第63話 旅の終着地
ようやく20万文字超えたぜいっ
白の王国総人口およそ300万。内約40万を『冒険者』が占めており、王都ルクシオンを中心に40万規模の都市が6つ存在。他にも多数の村や町などがある。
白の王国最大にして最古の都市であるルクシオンは、五大国ができる以前から栄えている人間の都市だ。人口はおよそ62万人。そして人口の約4分の1が冒険者であり、その中でも1%未満の冒険者しか到達できないと言われるSランク級冒険者のほとんどが、ここルクシオンに【クラン】を構えている。
それだけでも難攻不落と言える王都であるが、その王都をぐるりと囲む城塞を見て欲しい。リントヴルムの巨大城塞には劣るものの、年期としてはルクシオンの方が上。そしてリントヴルムの赤レンガよりも硬いとされる、白の王国原産の白土を使っているため、強度も折り紙付きである。
その折り紙つきの城塞の前、噂に名高きSランク級冒険者を始めとした猛者たちがズラッと顔を揃えているではないか。その数およそ百は降らない。出迎えならば嬉しいが、彼らの引き締まった表情を見る限り、その可能性は大変低い。
「何用で来た、他国の者よっ!!」
身の丈2メートル以上ある巨漢の男が声を張る。右手首についている金色のリングはSランク級冒険者の証。『暴牛』のクランマスター、ガドロフ・アーノルド。2年前の大戦では最前線を駆け、魔王軍幹部の鬼牙種『壊獣』バルガー・ベッドと"力"で渡り合った程の強者である。
「何用で来たって、分かってるくせに。白々しいにも程があるだろ」
カルラの呟きを無視し、ガドロフ達に向かって俺は応えた。
「俺はヴィレン。半月程前、白の王国の冒険者が不殺の誓いを破り、俺達の同胞を殺めた件について。どういった経緯でそうなったのか詳しい理由を説明し、それに見合った責任をとってもらうべく、ヴェルリムから使者として馳せ参じた次第である。
俺達の要求はただ一つ。【聖王】レオボルト・レイジングに謁見したい!!」
だが、俺の言葉は一様に斬り捨てられる。
「お主ら魔族と話し合うべきことなど何一つない。帰るがいい黒の者よッ!!」
彼らに俺達の話を聞く気は全くないようだ。そればかりか、親の敵のようにこちらを睨みつけてくる者までいる。
まぁ、だからといって、はいそうですかと素直に引き下がるわけにもいかないのだが。
「アンタはそれでいいのかガドロフ・アーノルド。このままだと確実に大戦が起こる。魔王バロルは既に大戦の準備を整え、他の3国も合わさればアンタら白の王国に勝ち目はない」
揺さぶりをかけたつもりだったが、これは盛大に失敗することとなる。
ガドロフの右隣に立つSランク級冒険者『白百合』のクラマス、リリー・ヴァイオレットの表情が目に見えて変わったからだ。
「何を言っているのですか・・・・・・先に誓いを破ったのはあなた達黒の王国でしょう――?」
可憐な華のような少女の口から発せられた、棘のある恨――待て。
「な、に……?」
待て待て待て。今、アイツなんつった? 先に誓いを破ったのは、俺達だと?
「ローズ姉様に、ライムくんまで。絶対に許しませんから――!!」
ローズ・ヴァイオレット。2年前の大戦のきっかけとなった『白薔薇』のクランマスター。姉であるローズが黒の王国の者に殺されたのだから、俺達を恨んでいるのも頷ける。
だが、彼女の口から出たもう1つの名前。"ライム"と聞いて思い浮かぶのは、同じくSランク級冒険者で『短剣隊』のクラマスを務めるライム・イーパーしかいない。彼は2年前の大戦を生き残り、現在も『短剣隊』を指揮しているはずだ。そう、そのはずなんだ。
「ちょっと待て。ライムって、あのライム・イーパーのことだよな?」
「とぼけるんじゃねェ魔族がァ。てめぇらが殺ったってこたァ割れてんだよォ!」
ガドロフの左2番目『盗賊団』クラマス、ウェルガー・クロウ。左手首には金のリング。大戦の際にはガドロフと同じく魔王軍幹部の1人、『百速』の異名を持つシャム・トイガーと互角に闘った猛者である。
「ちょっとちょっとー、ウェルくんさぁ? 決めつけんのは良くねぇって。も〜ちょっと心に余裕を持とうよ、ね?」
ガドロフとウェルガーの間。無精髭を伸ばし、後ろで髪を結った男。見た目はそこいらのおじさんにしか見えないが、この男もまた手首のリングの色は金。白の王国No2クラン『断罪』のNo2.ノウ・イェスマン。大戦では魔王軍幹部『赤服』ウラド・ブラッドと引き分けた実績を持つ。
「え。ヴィレンさん聞いてた話と違うんすけど、"黒"が先に手出してたってまぢっすか?」
「や、俺も初耳」
カルラやリヴィア達に視線で問うが、4人とも首を横に振る。
情報の隠蔽、もしくは情報の遅延か? それとも彼らが勘違いしているだけかもしれない。どちらにせよ、やるべきことは変わらない。
「悪いが、俺達にそんな情報は入ってきていない。だがもし仮にその話が本当だとするなら、尚更話し合う必要があると思うんだが。違うか?」
「ほらー、知らないって言ってるじゃん?」
「知ってようが知ってなかろうが、知らねぇって言うのが当たり前っすよノーさん」
「知らないなんて言わせない。やっぱり魔族は全員殺してしまいましょう」
なにやら物騒な話し合いが始まった。冒険者達があーだこーだと口論を初めてすぐ、二人の我慢が限界を迎えた。
「――チッ。うっせぇな。こっちは長旅で疲れてんだっつーの」
「ほんとっす。うちらはアンタさん達とお喋りに来たわけじゃないんすから」
そう言うと、師匠とウィーの二人は冒険者達の方に向かって歩み始める。それに気づいたガドロフが止まるよう忠告を投げるが、二人とも足を止める様子はない。
道がなければ切り拓く。道が塞がれていようと斬り拓く。一度歩み始めた『王』は、誰がなんと言おうと止まらない。
二人の『王』の大きな背中に続きながら、俺はそんなことを思った。
「止まれと言っているッ!!」
ガドロフの魔力のこもった威圧。それを涼しい顔でスルーしながら、師匠とウィーは道を塞ぐようにして立つガドロフの前で足を止めた。
「テメェ、さっきから誰に向かって口聞いてんだ、ぁあ?」
ああ、こりゃ不味いなと思う。
「お主らに決まっているだろう。他に誰がいる?」
ガドロフの返しに、ザインは声を出して笑った。
「俺の顔を知らねぇとは、さぞや楽な人生送ってんだなぁ――テメェら」
頼むから揉め事を起こさないで欲しいと願う他ない。
「まぁまぁザインさん。白の王国のビビリさん達は、ビビってうちらん国まで来れないんすから、そんなこと言っちゃ駄目っすよ」
ほんと。頼むから揉め事だけは勘弁してくれ。
「誰が誰にビビってるってェ? もっかい言ってみろよガキィ」
ピキッと音が聞こえた。ウィーの方から。
ウェルガーはウィーの前までくると、腰を折って身長の小さなウィーと目線を合わせて至近距離から睨眼を飛ばす。それを真正面から見つめ返し、
「おやぁ、聞こえなかったんすかぁ? アンタがうちにビビってるって言ったんすよ、――クソガキ♪」
「――ッ!!」
ウィーの小さな身体から発せられる濃密な魔力を至近距離で感じ、ウェルガーの本能が全力で警鐘を鳴らした。
「――痛ったいよ、ウェルくん。僕がただのおじさんじゃなかったら軽く肋骨数本は逝ってたからね?」
ウェルガーが気づいた時には、真後ろにいたノウに全力の背中から突撃をかましていた。
「てめェ、一体何者だ……?」
額に冷や汗を浮かべながら、最大限の警戒を向けてくるウェルガーに対し、ウィーは堂々と言い放つ。
「緑の王国【棟梁】ウィー・リルヘルスっすけど、文句あるんすか?」
冒険者達がざわついた。
「緑の王、だと……?」「あれが噂の勇者殺し……」「いや、勇者殺し、な?」
あえて"元"とつけない辺り、かなり頭にキテたんだなぁと。
「では、ザインと呼ばれた貴殿、いや貴方様が……」
言いかけ止めたガドロフの言葉を、静かに師匠が紡ぐ。
「赤の王国【騎士王】ザイン・ドラグレクだ。文句あっか?」
さきほどよりも波打つ冒険者達。
「騎士王に棟梁だと!?」「嘘だろあれが!?」「どうして王がここに来るんだ!!」
あえて"赤の王"という肩書きを名乗る辺り、やはり頭にキテたんだなぁと。
「いいからそこどけ。邪魔なんだよデカブツ」
「ク――ッ!!」
ここを通していいものか、それともここで王達を敵に回すべきか。一瞬で思考を巡らせるガドロフ。結果彼は後者を選択肢、一歩横に道を譲った。
いい判断だと思う。ガドロフが前者か後者を選んだとしても、どのちみ結果は変わらないのだから。そこにあるのは、流さなくていい血が流れるかどうか、それだけだ。
拓けた道を、俺達は前へと進む。1歩進むごとに、後方に列を成していた冒険者達もガドロフに習い次々に道を開けていく。
そして列を成す最後の1人が道を譲った時、前を行く二人がふいに足を止めた。なにかあったのか、師匠の頭が邪魔でよく分からない。歩みを止めた師匠の横に並んだとき、ようやく理由が分かった。
開け放たれた城門の真下にいる1人の冒険者――。
透き通るような白金色の髪に、見る者を惹き付ける藍緑色の瞳。髪の色に合った純白の鎧に身を包み、腰には真白の鞘に収められた剣を差している。そして彼女もまた、手首につけているのは金色のリング。
「遠方より遥々(はるばる)ようこそお出で下さいました使者の皆様方。【聖王】レオボルト・レイジング様の元まで案内致します。どうぞ、こちらへ――」
過去に一度、俺はこの少女と剣を合わせている。これほど美しく、あれほど強かった少女のことを俺が忘れるはずはない。
「【幻想の勇者】エスティア・テイルホワイト――」
一礼し終わり顔を上げた少女の藍緑色の瞳と、俺の黒闇色の瞳が交差した。




