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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第42話 思いのすれ違い

 ラクアやヴィレン達を見送った後、カルラは1人森の奥地に存在する、とある泉へと足を運んでいた。

 王都に流れていた川の源泉である直径50メートル程度の泉。天井が木の葉の屋根で覆われている森の奥地で、陽の光が舞い降りているのはきっとここだけで。これほどまでに幻想的な光のカーテンを見ることができるのも、世界中探しても多分ここだけだ。

 泉に陽の光が降り注いでいる。ただそれだけのことで、他に珍しいものなどありはしない。しかし。それだけでここが神聖な場所だということは、教えられずとも理解できる。

 視界に入る木々や蔦から、ただ地面に生えている雑草やコケまでもが、そこに"ある"という事実だけで、そこに存在する全てが何人(なんぴと)にも犯すことのできない神秘的なものへと変わる。

 そんな神秘の中をカルラはゆったりとした足取りで進んでいき、泉の前で立ち止まる。神秘の中心である泉の水は、まるで鏡面世界に繋がっているのではないかと勘違いするほど、鮮やかに周囲の景色を、そしてカルラの姿をも映し出している。


「相変わらず、ここは変わんねえなぁ」


 カルラはわざと思ったことを声に出してみた。傍から見れば独り言を言っているふうにしか見えないが、カルラの感が正しければ恐らく――。


「当たり前じゃないっすか。【聖域】なんすから」


 カルラはなんとも言えないような笑みを頬に浮かべた。

 振り返ると、そこには1人の忍の姿があった。黒髪を短く切り揃えた見た目10代後半の少女。チャームポイントは顔の両脇から肩の辺りまで垂れ下がる2本の髪の触覚――。

 道中誰かにつけられていないか気配を探りながら進んできたつもりだったが、人の気配は感じられなかった。感じたとしてもそれはリスか何かの小動物程度の気配。まさかとは思ったが、まさかそのまさかが的中するとは。流石は忍――いや、流石は緑の王様と言ったところだろうか。

 そんな感想を胸に、カルラは(ふところ)から1本のクナイを取り出した。持ち手に華の文様が彫ってある以外、緑の王国で使われている物となんら変わらないただのクナイだ。


「こいつを見たとき、もしかしてとは思ったんだ。だけどまぁ、まさかもう一度お前に会えるとは思ってもみなかったよ、ちび助」


「ちび助っすか。懐かしいっすねぇ、その呼び方」


「そうだな。なにせあの頃はこんなにちっさかったかんなぁ」


「いつの話っすかそれ」


 自分の腰の辺りを手で示すカルラに、ウィーは苦笑いで応じる。

 2度と会うことはないと思っていた少女。彼女と再会できたということは、つまりそういうことなのだろう。マーリンやカルラとは違った方法で、彼女もまた"老い"を克服した1人なのだ。

 まさかウィーがあの時の約束を未だに覚えているとは思わなかったが、生憎カルラの周囲には約束に縛られている者が多い。そしてカルラもまた、約束に縛られている1人である。だからこそ、カルラは問わなければならない。

 カルラは笑みを消し、少し真剣な声で言った。


「・・・・・・俺のためか?」


 少しだけ、その場に静寂が舞い降りた。唯一聞こえるのは水が流れ行く音だけ。


「別にカルラさんのためとかじゃないっすよ。うちはうちの好きでやってることっすから。だからあんたさんにどうこう言われる筋合いはないし、筋合いが合っても言われたくないっすね」


 そう言って、ウィーは笑った。


「そっか」


 つられてカルラも笑う。半ば愛想笑いだったけれど。


「そうっすよ」


「なら、いいんだけどさ」


 これ以上この話をするのはやめたほうがいいだろう。そう思い、話題を変えるためにカルラは思考を巡らせる。


「そういや、ついて行ってやんなくてよかったのか?」


「何がっすか?」


 首を傾げるウィー。主語が抜け落ちるのはカルラの悪い癖だ。


「んーと、ラクアちゃんだっけ? すっげー心配そうな顔してたじゃんあの子」


「あー。あの子なら大丈夫っすよ」


 それからウィーは少し遠くを見つめて。


「うちと違って、あの子には"仲間"がいるっすからね」


 その視線の先が、今現在ラクア達がヴァナラと交戦している方角なのか、それとも単に視線をそらしただけなのか。嬉しそうな、それでいてどこか寂しそうに笑うウィーを見て、カルラには彼女がどこか遠い場所を、記憶を辿っているように思えた。


「・・・・・・」


 カルラは何も言い返さなかった。何も言い返せなかった。

 普段の彼ならば「なにあの子にはって? その言い方だと私ぼっちですーって自白してるようなもんだぜ?」などとからかったかもしれないが、流石にそこまで空気を読めない彼ではなかった。

 それに。少しばかり長く生きているカルラにとって、ウィーの気持ちは分からないでもなかったから。

 なんて言えばいいのか考えているカルラを横目に「そんなことより」と今度はウィーが話題を変える。


「今回カルラさん御一行は名目上お客様の"立場"でこの国に滞在を許してるわけなんすけどー、そのお客様の"分際"で勝手に動き回られたりすると困るんすよねぇ。

 ――しかも。【聖域】まで見られたとなると、口封じに沈めるしかなくなっちゃうっすよ?」


 挑発的な言い方をしてくるウィーに、カルラも乗ってやる。


「何言ってんだよ。ここを最初に見つけたのは俺だぜ?」


「そうだったんすか。それならカルラさんを殺せば所有権がカルラさんからうちに譲渡されるっすよねぇ?」


 挑戦的に笑うウィーの両手には、既にクナイが握られていた。それを見据え、カルラは苦笑混じりに手をぷらぷらと振って降参の意を表す。3年前ならともかく、今は駄目だ。流石にこれには乗ってやることはできない。


「お前の場合は洒落になんねぇからな」


 それを聞いて、ウィーはどこか寂しそうに微笑んだ。まるでカルラがそう答えることを知っていたかのように。それを隠すように「つまんないっすねぇ」と呟いてから。


「それなら、うちはそろそろ戻るとしますか。ザインさんを1人にしといて、帰った時に里が失くなってたんじゃあラクアになんて言われるかわかったもんじゃないっすからねぇ」


 太刀を抜き身に、燃え盛る王都に立ち尽くすザインの姿がなんと映えるものか。安易に想像できてしまうところが恐ろしい。


「ハハハ……。ま、俺ももう少ししたら戻るさ」


 ウィーは後ろ向きに軽く右手を上げ、森の中へと消えていった。

 森の奥地に1人残されたカルラは、右手に持つクナイを見つめ、ほんの少しだけ記憶に浸ることにした。

 


✽✽



「――よく、頑張ったわね」


 一瞬。なんて言われたのかわからなかった。

 顔を上げてリーサの顔を見る。

 脳が理解するまで数秒かかった。


 叱咤されるどころの話ではない。現状がどうのこうのとか、負傷者はどのくらいでたんだとか、そういうことを聞く前に彼女はそう言ったのだ。そう、言ってくれたのだ。


「よく、耐えたわね」


 優しく微笑みかけられ、頭を撫でられて。緊張がとけて、今まで我慢してきたものが音を立てて崩れていく。

 少女の美しい若緑色の瞳から一筋の雫がこぼれ落ちた。遅れて嗚咽がこみ上げてきて、それと一緒に涙も一滴。また一滴と。


「私……ウィー様みたいにみんなのことを守れなくて、リーサさんの期待にも応えられなくて……!!」


 気づいたらそんなことを口にしていた。涙を止めようとして、何か言葉を発さなければと思って、ようやく口に出した言葉がそれだ。ろくに思考もできない。今はただ、思いつく言葉を口にするだけで精一杯だった。


「よーしよし。よく我慢した。よく頑張ったね」


 身体を優しく抱きしめられ、背中をさすられた。こんなに優しいリーサさんはいつぶりだろうか。


「ごめんねラクア」


 語りかけるようにしてリーサが言う。


「私達は今まで棟梁に頼りきりだった。だから新しく棟梁になるあなたにも、ウィー様のように私達を引っ張っていくようなリーダーになってほしかった」


 ラクア自信もそうなりたいと、そうならなくてはと思っていた。それ故ラクアにはリーサが何を伝えようとしているのか想像できなかった。

 そしてリーサは「でもね」と続ける。


「そこにいる勇者の少年が教えてくれたの」


 そこにいると言うのだから近くにいるのだろうけれど、生憎ラクアの視界は歪んで何も見えやしなかった。でも。今、勇者の少年といわれて思い浮かぶ人物は1人しかいない。今日、使者としてここに来た少年だ。組手の途中にウィー様の胸を揉みしだいた黒い髪をした少年だ。


「頼って何が悪いんだって。あんたが隣でラクアを支えてやればいいだろって。

 その言葉で私は気づかされた。今まで私達は何でもかんでもウィー様に頼りきりだったと言うことを。そのことが当たり前だと勘違いして、それをあなたにも押し付けようとしていたことに」


 ラクアを抱きしめる力を緩め、リーサはラクアの眼を真っ直ぐに見つめる。


「だから、これからはあなた1人で頑張らなくていいの。私があなたに頼る分、あなたも私に頼って欲しい。そうやって、今度は皆で緑の王国を守っていきましょう!」


 その様子を近くで見守っていたメイラが微笑む。


「そうだラクア! 俺達にもどんどん頼ってくれや!!」


「期待してるぜ"新棟梁"!!」


 カクにゲル。後ろで待機しているメンバーも次々に声を上げ始た。


「ウィー様も言っていたけれど、あなたはあなたが思っている以上に強い。そして王国の皆からも慕われているの。

 だから自分なんかが、なんて思ってはダメ。もっと自分に自身を持ちなさい。大丈夫よ。何があろうと、私があなたの隣にいてあげるから」


「リーサさん……」


 リーサはヴァナラの方へと視線を向けて。


「王になる手始めに、まずはあいつらを片付けちゃいましょうか」


 ラクアはぎこちなく頷いた。未だラクアは自分に自信を持てずにいる。目の下は赤く、まだ潤んでいるものの、その瞳からは既に戸惑いの色は消えていた。今はそれでいいとリーサは思う。自信は後からついてくる。この子が王になり、1人前になるまで自分が側で支えてあげればいい。この子ならきっと大丈夫だ。ウィー様を超える棟梁になることができる。リーサはそう確信している。

 だってこの子は――。


10回以上読み返してるけど、今回のは個人的になにかが気持ち悪い。多分だけど、ぼくが泣き虫で自分なんかだめだめです〜って言ってる子見てるとイライラするからかな。じゃあ書き直せよって話だけどね

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