第73話 銀氷の風
技名ちょくちょく変わってるかもしれんけど、多めに見てくださいごめんなさい(手直しする体力がない
他の王国にある玉座の間と比較すると、白の王国の玉座の間はかなり広大に設計されていて、黒の王国の1.7倍程ある。
300人程度なら余裕で入れるだろう。戦闘に関しても、一対一の状況ならば余裕を持って戦える広さがある。
エスティアの猛攻を躱し、数歩距離を取り剣を後ろ手に構える。――と。
後ろから「うひゃ」っと悲鳴が聞こえた。振り向くと、構えた剣の刀身1センチ下にカルラの鼻先があった。
「……何してんだお前?」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ。それ俺の台詞だからねレンレン。もっと違う言葉はないんですか――い!?」
何か必死に叫んでいるカルラを、飛翔する斬撃が襲う。
「そこ、あぶねぇぞお前ら。もっと端でやれ」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ騎士王さん。これでも十分端に――」
レオボルトと相対している師匠の斬撃を紙一重で躱したカルラに、今度は巨大な岩石が振り落とされる。
「ふんぬぅ!!」
ガドロフの一撃にビキッと音を立て、絨毯の下の大理石でできた床がヒビ割れる。その拳もどうにか回避したカルラを、ノウ・イエスマンが追い打ちをかける。
逃げるカルラ。追うノウとガドロフ。
「忙しい奴だな」
軽く周囲に視線を向けると、フィーナとアリシアがリリー・ヴァイオレットと戦っているのが見えた。リリーの揮う植物のムチには毒が塗ってあるのだろうが、中距離型のフィーナと近中遠万能型のアリシアなら心配ないだろう。
ウィーはウェルガー・クロウと戦っているが、見た感じ全く問題なさそうだ。両腕を封じられたウェルガーが玩具にされている。
「――よそ見している暇はありませんよ。ヴィレン」
エスティアの攻撃を防ぎながら俺は思う。いや、俺だけではない。恐らくここにいる誰もが思っていることだ。
「まったく。ガキのチャンバラだな、これじゃあよ」
殺意の重さのない剣を軽く弾き、俺はぼそりと呟いた。
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玉座の間最奥付近では、【騎士王】ザイン・ドラグレクと【聖王】レオボルト・レイジングが相対していた。
「いつまで遊ぶつもりだレオ。このままじゃ乳が開かねぇぞ?」
「うむ。それを言うなら埒が開かないだ、ザイン」
「どっちも同じようなもんだろ。いちいち細けえこたぁ気にすんじゃねぇ、よ!」
ザインの攻撃を槌で防ぎ、レオボルトは距離を取る。
「細かいかどうかはさておき。君の言うとおり、このままでは埒が開かないな」
そう言うと、レオボルトは左足を一歩前へ踏み出し、10メートル以上離れているザインに向け、その場で槌を揮う。
「奔れ――『雷霆の電靂』!!」
突如として槌から発せされた電光が周囲を眩しく照らし、雷音が激しく玉座の間に響き渡る。同時に、槌から生まれし無数の雷がザインに向け放出された。
「チィッ!!」
ザインは咄嗟に左手で電光を遮りながら後ろに飛ぶ。目を細め、感だけで追尾してくる全ての雷を切り刻むと、
「天地衝殺 無我ノ――」
ザインの性格上、やられっぱなしというのは性に合わない。故にザインは反撃に出ようとする。その行動を、レオボルトは読んでいた。
薄れゆく電光の中から現れたレオボルトの槌が、ザインの左脇腹を鋭く襲う。
即座に回避が無理だと判断したザインは、左腕で槌を受けた。大抵の攻撃であれば、ダメージ1つ通らないザインの濃密な魔力防御の上から、レオボルトの一撃がザインの骨を軋ませる。
「ぐッ――」
あまりの威力にザインの身体がくの字に曲がる。しかし、レオボルトの一撃はそれだけでは終わらない。
「響け――『雷霆の電震』!!」
左腕に接触している槌を介し、ザインの身体中を雷が駆け巡った。
「が、ァ――ッ!!」
悲鳴と雷音を置き去りに、ザインが吹き飛ばされる。
床に太刀を突き刺したザインの身体は、10数メートル吹き飛んだところでようやく止まった。
身体はところどころが焼け焦げ、未だビリッビリと感電しているにも関わらず、ザインは口元に笑みを浮かべ声を出し笑う。
「なんだ、手加減してんのか? それとも腕が鈍ったか、あ? こんなちんけなモンじゃねぇだろ、おまえの一撃はよぉ」
と強がって見せたものの、ただの痩せ我慢である。レオボルトの一撃は実のところかなり効いており、ザインの手足は痺れ、指先の感覚もあやふやになっていた。
だが、ザインの言葉に嘘はない。神器【雷槌ミョルニル】を従える【迅雷の勇者】レオボルト・レイジングが本気を出せば、この程度のダメージでは済まないからだ。
「加減をしたつもりはなかったが、生きたまま拘束となると、やはり無意識に加減をしてしまうのかもしれない」
レオボルトの頬に、薄く赤い線がにじむ。
「それにしても……恐ろしいほどの戦闘センスだな、君は」
「なーに言ってやがる。見切ったおまえの反射神経こそ異常だっての」
槌でザインを殴り飛ばしたときである。吹き飛びながらもザインはレオボルトに向け太刀を振るったのだ。防御に重点を置きながらも攻撃の手を緩めることを知らぬ、恐るべし戦闘センス。首を横にずらし回避をしていなければ、恐らく失明していたとレオボルトは思う。
切れた頬から流れ出る血を親指で拭い、それからレオボルトは再びザインを見据えた。
「最後にもう一度だけ聞こう、我が友よ。大人しく降参する気はないか?」
その問いに、ザインは口の端を吊り上げて笑った。床から太刀を引き抜き、軽く横に振る。
「残念だが、さらさらねぇな。知ってんだろ? 俺は"逃げる"ことができねぇんだ」
レオボルトはふぅと息を吐き、目を瞑った。
「そう言えばそうだったな。本当に残念だ、ザイン」
ゆっくりと開かれたレオボルトの冷たい瞳。ザインの中に何か胸騒ぎが起こる。
「なにをする気だレオ……」
レオボルトは槌を真横に向けた。その槌の先端に、今までとは比にならほど濃密な魔力が収束され、バリッバリリッと溢れだす雷の質がさっきまでとはまるで別物――。
「――待て、レオっ!! やめろッ!!」
雷に気を取られ、ザインは気づくのが遅れた。
レオボルトは槌を真横に向け構えたのではない。レオボルトは、真横にいる者に向かって槌を構えたのだ。
「穿け――『雷霆の電霎』!!」
「やめろ、レオ――ッ!!」
ザインの静止の声も虚しく、レオボルトの槌から雷の槍が発射された。
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大気がピリつき、肌が薄っすら痺れる。エスティアと戦いながらも、レオボルトが膨大な魔力を練っていることはなんとなく感じていた。
そして、師匠の焦る声を聞いた。
それでようやく気づく。真横に構えるレオボルトの槌が、真っ直ぐアリシアに向けられていることに。そしてアリシアが、リリーの操る植物に足を絡めらとられていることも。
『穿け――『雷霆の電霎』!!」
「いけません! レオボルト様!!」
俺への追撃を止め、エスティアが大きく叫んだ。絨毯を焼きながら、猛スピードでアリシアへと迫る雷。植物を解こうと必死に藻掻くアリシア。俺と彼女との距離は100メートルは離れている。間に合うはずもない。
しかし運が良かった。丁度よくアリシアの近くにいたカルラが、アリシアを庇うように前に出るのを確認し、俺は駆け出しかけた足を止めた。止めてしまった。
だって。カルラは殺されても死なない、不死の勇者なのだ。雷の槍に心臓を穿たれようが彼には関係ない。
俺はカルラに全幅の信頼を置いている、それは人柄としての信頼でもあり、彼の隠された実力のことでもある。
旅の途中で見せた、ライガとフウガを完封した身体捌きと剣技。不死であることを差し引いたとしても、彼が本気を出せば、恐らく俺はカルラに及ばない。
そんなカルラがアリシアの前に立った。笑みを消し、絨毯に膝をつき、腰に下げた魔剣に手をかけるカルラは本気の顔だ。なら安心して任せられる。
例えレオボルトの攻撃を相殺できなかったにせよ、カルラなら大丈夫。なんとかしてくれる。
そう、俺は思ったのだ。
いったい誰が想像する?
いったい誰が想像した?
そのカルラの前に、銀氷の風が吹いた――。
「――上位・氷魔法『氷地に咲く五枚の花弁』!!」
「フィー、ナ……」
気づくと、俺は走り出していた。
不安に焦燥に疑問に切望。俺の中をあらゆる感情が巡りに巡る。
事は一瞬だった。フィーナの創り出した花を模した5つの氷の盾は、レオボルトが放った雷槍と衝突した途端、呆気なく2枚が砕け散る。続けて3枚目、4枚目と。
「カルラ、フィーナをッ!!」
予想外の展開に思考が停止し、判断が遅れていたカルラとアリシアがハッと我に帰る。
しかし。その時にはもう、全てが手遅れだった。
フィーナに向けカルラが手を伸ばした、正にその時。五枚目の盾が砕け散った――。




