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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第71話 最悪の想定

 俺は今、エスティアの創り出した5本の剣を(さば)きながら階段を駆け上がっている。

 彼女の所持する神器【原初の(つるぎ)】は、エスティアが頭で思い描いた想像物を現実に形創る、みたいな能力であると当たりをつけている。

 2年前の大戦では何もない場所から巨大な壁や数千本の剣を創り出して見せたことから、想像物は彼女の魔力が尽きるまで無尽蔵に創り出すことが可能。

 しかし逆に、創り出した想像物の数や密度が多ければ多いほど操作性や強度が落ち、すぐに消滅して失くなることもわかっている。恐らく創り出した想像物は、魔力だけでなく彼女の集中力にも関係しているとみて間違いない。


「まぁ、そんなデメリットを帳消しにするくらい便利な能力持ってやがるわけだけど」


 状況は圧倒的に俺が不利であることだけは確かだった。中途半端に広い階段では、冥府十眷属(サモンズ・ハーデス)を使ってもあまり意味がない。

 エスティアが魔力で創り出した剣なので、魔象断絶閃(バイオレス・ロスト)との相性はいいが、大小問わず全ての魔力(リア)を打ち消してしまうため魔力消費をコントロールできず、エスティアの創り出した剣1本1本に対しいちいち使っていてはすぐに俺の中の魔力が空になってしまう。

 死葬叫終曲(トート・レクイエム)に至っては、精神力が強い者にはあまり効果が見込めない。

 他にも幾つか能力はあるにはあるのだが、条件が整っていない物も含め、ある程度広さがある場所でないと能力の発動は難しいだろう。


「いったいどこまで追いかけっこするおつもりですか?」


「どこまでってそりゃ、階段が終わるまでだろ」


 この王城には、玉座の間へと続く階段が計5つ設置ある。どうしてこんなに階段の数が多いのかは謎だが、俺達はその五棟にバラバラに移動させられたと考えるのが妥当だ。ならば落合場所は必然的に5つの階段の終着地点である玉座の間となる。


「それは困りますね……仕方ない」


 仕方ないとは何が仕方ないのか、そう声に出そうとした時。


「少し手荒になってしまいますが、あなたなら死ぬことはないでしょう」


 エスティアにより"創られた2人のエスティア"が、本体のエスティア同様3本ずつ剣を創り出した。





 終わりなき剣の乱舞を掻い潜り、果の見えぬ階段をなんとか登りきった俺は、玉座の間へと続く扉を蹴破り中に転がり込んだ。

 転がり込んで、すぐさま回避をとる。その途端、半秒前まで俺がいた場所に6本の剣が突き刺さった。


「あっぶねぇ――!」


 当たりどころが悪くなくとも、回避が遅れていれば致命傷だった。

 回避してすぐ、また次の攻撃が迫る。今度は5本の剣が俺めがけて飛翔してくる。

 手加減なんて文字は奴にはない。腕の一本や二本平気で千切る勢いで攻めてきやがる。

 左手を地面につくことで無理矢理に最低限態勢を整え、右手に持つ漆黒の剣を構えて――。


十番目(ディコード)終焉(ピリオド)――」


 5本の剣を破砕し、そのままの勢いで俺は2人の偽物(エスティア)を斬った。


魔象断絶閃(バイオレス・ロスト)――!」


 初めから反撃をしかけるなら、広さのある玉座の間だと決めていた。

 硝子が砕けるような麗音を残し、斬った偽物が砕け散る。


「お見事です」


 と、微笑を浮かべ本物(エスティア)が扉の外から玉座の間へと足を踏み入れる。

 魔力(リア)を全て防御に集中し、なんとか致命傷は避けられたが身体中擦り傷だらけだ。息を整え、エスティアを警戒しながら俺は改めて玉座の間を見渡した。

 暗闇をものともせず、眩い光を灯す巨大なシャンデリラ。そして、いやこの場合やはりと言うべきか。玉座の間の最奥にある椅子に腰を下ろした男――。


「やっぱりアンタが黒幕だよな、聖王レオボルト・レイジング」


 俺の脳裏に、昨晩会話の最後にレオボルトが放った言葉が思い出される。


『君たちが大戦を望むならば、我々は正々堂々戦うとここに誓おう。

 しかし天使と戦う上で大戦は避けるべき事柄でもある。敷いては我々五大国存続のためにも、一度 世界会議(テーブル)の上で言葉を交えるべきかもしれない』


「正々堂々戦いますっつったのは口先だけか?」


 俺は敵意と一緒に軽くレオボルトを睨みつけた。レオボルトは昨晩同様表情を変えずに淡々と言い放つ。


「黒の王国だけならまだしも、他の3国が加われば、我々が正々堂々戦って勝てる確率は0に等しい」


「そりゃまぁ、そうだろうな」


 3国どころか、青の王国が攻めてきた時点で白の王国に勝ち目は無いだろう。


「しかし、ここで黒の勇者3名と王2人を潰しておけば、我々にも勝機があるとは思わないか?」


 ……。


「勝率どうこうは置いといて。まずお前の判断が致命的に間違ってるだろ」


 勝機があるとは思わないか、だと? ふざけるのも大概にしろよ。


「今お前たちが取っている行動の全ては、大戦が起こることを前提にしている。大戦を避ける手段はいくらでもあったはずなのにも関わらず、だ」


 黒の王国はライムの件を知らない。あんな見た目だが、魔王バロルは話の分かる奴だ。世界会議を開き腰を据え話し合えば、少なくとも大戦は避けられたかもしれない。しかし夜襲を仕掛けた時点で大戦は確定してしまったと言っていいだろう。もう、手遅れなのだ。

 どうしてこんな馬鹿な手段を選択してしまったのか、全く持って理解しがたい。


「最悪を想定し行動することこそが肝心なのだ」


 最悪を想定し行動することはいいことだ。しかし、お前がそれを言うかレオボルト。


「お前にとっての最悪は大戦に負けることか? 違ぇだろ。大戦に国民が巻き込まれちまうことだろうが。その最悪を避けることこそが、王としてお前がやらなきゃいけなかったことだろうがッ!!」


 セレスとディルモットのこともそうだが、コイツは何かがおかしい。王としてではない。人として何かがおかしいのだ。


「聖王レオボルト・レイジング。お前は本当に――」


 その時だった。樫木を割ったような派手な音とともに、巨漢の男が扉を破り、玉座の間へ吹き飛んできたのは――。

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