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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第48話 不死の傲慢

 多数決――昔からカルラはこの決め方が大嫌いだった。多数派の意見が有無を言わさず少数派の意見を握りつぶす悪魔の決定法。


「おう、頑張るよフィーナちゃん……って、よく考えろよお前ら。青の国まで何キロあると思ってんだ何キロ」


「大丈夫っすよ。今の時期だとハウワード海岸から南東に200キロ進んだ辺りにあるっすから」


 地図通りなら、ハウワード海岸というのはここから3日ほど南下した先に位置する砂浜だ。

 今の時期だとそこから南東に200キロ進んだ先にある、か。

 俺の知る限り、青の王国は海に浮かぶ巨大な島のはずだ。そしてその島は年中海を漂っており、正確な位置を特定することはできないとされていた。そう、少なくとも黒の王国では。


「いやいや、無理だから。4、5回溺れ死ぬわ」


「カルラさんなら4回や5回、死んだうちに入らないっすよ」


「いやいや、5回死んでるし!」


「いいじゃないっすか、うちらと違って"減るもんじゃない"んすから」


「お前な〜」


 ウィーの軽口にカルラが苦笑を浮かべる中、突然場に銀輪の声が響く。


「――冗談でも、言っていいことと悪いことがあると思います」


「およ?」


 俺達は歩みを止め、その場で立ち止まった。それくらい真剣身の篭った声だったからだ。

 声を発したのは他でもない、フィーナだった。

 怒りでか、それとも元・とはいえ『王』に口を出す緊張でなのか、小さく握る拳が微かに震えていた。

 フィーナの揺れる瞳が俺を捉える。続きを言うかどうか迷っているのだろうか、とても不安そうで、それでいてとても芯の入った美しい紫紺の瞳。それらを見る限り"堪えきれなかった"という表現が正しいのだろう。


 誰しもがそうだが、"死ぬ"ということは"終わり"だということだ。今まで生きてきた年月が、学んできた知識が、鍛えて上げてきた力が、広めてきた見聞が、築きあげてきた地位が、全てが水の泡のように儚く消え去る。死ぬのが早いか遅いかの違いだけで、死は平等にもたらされる。

 だからこそ、だからこそ俺達は"死"に(あらが)う。必死に今日を生き、明日を求め続けるのだ。

 だが、カルラはそうではない。あいつは死ぬことに慣れてしまっている。死ぬことが怖くないのだ。心臓を穿たれようと、頭部を吹き飛ばされようと死ぬことはない。それが【不死の勇者(ブレイブ)】カルラ・カーターに与えられし能力。死にたくても、死ぬことができない"呪い"と言い換えてもいいだろう。

 死んだ者にとっても残された者にとっても、両親を失っている俺達にとってもそうだ。"死"は必ず誰かしらを"不幸"にする。それは心から愛した者を守れなかった奴かもしれないし、世界を救おうとして神に殺された奴かもしれない。確かに言えることは、フィーナと俺も不幸にされた1人であるということ。そして――だからこそフィーナは命の重さを知っている、ということだ。


 俺はフィーナに頷いて見せた。何かあったら俺が助けてやる。だから自分の言いたいことを言っていい、と。

 それを受け、フィーナは口を今一度強く引き結び、ウィーを見据えた。表情を崩さずに、強い芯の入った瞳で見つめた。


「不死身だからって理由で、怪我をすることが当たり前みたいに、死ぬことを当たり前にしないでください……!」


 初め驚いた様子のウィーだったが、


「不死身の力こそが、他の勇者とは違うカルラさんだけの能力なんすよ。それを使わないのは宝の持ち腐れじゃないっすかね?」


 と、いつものスタイルを崩さない。


「そうかもしれません。不死の能力こそがカルラさんの持つ特別な力だと、私もそう思います」


「だったら……」


「――ですが。だからと言って命を軽く扱うような行為を私は許せません。例え不死だとしても、それは明日を生きたくても生きれなかった命に対する冒涜です。

 これは私の想像ですが、きっとカルラさんに不死の力を与えて下さった神様は、カルラさんが死なないように、カルラさんを助けてあげたいから力を与えて下さったんだと思います。

 だから。死ぬことを前提にするなんて・・・・・・それは傲慢だと私は思います」


 左隣にいるリヴィアが「フッ」と嬉しそうに笑っていた。

 俺は肘でカルラの腕をつついてやった。カルラは柄にもなく恥ずかしそうに、嬉しそうに、それでいて悲しそうな表情をしていた。


「その通りっすね。半ば冗談のつもりだったんすけど、今のはうちが全面的に悪いっす。訂正させてもらうっすよ」


「あ、いえ! 差し出がましいことを申しましたウィー様」


「全然差し出がましくなんかないっすって。死ぬことが前提なんてそれは傲慢だ、聞いてたっすかカルラさん?」


「そりゃ一言一句逃さずに。てっきり求婚されたのかと――」


 反射的に身体が動いていた。


「調子にのるなよ、カルラ?」


「ねぇ、フィーナちゃんの聞いてたレンレン? 死ぬから! 拳刺さってるから!!」


 いつものカルラに戻っていた。身体を横に曲げ悲鳴を上げるカルラに。


「あーそだ、うちはもう『王』じゃないっすからね、様なんていらないっすよ、フィーナさん」


「は、はい……」


「かっこよかったよフィーナちゃん。妹なのに、危うく惚れかけちゃったよ!」


「やめて下さいアリシアさ……、待って下さい本当にやめて下さい。私はアリシアさんの妹でもないし、ましてや兄さんとの結婚なんて認めていませんからね?」


 フィーナとアリシアがじゃれ合う中、リヴィアが口を開く。


「レン、カルラが"死ねなくなった"のなら、どうやって海を渡る気なんだ?」


 そうだ。よくよく考えてみると問題は何も解決していなかった。さて、どうしたものか・・・・・・。


「そう言や、2年前の世界会議(レヴィジョン)のときはどうやって海を渡ったんだ?」


 2年前、大戦が中断させられ天使への対抗策を取るために設けられた世界会議。確か、あの時の開催国は青の王国だったはずだ。


「あぁ、そういや"あの手"があったな」


 師匠が思い出したように言う。しかし、同時にもう1人いる世界会議出席者は顔を引きつらせた。


「まぢっすか。うち、アレやるのはもう二度とごめんなんすけど……」

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