
「おいこらやる気あんのかでれすけ3号!? よりにもよって一番飲み込みが遅えのが俺の弟子っつーのはどういうことだ、あ?」
……と言われても、できないものはできないのだ。仕方ないだろう。
何度試みても上手くコツを掴めやしない。魔力を纏う使い方が身体に染み付いていて離れないのだ。
――ってか第一に、他の奴らの呑み込みが早すぎるんだ。魔力を内側に流すってどうやるんだまぢで。
「お前の魔力は硬ぇんだヴィレン。もっと柔らかく、柔軟なイメージでヤレ!!」
師匠は簡単に言ってくれるが、魔力法の修行は俺が最も苦手とする分野だ。
フウガとライガが2年で魔力を纏う段階まで行ったのに対し、俺は魔力を自在にコントロールするだけでも、習得までに2年近くの月日がかかった。
『命を賭した戦いの中でこそ力は開花するモノだ』などとどこかの偉人が言ったらしいが、
「ぅあ――」
音速に迫るサリエルの鎌を、間一髪のところで剣で受ける。あまりの威力に足が宙に浮き、そのまま数十メートル後方まで吹き飛ばされる。
「――ッぶねぇ……!!」
まったく誰だそんな適当なことを口にした奴は。適当じゃないにせよ体験談にせよ、どのみち皆が皆戦闘センスに恵まれた奴らばかりじゃないんだ。
「そこんとこ、よく考えてから後世に残してくれよな……」
ビリビリと痺れる両手を交互に振りながら、俺はどこの誰とも知らぬ偉人に憤りを覚えた。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く"ヤレ"でれすけ!!」
「さっきからヤレヤレって、どっかのクソ師匠がやる気がどうこう言ってた気がするのは俺の勘違いでしょうか?」
「うるせぇお前は別だ。さっさとヤレ。できねぇなら死ぬぞ? いや殺すぞ?」
強制かよ。苦笑する。まぁ知ってたけど。
殺すぞはともかく、内側に流す魔力法を使えなくては、サリエルのスピードには絶対に対応できないだろうし、この先天使と戦っていく上で、否が応でも覚えなくてはならない関門であることまず間違いない。
さてどうしたものか、と思った矢先。
「オイ、魔人族!」
戦線から離れ、俺の元まで後退してきたウェルガーが話かけてきた。
「なんかあったか、人族?」
嫌味を嫌味で返してやると、ッチと鋭い舌打ちが聞こえた。
数秒躊躇い、それからウェルガーは乗り気しない表情で口を開く。
「……テメェ頭で考えるより、身体でコツを掴んで覚えるタイプだろ?」
「ああ、」頷く。正にその通りだ。
「だったら頭で考えてんじゃねェぼけ。余計に混乱するだけだバカ」
…………。ぼけ、ばか?
えーと、つまり何が言いたいんだこいつは? わざわざ俺をバカにしに来ただけなのか?
それでなくとも俺だけできてなくてメンタル傷ついてんのに追い打ちかけてくるとか、小突いていいかこの狼男?
無言で左拳を硬く握りしめる俺に一切見向きもせず、ウェルガーは続けた。
「テメェ剣を振るとき腕全体に力を入れたままか? 違えだろ。力を入れるとこと抜くとこがあんだろ」
そりゃまぁ。力の抜入は、剣術に関わらず闘術の基本だからな。
無駄なところに力を入れても所詮無駄にしかならない。無駄は無駄でしかなく、無駄以外の何物でもないのだ。
ならその無駄を違う場所で上手く利用してやればいい。
脱力と入力は武闘家の基本ではあるが、脱力のタイミングや入力する箇所を細かく使い分けてこそ、真の武闘家がなんたらかんたら〜。
と、魔力の扱いを教わる前に、師匠にしっかり叩き込まれている。
「それと一緒だ、変に意識すんじゃねェ。普段通りやりゃあいいだけの話だカス。力を入れる箇所に合わせて魔力を流しやがれ。
初めのうちは、身体の動きについてく感じで後から魔力を流すんだ。それができて初めて、動作と魔力を同時に行う段階に行ける」
なるほどな、と。師匠の説明よりこいつの説明の方が俺的にはピンとくる。
「……さんきゅ。やってみる」
もしやコイツも俺と同じく不器用タイプなのだろうか……。
ふと思った。
ん。もしかして、もしかせずともアドバイスだよな今の? どういう風の吹き回しだ?
顔にでていたのだろう、またもや舌打ちされた。
「勘違いすんじゃねぇぞ? 俺らは敵同士だ。あのクソ天使をぶっ殺すために、今限り、今夜限定で共闘してるだけだ。
テメェみてぇなガキでも一応は勇者だかんな。死なれても抜けられても困んだよ」
……え、なんだコイツ。ツンデレか? ツンデレなのか!?
口は絶望的なまでに悪いが、それを除けばけっこう面倒みがいい。
この戦いが無事終わったら、師匠がやると思われる祝勝会か何かで絡んでみようと密かに思う。
「それと俺はウェルガーだ、黒助」
「……ん、おい待て。黒助って俺のことか!?」
言いながら、俺は一足先に走り出したウェルガーの背中を追った。




