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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第38話 驚異の脅威

「・・・・・・引き継ぎ?」


 その単語に、俺を含めその場に居合わせた大半の者は首をひねった。今この場でいったい何を引き継ごうというのか・・・・・・。ラクアまでもが疑問を浮かべる中で、他のエルフと忍達だけがその言葉の意味を理解し、「ようやくか」と言いたげに微笑んでいて。そんな皆の様子など全く気にも止めず、ウィーは大きな声を出す。


「緑の王国最大戦力『影』と並ぶ『三本の弓』の1人にして、『月雫(げつな)』の勇者(ブレイブ)ラクア・ディッファニー!」


「は、はい……?」


 急に名前を呼ばれ、個人情報を流され、行動の意図が分からないと困惑顔のラクアに構わず、ウィーは続ける。

 

「身長168cm、体重52kg!!」


「え、ウィー様?」


「上から順に、93、57、88のナイスバディっす!」


 そこにいる白金髪のエルフやボインな忍よりも数カップ上のぷっくらとした柔らかそうな胸部。くびれたお腹から腰へかけての見事な曲線美。そして最後に待ち受けるわ、これまた破壊力のあるプリンッとした臀部。

 これはもう一種の芸術と言っても過言ではない。まさにボンキュッボンを体現した少女である。


「わーお」


「何を食べればあんなに大きくなるんでしょうか……」


「いや、あれくらいになるとかえって邪魔になるぞ?」


 アリシアとフィーナ、リヴィアがそれぞれに反応する。


「ウィー様あぁッ!?!」


 スリーサイズを暴露されたことと、なぜそれを知っているのかという羞恥に、今にも火を噴きそうなほど顔を真っ赤に染めたラクアに構わず、ウィーは続ける。


「しかも39歳独身処女!!」


 魔人種や人族でこれなら顔が引きつるのも無理ないが、エルフならば話は別だ。寿命が俺達の倍近くある上位魔族は、生きた年数÷2が魔人種や人間族の年齢で数えられる。

 つまり、目の前にいる"少女"は、人年齢における19.5歳独身処女と言い換えることができる。

 あとこれは俺の推察なのだが、あそこにいる見た目年齢16、7歳のアリシアを見ていた限り、彼女だけが例外でなければ見た目年齢に比例し精神年齢も寿命÷2だと俺は睨んでいる。


「うん、完璧だ」


「嫁に欲しいくらいだな」


 カルラと師匠が腕を組み、深々と頷いた。


「ウィー様あああああっ!!!!」


 もうやめてくれと、今にも泣きだしそうな顔のラクアに構わず、ウィーは続ける。


「ってなわけでラクア。今からあんたさんが、新しい棟梁っす」


「もうやめてくださ……、え・・・・・?」


 今、何と言われたのか。ぽっかりと口をあけ、間の抜けた顔のラクア――いや、彼女だけではない。


「おいおい、このタイミングでかよ……」


「引き継ぎって、このことかぁ……」


 などと、後ろの方からそれぞれの反応が聞こえてくるが、そんな俺達に構わず、ウィーは続けた。


「ま、最初のうちは色々と苦労すると思うっすけど、後のことは――」


 そこでようやく、俺達よりも一足遅く脳の処理が追いついたらしいラクアが悲鳴にも似た声をあげる。


「ままま待って下さいウィー様!!?」


「なんすか?」


 ウィーは不思議そうな顔でラクアを垣間見た。彼女にとって、本当に心の底からの「なんすか?」である。


「なんすかじゃないっすよ、なんすかじゃ!! いきなりアンタが今から棟梁っすとか言われても困るんですけど!?」


「そこをなんとかするのが王様の腕の見せ所じゃないっすかー」


 なんと軽いのだろうか。ふざけているのか本気なのかわからない様子のウィーに対し、風が吹きそうなほどの勢いでブンブンと首を振りながら、ラクアは声高に叫ぶ。


「いやいやいやいやいやいや。腕の見せ所とかの問題じゃないでしょ!! 王位継承ですよ、王位継承!!? 分かってますか!? そんな軽はずみで、しかも仲間はずれは嫌だからって理由でするものじゃないですからね!!!」


「心外っすねぇ。軽はずみじゃないっすよ。うちのはアンタさんのみたいに弾んだりしないっすから」


 自分の胸元を手でなぞってみせるウィー。確かにこれは弾みそうにない。


「真面目に答えて下さいッ!!」


 半泣きのラクアに流石のウィーも「まぁまぁ」と苦笑いだ。


「そうっすねぇ、うちもそろそろ王位を譲んなきゃってのは前々から考えてたことっすから」


「そんなこと言われても、私には無理ですよ!!!」


「そうっすか?」


「だからそうですって!! みなさんも黙ってないで何か言ってくださいよぉ……」


 ウィーの説得を無理だと判断したらしいラクアが、期待の眼差しを他のエルフ達に送る――が。


「何か言えって言われても、ねぇ?」


「うむ。異論はない」


「反論もないわ」


「な、何でですか、何でみなさんそんなに冷静なんですかぁ!!?」


「前々から次の棟梁がラクアだってことはみんな薄々気づいてたわよ」


「それは違うなメイラ。ラクア以外だ」


 助け舟を送ってもらうはずが、まさかこんなことになるとは。顔を青くしながらラクアは最後の頼みの綱である、白金髪のエルフの肩にしがみついた。


「リーサさあぁん……」


 リーサは同じ森精種(エルフ)にして、仲のいい先輩。ラクアはこの女性を姉のように慕っていたし、彼女もラクアを妹のように可愛がってくれていた。

 この人ならば、と。ラクアは最後の期待を彼女に寄せていたのだが。


「いいじゃない、棟梁になっても。なろうとしてなれるものじゃないわよラクア」


 リーサはそう言いながら微笑んだ。逃げ場を失ったラクア。次に彼女が取った行動はというと。


「お願いだから、ルナも何とか言ってよ……!」


 背中に背負っている弓に語りかけることだった。

 傍から見れば、武器に語りかける頭のおかしいエルフだが、あれがただの武器ではないなら話は別だ。これであの弓が神器であることは証明された・・・・・・はずなのだが、いくら語りかけても弓に変化の兆しは見られなかった。


「ルナさんは人見知りっすからねぇ」


 ニヤニヤとウィーは笑う。先程の言うことを聞かない子どもを叱る母親の図はどこにいったのやら。これでは子どもに弱みを握られ助けを求める母親の図である。


「無理ですよウィー様……。だって、私は……!!」


 ラクアは押し黙った。唇を噛み締めるようにして、強く拳を握りながら。

 それを見て、ウィーは優しく微笑んだ。幼い見た目には似合わない、まるで我が子を慈しむような顔で。


「だって私は、なんすか?」


 戸惑うように、助けを乞うように、逃げ場を探すように、ラクアの視線は右左を行ったりきたり。少しの間の後、ポツリポツリとラクアは呟いた。


「だって私は・・・・・・魔族(エルフ)です」


 そう言い終えたラクアは目を伏せた。上位魔族であるエルフのどこがダメだというのか。魔族は王になってはいけないという掟があるのか、それとも別の何かか。理由はわからない。けれども、ここで俺達が口を挟むことだけは決してならない。それをアリシア達もちゃんと(わきま)えている。


 それから、少し重たい静寂の後で、愛おしい者に語りかけるように、ウィーが口を開く。


魔族(エルフ)の、何がいけないんすか?」


 目を逸らしながらも、ラクアは小さな声で応じた。


「・・・・・・ウィー様も知ってのとおり、歴代の棟梁にエルフはいません」


「確かに、いないっすね」


 ウィーはちょっとだけ考える仕草をみせる。


「そうですよ! だから……」


「――でも。森の掟にはそう書かれてないっすよ?」


「それは……」


 ラクアは一瞬口籠ってから、強い口調で――。


「それでも、エルフは棟梁になるべきじゃ……」


「――逃げちゃだめっすよ。ラクア」


 それをウィーが上から遮る。とても落ち着いた声。それでいて有無を言わせないような、そんな声でウィーは続ける。


「エルフは棟梁になるべきじゃない。――違うっすよ。あんたさんは、単に自分に自身がないだけっす」


 ピクッとラクアの肩が震えた。


「そうやって、いつまで逃げ続ける気っすか?」


 ギュッと口元を強く引き結んだ。


「いつまでも逃げ続けられると思ってるなら、それは大間違いっす」


 責めいるように、傷を抉るように。ウィーはふざける様子もなく、すごく真剣な声で言い放った。

 それを受け、ラクアは目を伏せる。次いで左斜め下へ。それから、薄く力ない苦笑いを浮かべて。


「・・・・・・ウィー様は、よく分かってらっしゃいますね……」


「大切な、家族(なかま)っすからね!」


 そう言ったウィーは、いつものウィーに戻っていた。


「でしたら、私なんかよりも棟梁になるべき器の方は沢山いることも分かってらっしゃるはずです……!!」


「例えば、誰っすか?」


「例えば……、影の皆さんとか」


「他には?」


「私以外の、3本の弓の人達です」


「そうっすかねぇ?」


 感情に任せ、ラクアの声は次第に大きくなっていく。


「そうですよ!! 本当は、私なんかが3本の弓に入っているのもおかしんです。勇者になれたのだって、たまたまですし、私なんかが……」


「――違う」


 どこからか小さな声が聞こえた。その声は俺達のではない。ましてや忍びやエルフ、ウィーやラクアのものでもなく、それはとてもとても幼い女の子の声だった。

 声のした方――即ちラクアに皆の視線が集まる。ラクアはゆっくりと、後ろを振り返った。

 するとそこには、小さな一人の女の子が立っていた。


「らくあは、弱くなんかない」


 月色の綺麗な髪を伸ばした女の子。まだ6歳か7歳という幼い容姿の、今にも泣き出しそうな女の子。下唇をギュッと引き結び、膝近くまである丈の長い上着の袖を掴むその手は微かに震えている。

 いつも自分の隣にいてくれた女の子。ラクアは、その少女の名前を紡いだ。


「ルナ……」


 少女――ルナは右左に視線を送り、眼に涙を浮かべながら、それでも勇気を振り絞って――。


「らくあは弱虫だけど、泣き虫だけど、頑張り屋さんで、とっても優しいの私知ってる。

 いつもみんなのこと1番に考えてる。さっきだってそう。森のみんなのために、うぃーが行かないようにらくあ頑張ってたの」


 声は震え、途切れ度切れになりながらも、ルナは続ける。


「あの日も、らくあが私のところにきたとき、らくあは自分の為じゃなくて、みんなを守るために力が欲しいって言った。私は、そんなラクアの力になりたいって思ったの。

 だから・・・・・・私がラクアを選んだのは、たまたまなんかじゃない。勇者になったのがたまたまなんて、そんな悲しいこと・・・・・・言わないで……」


 言い終えた後、少女の目尻から一滴の雫が零れた。それは一滴、もう一滴と。

 そこで、ようやくラクアは気づく。自分は言ってはいけないことを言ってしまったのだと。すぐさまルナに駆け寄り、膝をついて抱きしめる。


「ち、違うのルナ! ごめんなさい……」


 そんなつもりで言ったんじゃなかった。

 極度の人見知りで恥ずかしがり屋のルナが自分から人前にでるなど、ラクアがルナと一緒になってから初めてのことだ。それほどまでに、この子を深く傷つけてしまった。

 しゃくり上げるルナを抱きしめるラクアの瞳からも、一筋の雫がこぼれ落ちた。


 そのときだ。空気を読まず、大きな声と共に1人のエルフが姿を現したのは。


「棟梁大変だ!!」


 やってきたのは男のエルフ。急いで来たのだろう、額には大粒の汗を浮かべており、その息は酷く荒い。


「全く空気を読もうとしないあんたさんの方が大変だと思うんすけど?」


 ウィーの容赦のない指摘を受け、エルフの男はようやく自分の過ちに気づいた。


「え? あ。いや、そんなつもりは……!!」


「いや〜、この空気をぶち壊すくらい大変なことって、いったいなんすかねー?」


 威圧と脅しの入ったウィーの質問に、エルフの男は一瞬だじろいだが、気を引き締めなおすように一度強く瞼を閉じてから、真剣な面持で。


「西方の森から、"ヴァナラ"の大群が攻めて来ました……!」


 まるで時を図ったかのようなタイミングに、ウィーの口元が小さく緩んだ。

微変更点

・破壊の勇者→永久(とこしえ)の勇者

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