第59話 迷子の二人組
青の王国首都ミーティア。又の名を魔法大国ミーティアといい、この大海を統べる唯一の大国である。
国としての人口はおよそ100万。領土は海に浮かぶ大小様々な島のみ。他の大国と比べると領土は尚の事、人口もかなり少ない。
ではなぜ、そんな青の王国がこの600年間海の覇権を独占し続けてこれたのか。それは簡単な話、青の王国に大戦を仕掛けたところで勝てる大国が存在しないからだ。
理由は3つある。1つは青の大国が海にあるから。船を作って攻め込んだところで攻撃魔法陣と防御魔法陣を突破することが困難であり、仮に突破したとしても遠距離魔法で船を壊されTHE・ENDである。
2つ目が青の王国の圧倒的魔法戦力。他の大国と違い人口数=魔法使いの数である青の王国は、子どもから老人に至るまで戦力として数えることができる。しかも青の王国に住まう者は魔力の扱いに長けており、魔力を使えない低位の魔族や騎士では子供にすら勝つことはできないだろう。
そして3つ目の理由。それは青の王国唯一にして、世界最強の勇者がいることが大きい――。
『――我々青の王国は皆さんに助力することはできません』
分かっていたことではあった。なにせ青の王国には"不可侵の契"があるからだ。
5大国最強の青の王国がやる気になれば、大国を落とすことなど容易である。しかし青の王国は戦をするために日々魔法の研究をしているのではない。魔法使いは0から1を生み出し、1をそれ以上に変えることを目標にしている。新しい魔法を生み出し、人々の生活をより良いものとするために。故に青の王国は大戦をしたい訳ではないのだ。
そこで青の王国が掲げたのが"不可侵の契"である。他国を決して侵略せず、他国が攻めてきた場合にのみ実力行使で対処する、というものだ。触らぬ神に祟りなし。事実これを制定したおかげで、青の王国は安寧を手に入れた。しかし、ということ故に青の王国は他国を侵略することができないのである――。
話し合いが終わった俺達は、夕食までの時間町を見学することにした。消費した魔力を回復するため今日は青の王国に一泊し、旅の目的地である白の王国へは明日出発することになったのだ。
「やはり、バレないようこっそり魔法で外見を変えてみるのはどうでしょうか?」
町の案内中、ラフリフがそんなことを口にする。
「いやいや、そんなことしてバレたら一大事じゃないっすか」
「大丈夫ですよ。ティファに影武者になってもらえばいいだけの話ですから!」
なんだか楽しそうだ。
「そういう意味じゃないっす」
「勇者が5人と優秀な魔法使いが1人いるんだ。心配しなくともこの戦力なら白の王国くらい2日もありゃあ制圧できんだろ」
「そういう意味でもないっすから……」
「師匠が言いたいのは、それだけの戦力があれば青の王国の使者がいなくとも、聖王との話し合いには持ち込めるだろうってことだろ。多分」
「よく分かってんじゃねぇかヴィレン」
「ラフリスさんが大戦を止めるために動いて、逆にそれで青の王国が標的になったんじゃ笑えねぇしな」
話し合いが上手く行かず、もし白の王国との戦いになった際、そこに居合わせただけでも青の王国が契を破って他国を攻めたと勘違いするバカがいないとも言い切れないのだ。そうなってしまった場合、俺達がなんと言おうと国民の不満は止められないだろう。
「ですが、それでは皆さんがここまで来たことが無駄足になってしまいます。ミーティアに寄らなければ今頃皆さんは白の王国に着いているでしょうし、このままでは青の王国の、いえ私のメンツが丸つぶれです」
「まぁ、こういう理由でもなけりゃ、俺みたいな奴が他国の文化を拝める機会なんて一生なかったんだ。しかも青の王国なら尚更。この魔法都市を目にできただけでも、ここへ来ただけの価値は十分にあるさ」
5大国設立されて以来、他国と干渉せず鎖国を続けてきた王国だ。この600年の間、青の王国に入れたのは世界会議で入国を許可された4人の王とその付き人くらいのものだろう。故に今俺が青の王国にいるのは奇跡のようなものである。この旅にフィーナを連れて来て正解だったと、俺は心からそう思う。アイツのキラキラ輝いた顔を見ることができた、それだけでお釣りがくる。
「それ、うちとザインさんには当てはまらないんすけど、そこんとこどうっすかね?」
確かにその通りだ。師匠とウィーは一度ここに来たことがあるのだ。
「ではせめて、何か私どもにできることがあれば何でも仰ってください」
「そうか。なら抱かせろ、ラーフ」
「――それはできません」
ラフリスが即答するが、それでも負けずに師匠は口説き続ける。
見なれない顔の変な格好をした怪しい人物。町に人がいなくて本当に良かった。
そんな時、隣を歩くウィーが何かに気づいたように声を上げた。
「あれ、カルラさん達じゃないっすかね?」
ウィーの指差す方向。そこには濁った金髪の男と、透き通るような金髪の女がいた。向こうもこちらに気づいたようで、女の方が手を振りながらかけてくる。
「ヴィレンくーん!!」
走って近づいてきたアリシアは、俺の前で止まらずそのまま飛びついてきた。
「フィーナは一緒じゃないのか?」
辺りを見回したが、銀髪の少女の姿はない。
「カクカクシカジカではぐれちゃって、空中に文字が描いてあったんだけど、それがどこにあるかわからなくて。だからとりあえず町を走り回ってたら、カルラくんを見つけたんだけど……フィーナちゃんがいなくて!」
うむ。さっぱりわからん。
「要約すると?」
「俺らが絶賛迷子中だったってわけ」
こちらに歩いてきた連れの男――カルラが両手を広げてニコッと笑う。
「なるほど」
「空中に描いてあった文字というのは、伝言の魔法陣ですね。なんと描いてあったか覚えていますか?」
ラフリスがそう言うと、アリシアは記憶を辿りながら言葉を紡いでいく。
「えっと、特別魔法研究所? に行きますって描いてありました」
「あー、アイシャさんのところですか。分かりました。では私がご案内しますアリシアさん」
伝言の魔法陣が何なのかはよく分からないが、それを描いたのはきっとあの水色の髪の少女だろう。町に来たばかりのアリシアに行き先だけ告げるとは、何かよっぽどの理由があったのか、それともアリシア並に天然なのか。前者でないことを祈りたいが、後者であってもな……と俺は胸を撫で下ろしているアリシアを見据えて思った。




