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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第57話 騎士王の予感

 今現在俺達の侵されている状況をラフリスに説明した。その間ラフリスは話を遅延(ちえん)しないよう余計な質問などはせず、相打ちのみで俺の話に聞き入ってくれた。話が終わるとラフリスは一度大きく息を吐き、少し表情を曇らせ言う。


「そうですか。レオボルトさんが……」


 白の王。通称【聖王】レオボルト。世界に13人しか存在しない勇者(ブレイブ)の1人にして、国民のことを1番に考える良王として名高い。怒れば鬼のように強く、笑えば仏のように優しい。それ故国全体からの信頼も厚く、強さと人望を兼ね揃えた王としてその名を他国に知らしめている。

 そんな聖王だからこそ、今回の1件はおかしいのだ。


「何か良からぬ事情があったのではないでしょうか。でなければあの方が安易に掟を破るなど私には考えられません……」


 ラフリスも2年前の世界会議(レヴィジョン)でレオボルトの人となりを知っていた。


「大戦に発展するかもしれないリスクを侵してまで、不殺の誓いを破る理由っすかぁ」


「そうですね。例えば……」


 その言葉が。その一言が。俺の脳裏にある記憶を鮮明に呼び起こした。

『――例えば、白の王国が不殺の"誓いを破った"ではなく"破らなければいけない状況に陥った"とすると、この場合考えられる可能性は何があると思う――?』


「――――」


 ゾワッと肌が泡立ったことで俺は気づいた。無意識の内にその可能性を口にしてしまっていたことに。

 三者の目つきが変わるのと同時に空気が凍る。机上のコップにヒビが入り、宮殿の湖で優雅に泳いでいた魚達が目にも止まらぬ速さで岩陰へと姿を隠した。体感温度が一瞬氷点下付近まで低下し、ズシリという重みを持った魔力(リア)とプレッシャーに応接間全体――いや、"島"全体が震えているようだった。

 一触即発。何かきっかけさえあれば、今この場にて戦争が勃発(ぼっぱつ)しても不思議ではない。

 しかしその空気をいい意味でぶち壊してくれたのが、


「なんだ。ヴィレンさんもうちと同じこと考えてたんすねぇ〜」


 普段となんら変わらぬ笑顔で俺の顔を覗き込んでくる黒髪に檸檬色の瞳をした少女である。


「いや、こいつは俺じゃなくカルラの考えなんだ」


「あー、あの人っすか。ならこの可能性はボツっすね」


 その緊張感の抜けた声と表情と言ったら、今の今までコップにヒビが入る程濃密な魔力(リア)を発していた少女とは思えない。


「ですが、実際のところその可能性が1番大きいと私も思います。姿を変えることのできる魔法は存在するので、天使クラスの魔法となれば民衆に化けて王国に潜入するのは容易かと」


 こちらもこちらでラフリスに戻っている。こんなに綺麗でおしとやかな女性があれほど棘のある魔力(リア)を発するとは……、やはりこの人もまた【王】なのだと改めて思い知らされた。


「なるほどー。ザインさんはどう思うっすか?」


 ウィーが師匠に話を振ると、こっちも緊張感など欠片(かけら)もなく欠伸(あくび)をしながら言った。


「天使の介入、か。断言はできねぇがその線で大方間違いねぇだろう」


 するとウィーが興味深いことを口にする。


「それは、噂の"ドラグレクの感"っすか?」


 師匠の頬がピクリと動いた。だがそれだけ。師匠はつまらなそうに言う。


「・・・・・・いいや。こいつは俺の感だ」


 その答えに対しウィーは「そうっすか」と。


「なあ、ドラグレクの感ってなんだ?」


 師匠との付き合いは6年以上に及ぶが、赤の王国にいた時でさえそんな単語は耳にしたことがない。


「あー、ヴィレンさんは知らないんすか」


「私も初めて聞きました」


 俺とラフリスの質問に師匠は答える気がないようで、変わりにウィーが簡単に説明してくれた。


「うちもあまり詳しいことは知らないんすけど、ドラグレクの家系は代々天性の感を持って生まれてくるんす」


「天性の感……」


「そう。つまり第六感のことっすね。うちも実際に起こるまでは半信半疑だったんすけど」


「起こるまで?」


「ザインさんのお父さん、すかね。つまるところ先代の騎士王さんはそれがズバ抜けて鋭かったんすよ。それで実際に起こるまではって言うのは……」


 話の途中でウィーは師匠に横目を送る。この先を話していいものかと迷ったのだろう。しかし師匠はうんともすんとも言わず、ただ目を(つむ)って腕を組んでいるだけ。それを肯定と受け取り、ウィーは続ける。


「2年前ダンジョンから天使が姿を現し、世界を滅ぼすことをザインさんのお父さんが予想してたってことなんすけど、聞いたことないすかね? これけっこう有名な話だと思うんすけど?」


「へえー、知らん」


 まず師匠も人の子だということに驚いた。あの人の親父か、いったいどんな化物なのだろうと。


「一種の予知能力のようなものですかね。興味深い」


「うちも人伝で聞いた話なんで、それが本当かどうかは分からないんすけど――」


「――本当だ」


 今まで黙っていた師匠がぽつりと呟いた。それから頭をボリボリ掻きむしって、無精髭を擦りながら。


「当時は頭のイカれた騎士王だとか、散々な言われようだったっけなぁ。ま、そりゃそうだわな。根拠は感だとか、逆にソレを信じる奴の頭の方がイカれてんだろって。

 そんでわざわざ天使の尾を踏みに行って死んぢまったんだから世話ぁねぇぜ。おかげで俺が次の騎士王になれたっつうことに関してだけは感謝してるがな」


 そう言いハッハッハと師匠は笑いだした。口元を緩ませ、渇いた声で笑っている。辛気臭いことが嫌いな師匠らしい。


「なら、師匠の頭はイカれてるな」


 師匠の笑声が消え、「あ?」と睨まれた。


「だって、アンタだけは信じてたんだろ? 最後まで」


 確信していた。

 俺はこの人が嘘をつかないことをよく知っている。

 師匠が口にしたのはその人の悪い噂で、師匠自身どう思っていたのかは語っていない。そしてその人が死んで次の騎士王になれたことには感謝していると言っていたが、言いかえればその人が死んで感謝したのはそれだけだったということになる。

 口では嬉しそうに語っていたが、師匠は一言もその人の悪口を言っていない。そう言う男なのだ、ザイン・ドラグレクは。


「・・・・・・バーカ。んなわけねぇだろ」


 組んでいる足を組み換え、


「俺の頭は元々イカれてんだよ、でれすけ」


 そう言った師匠の口元が、少しだけ(ゆる)んだように見え――


「つうかよお、言うようになったじゃねぇかテメェ。誰に向かって頭がイカれてるだぁ、あ?」


 胸ぐらを捕まれた。座布団一枚もらってもいいくらの事を言ったつもりだが、師匠の揚げ足を取ったことに変わりはない。やべぇ、殺される。


「まぁまぁ、ザインさんがイカれてるなら弟子のヴィレンさんもイカれてるんすから。頭がイカれてる同士仲良くしなきゃだめじゃないっすか〜」


 仲介に入ろうとして、火に油を注ぐスタイルのウィー。


「1番イカれてんのはテメェだろウィー。まず年齢詐称か、ら――ッ」


 恐ろしい速さの拳が俺の前を左から右に通過し、右から左に戻っていくところだけは見えた。遅れて右側から鈍い音が聞こえ、視線を送るとそこには腹を抑え黙って俯く師匠の姿があった。


「話が随分脱線しちゃったみたいっすけど、そ言えば状況については話っすけど、うちらの目的についてはまだじゃないっすかね?」


 炎を無理やり鎮火させた油に言われ、俺はまだ使者の話をラフリスにしていないことを思い出した。


「そうだったな。俺達の顔ぶれを見てもらえば分かると思うんだが、レオボルトと話をするために青の王国からも1人使者を連れて行きたんだ」


「できれば権力と力がある人で、ラフリスさん辺りがベストっすかね」


 かなり欲張りな要求だと自分でも思うが、果たしてどうだろうか。


「なるほど。状況が状況ですし、応じない場合は実力行使も視野に入れている訳ですね。

 天使が関わっているならそれは世界の一大事です」


 ラフリスのやる気に満ち溢れた眼差しを受け、なんとかなりそうだと――


「――ですが」


 思ったのも束の間だった。


「我々青の王国は皆さんに助力することはできません」

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