第56話 ゲームの答え合わせ
名前当てゲームが始まり15分が経過し、その間ティファがフィーナに質問したのは4つ。残りはラスト1問だ。
「それでは最後の質問。フィーナさんの好きなタイプは?」
「・・・・・・あの、さっきから先生とは全く関係のない質問になってる気がするんですが……」
1問目が「出身地」2問目が「得意な魔法属性」3問目が「名前の頭文字」。ここまでは分かる。と言うかここまでで正解に辿りついている気がする。そして4問目が「フィーナさんと黒髪の人との関係」だ。正解が分かり、残りの質問でティファはこのゲームを悪用し始めている。
「そんなことないですよ〜。フィーナさんの先生について知るのにとっても重要なことなのです!」
「・・・・・・本当ですか?」
ティファがニコニコ笑って言った。
「本当です!」
全く関係のない質問だということをフィーナは察し、大きく息を吐いてから、
「フィーナの好きなタイプは、兄さんみたいな人ですかね」
フィーナは笑顔でそう言った。嘘ではない。現にフィーナはヴィレンのことが大好きである。
「優しくて思いやりがあって、なにより私に……いえ。やっぱり兄さんみたいな人ですね」
「・・・・・・本当ですか?」
ティファが疑いの目をフィーナに向けてくるが、
「本当です」
今度はフィーナがニコニコ笑顔でそう答えた。ティファは唇を尖らせフィーナを見つめるが、フィーナは動じずニコニコ笑い続ける。
先に折れたのはティファだった。ティファはなぜかホッとしながら、まるで同類を見つけたような表情で、
「そうだったんですか。実は私も兄のことが大好きで」
危なく「へ?」と声がでそうになった。
「どうか、しましたか?」
「いえ、何でもありません」
確かにフィーナはヴィレンのことが大好きだ。世界一好きだと言っても過言ではない。されどその『好き』は「家族」として「兄」としての『好き』である。どんなにフィーナがヴィレンのことを『好き』だったとしても、結局のところ「兄」は「兄」だし、それと一緒で兄さんがどんなに「妹」のことを『好き』だったとしても「妹」は「妹」なのだ。だから『好き』という感情が『愛している』に変わることは決してなく、それをお互いちゃんと心得ている。
え? それなら兄さんとアリシアさんのイチャイチャ行為を見逃してもいいんじゃないと? いえ。ソレとコレとは別問題です。兄さんを他の女に取られることは嫌ですし、兄さんにしても妹が他の男に取られることは嫌なのです。
と、大好きな兄さんのことを話していると今日の分の尺を使いきってしまうので、そろそろ話を戻しましょうか。
それでどうしてフィーナが危なく声を上げそうになったかというと、それはティファの仄かに紅潮した頬を見てしまったからだ。これはフィーナがヴィレンに抱く感情を通り越した『好き』、つまりは異性に抱く『好き』であるとフィーナは直感し、笑顔のまま静かに凍りついたのである。
そんなフィーナの心情など知る由もないティファは、「そうですか」と続けた。
「フィーナさんは、お兄さんとはどこまでしましたか?」
フィーナの中の何かが悲鳴を上げながら瓦解した。
「ドコマデト言ウノハソノ、ドウイウ意味デデスカ?」
「そのままの意味ですよ。ちなみに私は兄と――」
これ以上先を聞いてはイケナイと、フィーナの本能が大音量で警鈴を鳴らした。
「――そ、そういうことはあまり口に出さない方がいいんですよティファさん!!」
「そうなんですか?」
そのことをなんとも思っていないティファ。決して超えてはならない一線をティファが超えていないことを祈りながら、フィーナは慎重に言葉を選ぶ。
「はい。え、えっと……そういうことは2人きりの秘密にしたままの方がいいと言うか……、口に出すと色々アウトだと言うか……、とにかく! 内緒にした方がいいと、兄さんが言っていました!」
嘘だ。兄さんにそんなことを言われたことは一度もないが、この際仕方がな……
「そういえば、兄も他の人には秘密だからなって――」
「――はい。そろそろゲームの答え合わせをしましょうティファさん」
フィーナは考えることをやめた。うん。これはもう手遅れかなーと、フィーナは諦めた。
フィーナの言葉にティファはようやく話が脱線していることに気づき、ゲームをしていたことを思いだした。
「そうでしたね。フィーナさんの先生のお名前、私分かっちゃったんですよ」
それはそうですよねと。元々有名な方だし、頭文字「マ」を聞いた時点で確定してますよねとフィーナは思う。
「まず最初の質問に該当したのは3人でした」
最初の質問とは出身地についてだ。
「そして2番目の質問で1人に絞り、3番目の質問で確信しました」
やっぱり3番目までの質問だけで答えがでているじゃないかと、最後の2つの質問は別に意味はなかったじゃないかとフィーナは声を大にして言いたかった。
2番目の質問は得意な魔法属性。この質問の答えはかなり頭をひねった。フィーナはマーリンがどの魔法属性が得意なのか分からなかったからだ。なにせフィーナの知る限りマーリンはありとあらゆる属性の魔法を使いこなす天才である。そこでフィーナが思いついたのが、マーリンのよく使用する空間転移魔法。得意かどうかはこの際置いといて、この魔法は六大魔法属性から派生したもので、元を辿れば闇属性となる。だからとりあえず闇属性とだけ答えておいた。
「フィーナさんの先生の名前、それは・・・・・・」
いったいどんな罰ゲームが待っているのだろうと不安の絶えないフィーナを他所に、ティファは自身満々に言い放つ。
「マーズ・メイリッチ先生ですね!!」
「・・・・・・すいません。誰ですか?」
「何を言っているんですかフィーナさん。マーズさんは元・六色の1人で、賢王様より"闇の魔導師"の称号を与えられていた方なのです。ですが7年前に王国を出て行ったっきり行方知らずとなっていました。まさか黒の王国でフィーナさんのような魔法使いを育てていたとは驚・・・・・・え、マーズさんじゃないんですか?」
活き活きとマーズさんという人のことを語りだしたティファだったが、最後の一言は声に全く感情が入っていなかった。フィーナは申し訳なさそうに「はい」と頷く。
「まず、黒の王国に人間族の人はいませんよ」
するとティファは顎に手を当て、ブツブツと小さな声で考え始めた。
「出身地が青の王国で、得意魔法が闇属性の魔法使い。そして名前の頭文字がマ……」
ゆっくりと顔を上げたティファの額には汗が浮かんでおり、
「もしかしてフィーナさんの先生というのは、マーリン様なんて名前じゃ……」
おどおどとしたティファの発言を、フィーナは不思議に思いながらも肯定する。
「そうです、そのマーリン先生のことですけど?」
それを聞くや否やティファは勢い良く頭を下げ、張り詰めた声で、
「数々のご無礼大変失礼致しました"フィーナ様"! 今すぐアイシャ様の元へお連れ致します!!」
「え……?」
どうしていきなり敬語になったのか、訳が分からないフィーナはただただ状況を飲み込めずに立ち尽くした。




