第65話 白の王
想像していたよりも城内は物静かで、ひと気が少なかった。少ないというより無いに等しい。なにせ城内に入ってから俺達は、人一人とさえすれ違っていないのだから。
――が。流石に王の間へと続く扉の前には、武装した2人の人影があった。門番は何も喋らず、エスティアに一礼してから二人同時に扉を押し開く。
王の間――。絨毯や壁の模様など、細かい点を除けばリントヴルムやヴェルリムの王城と造りはほとんど同じだ。他の2つの城と違うところ、強いて言うなれば巨大な硝子が何枚も設置してある点と、俺達が通った扉以外に同じ形の扉が他に4つあることくらいか。
左右には5人ずつ王の護衛がついている。手首にリングはつけていないが、雰囲気からしてAランク級冒険者そこそこの実力を備えていることは間違いない。
そして中央奥の椅子に腰を下ろし、高みからこちらを見下ろす1人の男――。見た目は若く見えるが、口元の皺から察するに歳は師匠とあまり変わらないだろう。金色の髪に、黄色い瞳。白い鎧を身に纏い、右手には座する彼の膝ほどの長さの槌を地面についている。
眼前の男が誰なのか。誰がどう見てもひと目でわかる。
胸に手を当て、エスティアはその男に向かって軽く頭を下げた。
「使者の皆様をお連れしました、レオボルト様」
白の王国現国王【聖王】レオボルト・レイジングその人である。
「よぉ、レオ。相っ変わらず堅苦しい格好してやがんなぁ」
「そういう君の格好は少し自由すぎるんだ、ザイン」
師匠と軽く言葉を交したレオボルトの視線が、次に俺達に向けられる。
「よく来てくれた、棟梁ウィー。それにそちらの方々も。私がこの国の王、レオボルト・レイジングだ」
「俺はヴィレン。で、こっちがリヴィア」
ついでに、リヴィアのことも紹介しておく。
こいつは――いやこいつら神々は名乗るという行為をあまり好まない。まず、わざわざ名を名乗るメリットがない。名乗ったところで何も変わらないし。そして第一に、神である自分の名前を知っているのは至極当然のことだと思いこんでいるのだ。
まぁ、それも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが・・・・・・。神器に封印される前の神々にとって、俺達に対する認識など俺達がアリに向けている程度のモノだったのだ。わざわざアリに自分の名前はヴィレンです、なんて馬鹿らしいことはしないだろ? フェンリルなど一部の神には例外もいたそうだが。
続いてフィーナが頭を下げる。
「妹のフィーナです」
その隣、アリシアが頭を下げる。
「嫁のアリシアです」
こういう場でのアリシアの礼儀作法を見ると、やはり貴族なのだなということを再認識せざるを得ない。
そして最後にカルラが頭を下げた。
「弟のカルラです」
「――ってヲイ。お前いつ弟になったんだおい」
「あー、わり。年齢的に兄貴か俺」
「いや、そういう問題じゃねぇから」
血も通ってねぇし義兄弟でもねぇし。ぶっ飛ばすぞ。妹はやらんぞこの男にだけは。
そんな俺達のやり取りなどあまり興味なさそうに、レオボルトの眼が捉えていたのは――
「ふむ。破壊神リヴィア殿、ですか。お目にかかれて光栄の至り」
「ほぉ。私のことを知っているのか?」
「勿論ですとも。神々の中でも最強と謳われし、三柱が1柱。世界の均衡を保ちし維持神に、世界の原初を築きし創世神。そして世界に終焉を齎せし破壊神」
リヴィアがその三神であることは既に知っていたが、ここまで格好良い紹介文を聞いたのは初めてだった。だから、俺は思ったことをそのまま口にした。
「最後の物騒な神様だな」
「あまり褒めるな。照れるだろう」
照れる要素がどこにあるのか分からない。
「そして封印後初めて破壊神の器となりし、永久の勇者」
破壊神の器……つまり神器を手にした者ってことか? だったら回りくどい言い方せず、初めからそう言ってくれればいいのに。頭がいいからって、このヤロー。
「俺のことも知ってるってわけか」
そう言うと、レオボルトは視線を白金色の髪の少女へ向けて、
「君の話はそこにいるエスティアから何度も聞いてい……」
「――レオボルト様。そろそろ本題に移るべきかと思います」
エスティアに言葉尻を取られたレオボルトは「ふむ。それもそうだな」と頷いて、
「では、"話し合い"をしようじゃないか。王国の使者たちよ」
声のトーンを落とし、極めて真面目な顔で微笑んだ。




