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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第86話 魔力の使い方

 猛炎が街を呑み込み、遅れて周囲に熱風が吹き荒れ、肌が焼けるようにピリつく。

 俺がエスティア・テイルホワイトを"千変万化の勇者"と称す理由がこれだ。

 所有者の想像力に依存する彼女の神器に限界はなく、こういった自然現象である"炎"でさえも忠実に再現することが可能であり、そしてエスティアの魔力と想像が続く限り炎も勢いを弱めず延々と燃え続けるのだ。

 そう。彼女の想像が続く限り。


「――見事な幻炎ですが、その分想像に意識を集中させる必要があるため、隙ができやすいというのが欠点ですね」


 いつの間に炎の牢獄から抜け出したのか、大鎌を振りかぶったサリエルをエスティアの両目が捉える。


「くっ――!!」


 直後エスティアの想像が途切れると同時に、街に広がる炎も痕跡すら残さず幻に消え失せて行く。

 吸い込まれるようにエスティアの首元を狙うサリエルの大鎌。

 サリエルの口にした通り、想像に意識を割いていたエスティアの反応は致命的に遅れ……


「――ほぉ、んな欠点があるのか。ご親切にどうも」


 衝撃に火花を散らせ、エスティアからサリエルの一撃を間一髪のところで防いだのは、紅の太刀だった。


「人間がこの速度にまで対応できるとは、いやはや本当に驚かされます」


「こんなんで驚いてるようじゃ、七大天使とやらも案外大したことねぇんじゃねぇか?」


「ふふっ。それはどうでしょう。これでも私、末席の第七天使ですので」




「…………」


 生きているかの如く滑らかに振るわれる大鎌は、まるで鎌自体に意思があるのではと錯覚するほどに常軌を逸した軌道を見せる。

 師匠と打ち合うサリエル。彼の動きは先程までとは明らかに違っていた。

 そしてそのスピードに付いていけている師匠もまた師匠である。

 お互い一歩も引かぬ太刀と鎌の乱舞。なんとか目で追うのが関の山で、身体があのスピードについていける自身がない。


 息を呑む。


 ここまできてまた、力の差を見せつけられる。

 自分の至らなさを、噛み締めさせられる。

 

 何十回と太刀と鎌を交えた後に、サリエルと師匠はお互い距離を取った。

 手を伸ばせば届きそうな距離にある師匠の背中が、今の俺には遠く大きく見えた。


「――いいかお前ら、よく聞け!!」


 俺達に背を向けたままで、一瞬足りともサリエルから視線を外さず師匠は言った。


「今お前らがやってるのは、魔力(リア)を身体や武器に纏わせ攻撃力と防御力を強化するっつー、極々一般的なやり方だ。

 だがそれだけじゃあ化物(コイツ)のスピードにはついてけねぇ。分かるだろ」


 サリエルを牽制しながら、師匠は続ける。


「なら、どうすりゃいいか?

 ――簡単だ。身体の外側に纏うだけじゃなく、内側にも魔力を流しゃあいいだけの話だ。

 身体の動きに合わせて魔力を流し、筋肉の収縮速度や関節の動きを補助すりゃ、身体能力を大幅に底上げでき、なおかつ筋肉や関節を経由し最後の最後に武器に纏わせることにより、攻撃力も向上できる、と――。

 幸いお前ら、俺の動きを眼で追える段階まではきてる。んでこれができりゃアイツのスピードにもついけるようになる。

 よし、分かった奴から実践してみせろ!!」


 外に纏うのではなく、内に流す。それにより師匠はあのスピードで動いていたというわけだ。もちろんその技術を極めた師匠だからこそではあるが。


「理屈がわかったところで、やれと言われてすぐにできる代物ではないでしょう」


 正直、サリエルの言う通りである。魔力の扱いなど、普通何年も修練を続けてようやく会得できるものなのだ。それをぶっつけでやれと言われ、周りの表情は硬い。

 しかし師匠にとってそんなことはどうでもいいのだ。

 この男にとって最も重要なこと、それは――。


「端から"できる"できねぇ"は問題じゃねぇんだよ。できねぇと思ってても、やりゃできちまうかもしれねぇ。

 だが、ただやらされてるだけじゃ意味がねぇ。"やりたいか"やりたくねぇか"。全てはソイツのやる気にかかってんだよ!」


 顔を上げたガドロフ達の瞳に、ザインの後姿が亡き聖王レオボルトと重なって見えた。


『――できるできないではない。"やるか"やらないか"。それは君たちの気持ち次第だよ』

 

 ふっ、とガドロフが軽く吹き出した。

 

「……まったく。騎士王殿、貴殿は我々の闘志に火をつけるのがお上手ですな」


 ガドロフにノウ、ウェルガー、エスティア、エメ(顔に表情を出さないので分かりづらいが)。

 彼らの瞳から消えかかっていた闘志が再びメラメラと燃え始める。

 何が彼らをここまで奮い立たせるのか。師匠の存在もあるだろうが、恐らくは聖王の件が一番の要因だろう。


「レオが鍛えたお前らならできるだろうよ」


 そう師匠はガドロフに返し、そして……


「問題はウチのでれすけ三号だ。おいヴィレン、戦いに集中できねぇなら下がってろ馬鹿弟子!!」


 怒鳴られた。


「フィーナのことは任せて来たんだろ。預けた背中を心配するのは、預けられた奴にとって最大の侮辱だ。それとも背中を預けられねぇほどの無能かアイツらは!?」


 俺が戦いに集中できていないことを、師匠はとっくに見抜いていた。

 そして俺は心のどこかで、アイツらを信頼しきれていないのだ。だから今だにフィーナの安否ばかりを気にしている。

 それじゃあ駄目だろ、と。

 なんのために俺はここにいるんだ。

 カルラとアリシア、ウィーにフィーナを任せた。ならば心配することは何もないだろう?

 リヴィアにあそこまで言われておきながら、俺は何をしているんだ……。


「――――」


 歯を食いしばり、深呼吸して、気持ちを沈める。

 後でフィーナに言いたいことが沢山ある。そのためにも、まずは目の前の敵を片付けなければならない。

 集中だ。集中しろ。

 邪念はいらない。深く、神経を研ぎ澄ませ――!!


 心を落ち着かせ、それから俺は師匠の背中を見た。


「まだやれる、……やらせて下さい!」


 師匠は何も言わなかったが、やるならせいぜい足手まといにならないようにしろ、そう言われた気がした。

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